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試練

「よし、おい! あれをやるぞ!」


 ゼノミラスさんの指示で、数人の爬虫類の女の子が僕らのもとに来た。


「解毒剤は私が預かります」


 解毒剤持ちを担当していた、ポーリーとエマ、ニーナが解毒剤を手渡す。


「では皆様はこちらへ、説明は目的地に着いてから」


 ここじゃ駄目なの?


 と思いつつ、僕らは彼女たちに連れられるがまま、歩き続けた。


 地形による試練なのかな?


 仮に水辺での試練でも、こっちには半水棲のカバ族ポーリーがいる。


 暗い所でも、コウモリ族のクロナがいる。


 ゼノミラスさんは無理難題って言ったけど、どんな試練でもこっちの人材の豊富さを考えればきっと勝てるだろう。


 って、そういえばデスゲームという事は、きっと誰かに毒を吞ませて、毒が回りきる前に解毒剤を手に入れるっていうんだろうけど、誰がその役をするんだろう?


 女の子に危険な役はさせたくないけど……


 歩きながら僕は言う。


「みんな、毒を吞む役は僕が」


 口々に言われる。


「あんた死んだら生き返らないでしょ?」

「自分の立場をわきまえて下さい」

「この中で最重要護衛対象なんですよ?」

「はい、ごめんなさい……」


 僕は謝った。

 一時間以上歩くと、ついにジャングルから出てしまった。

 試練って、ジャングルの外でやるの?

 僕がそう思っていると、爬虫類族の子の一人が、ひと際背の高い木を柱に作られた、櫓のハシゴを登って行く。

 地上に残った数人の爬虫類族の子が、僕らを振り向く。


「この櫓が目印だ。この櫓を目指して戻って来い」


 なんの事が解らなくて、僕は頭上に疑問符を浮かべた。

 二人の悲鳴が聞こえたのはその時だった。

 見れば、ヘビ族の女の子が、ネイアとノックの首に噛みついていた。

 二人は小さな悲鳴をあげて、その場に倒れ込む。


「な、何をするんだ!」


 僕が二人に駆け寄ると、ヘビ族の子二人は笑う。


「うふふ、これが試練よ。私達の毒は、六時間でヒトを殺せるの」

「くくく、あんたらが船をどこに停めたか知らないけど、海岸線までは四〇キロメートルは離れているのよ。六時間で往復なんて無理無理~♪」


 ネイアとノックが息を荒くして苦しみ始めた。

 その様子に、ポーリーが怒鳴る。


「貴様らフザケているのか!? 四〇キロの距離を三時間で行けるわけがないだろう!」

「あ~ら、だからゼノミラス様も無理難題って言っていたじゃない?」

「哺乳類族ってバカねぇ~」


 悪びれる様子も無い彼女達に、僕も血が熱くなる。だって、いきなり勝手に噛みついて毒を盛るなんて酷いじゃないか!

 まぁ、解毒剤は僕が取って来るからいいけど。


「仕方ない。じゃあみんな、船まで走ろう。時間がもったいない」

「そうですが」

「ポーリーは長距離苦手だよね? この中で長距離が得意な子だけ僕についてきて」


 オオカミ族のローアと、ウマ族のエマが軽く手を上げる。


「では私とローアですが」


 続いてジャガー族のジュリーと、ヒョウ族のパンリーも前に進み出る。


「お待ちください。私も参ります」

「あたしも。リーベル、あんたは短距離型だから置いて行くからね」


 チーター族であるリーベルは、残念そうに肩をすくめた。


「認めたくないけど事実だ。ですがニンゲン様、この前のネイアとの戦いを見る限り、ニンゲン様は言い伝え通り体力に優れる方ではないとおもうのですが」


 ポーリーが頷く。


「その通りだ。貴様がネイアに勝ったのはあくまで、ニンゲンが持つあの力故だ。脆弱な体のニンゲンは残っていろ」


 強気な態度のポーリーに、僕は気圧されながらも噛みつく。


「そ、そんなことないよ、これでも僕、陸上部じゃマラソン、えーっと、とにかく長距離は得意なんだよ! とにかく行こうよ、邪魔なら僕を置いて行ってもいいからさ。時間がもったいないでしょ!」


 オオカミ族のローア、ウマ族のエマ、ジャガー族のジュリー、ヒョウ族のパンリーは互いに顔を見合せながら頷いて、走り出した。


 僕もその後ろについていく。


 でも、最初は横一列だった僕ら五人。


 僕の視界にはエマ達四人の背中が映って、どの背中はどんどん小さくなっていく。


 前の方から、悲しい会話が聞こえてくる。


「ニンゲン様、本当に体力がありませんね」

「そうですね」

「ニンゲン様には悪いですが、やはり足手まといかと」

「気持ちは分かるけど、正直いらないわね」


 その様子に、僕は何も言わなかった。


「…………」


 僕は口を開けたまま、テンポよく呼吸をしながら、ただのろのろと走り続けた。

   

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