ワニ少女ダイロ
僕らが案内されたのは、まさしく集落という感じの場所だった。
ジャングルの中に開けた場所があって、そこに木組みの隙間を葉っぱやツルで覆った小屋がいくつも並んでいた。
集落には何人もの爬虫類娘達がいたけど、格好がまた凄かった。
鳥の羽や葉っぱで作ったショーツとブラ、下着姿同然だ。
まぁこんな高温多湿のジャングルじゃ、むしろそっちの方が正しいのかもしれないけど。
ちっちゃくて可愛い子達はトカゲのしっぽを生やして、女子高生くらいの子達はコモドオオトカゲや、ヘビの尻尾を生やしている。
みんな僕らを物珍しそうに眺めていた。
少し歩くと、集落の奥にひと際大きな家が建っていた。
その家の前は広場になっていて、木で作った玉座のように立派な椅子があった。
「ダイロ様! 王国からの使節を名乗る者達が参りました!」
僕らを引きつれていたコモドオオトカゲの女の子の声に、家の中から物音がする。のれんのような扉をくぐって、一人の女の子が姿を現した。
「王国からの使者?」
ガラの悪そうな子だった。
いきなり僕らを睨んで、ジロジロと観察している。
「ほー、そんで、王国の連中がこんなところに何の用だ?」
ダイロは面倒くさそうに歩いて、専用なんだろう、さっきの立派な椅子に座った。椅子は少し高くなっている台の上にあるので、僕らを見下ろす形になる。
「我々王国は現在、恐竜族の帝国から侵略を受けています。奴らは我らを滅ぼした後は、貴方がたの土地も侵略するでしょう。そこで我々は、皆様爬虫類族と同盟を結ぶとともに、援軍を送って頂きたく参上つかまつりました」
ジャガー族のジュリーが、真摯な態度でダイロに頼み込んだ。
「帝国? 恐竜? 知らねぇなぁ。それにあたしはこの集落の長だけど、爬虫類族全体をどうこうするような権限はねぇぞ?」
「はい、ですから、他の集落とも同盟を結ぶつもりです。もしくは、爬虫類族全体をまとめる方がいれば、お目通りを願いたく」
「まとめる奴か、それならいるぜ、ゼノミラス。あいつならこのジャングルどころかサバンナも含めて全爬虫類族に顔が効くはずだ」
「真ですか!?」
思わず聞き返すジュリーに、ダイロはぷらぷらと手を振った。
「あたしらの長ってわけじゃないけど、最大集落の長だしな。あいつに服従を誓うかわりに縄張りを安堵してもらっている集落もいくつかある。とりあえずあいつがお前らに協力するって言ったら、他の連中も従うだろうな。もっとも、紹介してやってもいいが」
ダイロの目が妖しく光る。
「あんたらがアタシらより強かったらだ! てめぇら! デュエルの時間だぜ!」
途端に、周囲から爬虫類の子達が思い思いの打楽器を手に集まって来た。
あちこちから、
『デュエルだ! デュエルをやるぞ!』
と聞こえる。
動揺する僕らに、ダイロは両手の人差し指を立たせる。
「二勝だ。てめぇらが二勝したら、ゼノミラスを紹介してやるよ。戦争やってる奴が、まさか嫌とはいわねぇよな?」
「ニンゲン様、私に剣を抜く許可を!」
ジュリーが振り返って、真っ直ぐ僕と視線を交える。
けど、すぐにダイロが腰を折った。
「おっと、対戦相手はこっちで決めさせてもらうぜ。それから武器の使用はなしだ」
「何!」
「そうだな。っと、そういえば哺乳類は草喰う奴がいるんだよな。おい、そこのデカツノ」
「私か?」
草食動物であるサイ族ノックが返事をする。
「最初の相手はお前だ。そんだけデカイ体で、まさか断らねぇだろ?」
ノックの瞳が、一瞬で猛獣のソレになる。
「いいだろう。だが、サイ族である私に素手で挑んだ事を後悔しても知らぬぞ!」
ノックは背中に背負った、ツノ付盾を下ろす。それをポーリーが、何も言わずに受け取る。
あれ? この二人って仲悪いんじゃないの?
ちょっと違和感を覚える僕をよそに、ノックは右拳で左手を鳴らす。
「アイラー! てめぇの出番だぜ!」
人垣が割れた奥から、背が高くて、ワニの尻尾を生やしたキレイな女の子が自信に溢れた表情で歩いてくる。
「あんたがアタシの相手かい? ついてきな」
言われるがまま、僕らはアイラーの後に続く。集落の側には木の密度少ない場所があって、どうやらそこが戦う場所らしい。
集落の人達は、打楽器を鳴らして盛り上がっている。
僕らも見守る中、ノックとアイラーと素手で対峙した。
アイラーが美少女とは思えない程に歯を見せて、ガキンと鳴らした。
「アリゲーター族アイラーだ! てめぇのそのツノ、噛み砕いてやるよ!」
ノックが少し腰を落として、荒く息を吐きだす。
「サイ族最強の戦士ノック! 参る!」




