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シャチ少女レギー

 僕の疑問は自己完結した。


「兵の質も量も負けている以上、我が軍に勝ち目はありません。となると後は策を講じるより他にありません。森に伏兵を隠し、奇襲戦に出るのはいかがでしょうか?」


 ファノビアさんの提案に、ティアが異を唱える。


「それより兵の数を増やしたほうが確実じゃない? 今が国家存亡の危機。この戦いに勝てないと先は無いんだから、各地から増援を集めましょ」

「それには賛同しかねます」


 キリン隊隊長のレキシーがメガネをくいっと上げて発言する。


「今残しているのは領地防衛の為に必要な兵。それすらも戦地へ送ってしまえば、空っぽになった隙を突いて帝国の別動部隊が襲ってくるかもしれません」

「かもしれないで保守的な行動している場合?」

「ですが、領民の多くが水棲のクジラ、シャチ、イルカ族のシロナガス家は海軍中心なので送る兵は少ないでしょう。そうなると、シロナガス家だけ兵役が軽くなる不公平になります」


 シロナガス家の代理で来ている、シャチ族のレギーが目を吊り上げる。


「なんだテメェ。アタシらにも丘で戦えってのか!? アタシらは敵が海から攻めて来た時はアタシらだけで戦うっていう責任があるんだぞ! なのに海と丘両方の戦に出ろってそっちのほうが不公平だろうが! それでもビッグママの恩情でアタシらシャチ族の兵を二〇〇〇人も派遣してんだろが!」


 シャチは砂浜に飛び出してアザラシを狩ったり、クジラ、イルカよりも陸に耐性がある。


 陸上の戦いも、それなりにできるのかもしれない。


 そこまで考えて、僕は気付いた。


 この世界の水棲動物、魚は地球と同じで、シャチは人化していて……じゃあワニは?


「ねぇファノビアさん。そういえば街で爬虫類見なかったんだけど。この世界で恐竜以外の爬虫類ってどうなっているの? ワニとかヘビとか」


 ファノビアさんがまばたきをする。


「爬虫類族ですか? 王国は哺乳類の国なので爬虫類はいません。彼女達はこの国の遥か南。レキシーの実家、キリン族ロスチャイルド公爵家の領土よりもさらに南のサバンナやジャングルで暮らしています」

「じゃあ彼女達に助けを求めようよ。隣国との同盟は戦争の基本。国内から兵を集めるんじゃなくて、他の国から援軍を頼むんだよ」


 よく考えてみれば数が違うのは当たり前だ。


 恐竜時代は、それこそ恐竜が地上を支配していた。


 でも現代は哺乳類や爬虫類とか、多くの動物で地上を分けあっている。


 中生代動物VS新生代動物で、中生代は恐竜みんなが参加しているのに、新生代は哺乳類だけが参加して爬虫類が欠席したら、それこそ兵の数に倍も差がつくのは当然だ。


 恐竜VS現代動物。


 そんな大戦カードを想像しながら、僕はみんなの顔を見回した。


『…………』


 名案だと思ったんだけど、いまいち反応が薄かった。



 ファノビアさんが言葉を濁す。


「あー、ニンゲン様。残念ながら彼女達は国ではありません。先程申し上げたように、サバンナやジャングルで狩猟生活をしている子らでして」


 他の隊長達も近くの人達と口々に意見を交わしあう。


「爬虫類の手を借りるって、あの子達、話し通じるの?」

「いやよ蛮族に助けてもらうなんて」

「それに爬虫類族って、ようは恐竜の仲間じゃない。信用できないわ」


 みんなが難色を示す中、僕はぐっとお腹に力を入れて立ち上がった。


「そんな事を言っている場合じゃないよ。僕はまだこの世界の事もみんなの事もよくわからない。でもくだらないプライドを守る為に国民を見捨てるなんて駄目だよ。それに帝国が王国を支配したら、こんどは南下して爬虫類達の土地も奪うかもしれない。爬虫類達だって帝国の脅威は無視できないはずだよ」


 僕は隊長達の顔を一人一人見ながら訴える。


「爬虫類もみんなと同じで人化しているんでしょ? じゃあ誠意を持ってちゃんと事情を話せば助けてくれるよ!」


 言い切った僕に、みんなは視線を向けても、賛成の声は上げてくれない。

 そんな中、今までただ静かにみんなの話を聞いていたレオナが立ちあがった。


「ニンゲン様の言う通りです」


 レオナは落ち着きはらった声で、真剣に語る。


「今は国家存亡の、いえ、国民存亡の危機。それを救う事に我々のプライドが入る余地がどこにありましょう。我々は王族であり、貴族であり、そして部隊を率いる隊長なのです。国民を守る最大限の努力を致しましょう。ここにいる全員でです」


 みんなの表情が硬くなる。

 誰も否定なんてしない。

 それどころか、まるでさっきまでの自分を恥じているようにすら感じる。

 彼女達はどこまでいってもやはり動物だった。

 悪い事をして叱られたら、きちんと反省してうなだれる。

 そんな彼女たちの気風に、僕はまた一歩惹かれてしまう。


「南方に行くなら、船が一番だ」


 最初に口を開いたのはシャチ族のレギーだった。


 しおらしく、とはいかないけど、素直に慣れない子供みたいな表情で顔を背けながら、視線はチラチラと僕に送って来る。


「まぁ海軍中心のアタシらは丘の戦いじゃ役に立てねぇし。ビッグママに頼んで南方行きの船を出してもらう。必要な物資、人員はこっちで用意する。それでいいかニンゲン?」


 ポーリーが続く。


「水上ならば、我らカバ族も同行させてもらう。湿度の高いジャングルも得意だ」

「カバ族が出るのに我らサイ族が黙っていられようか。私も行くぞ」


 そうやって次々に声が上がって、レオナがまとめる。


「解りました。では詳しいメンバーは後で決めますが、爬虫類族と同盟を結びに行くという事で決定とします。使節団の希望者は各部隊でまとめ、後でファノビアに提出して下さい。いいですね?」


 みんなの首が、一斉に肯定した。



電撃オンラインでインタビューを載せてもらいました。

https://dengekionline.com/articles/127533/

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