人間無双
三〇分後。ニンゲンを遥か後方に置き去りにしてエマ達は走り続けた。
そして疲れがピークに達して、四人はサバンナの樹の下で小休止をする。
「ふー、流石に、かなり疲れたでありますな」
ローアは肩で息をしながらも、軍人らしく背筋を伸ばしたまま樹の下に座り込む。
ジュリーとパンリーも頷く。
「しかし往復六時間、普通に考えればとてもではないが無理だぞ」
「船でダチョウを借りても無理ね。ダチョウの足でも四〇キロの距離を三時間でなんて」
エマが、深刻な顔で指をあごに添える。
「何か良い方法を、伝書鳩を連れて来るべきでした……」
四人が難しい顔で、休みながら考える。
走らないと始まらないので走るが、このままでは確実に間に合わない。
確かに死んでも王国の神殿に帰るだけだが、それまでネイアとノックは何時間も毒の症状に苦しむし、爬虫類族と同盟も結べない。
そうやってしばらく休んでいると、四人の耳が動物の息づかいを捉えた。
『何だ?』
自分達が来た方向を振りかえると、地平線の向こうに、小さな影が見えた。
影はだんだん大きくなってくる。
『!?』
正体に気づいて四人は目を丸くした。ニンゲンだった。彼が、走り始めた時と全く同じ調子で走って来た。
訳が解らないまま、ニンゲンが真横を通り過ぎて行った。
また振り返って、しばし唖然としてから、ようやくエマが口火を切る。
「お、追いますよ!」
「「「はは、はい!」」」
まだ体力は回復しきっていないが、狼と馬とジャガーと豹の四人は立ち上がって駆けだした。
四人が走れば、人間の背中はどんどん大きくなる。やがて並んだ、追い抜いた。
走り続ける事二〇分、また疲れて来て、四人は近くの樹の下に座り込んだ。
その横を、ニンゲンが追い抜いて行く。
また四人は立ち上がって走り出す。
疲れた体に鞭を打って四人は走った。
ニンゲンの背中を捉えて、並びそうになって、ジャガーとパンリーが倒れる。
エマとローアはニンゲンの横を走って、でも追い抜かせなくって、やがてローアが倒れた。エマはなんとか食らいつくが胸がどんどん苦しくなっていく。
心肺機能が限界以上に酷使されてしまい、エマは胸と喉が痛くて仕方ない。
そのままエマもへろへろになって、サバンナの大地に膝を折る。
けれど、ニンゲンはスタート時とまったく変わらない調子でみるみる離れて行った。
その光景を、エマは四つん這いになったままかすれる視界で見送った。
「……ニ……ニンゲン様……は、頭が良いですが……体力はない、はずでは……」
エデンには、これまで何人ものニンゲンが召喚されている。
記録では、彼らはエデンに様々な文化や知識をもたらしたが、身体能力に関しては恐ろしく華奢なはずだった。
今回のニンゲンも、ネイアと戦った時は子供のように扱われていた。
エマは理解不能のまま、疲れ過ぎて動けなくなってしまう。




