グリズリー少女メイプル
「それではこれより、軍議を始めます」
夕食を前にして、レオナがそう言った。
え? ご飯食べながら軍議するの? それって集中できるの?
でもツッコむ人は誰もいなくって、テーブルを共にする各隊の隊長達もご飯を食べ始めた。今は朝会った五代貴族の人達だけなじゃなくて、ジャガー隊チーター隊オオカミ隊とかの隊長さんもいる。
あと、さっき会ったクマ隊隊長メイプル。昨日、ネイアと勝負する前に会った、サイ隊隊長のノックや、カバ隊隊長のポーリーもいる。
僕は牛乳を飲みながら、軍議の様子をうかがうことにした。
「ファノビア、お願いします」
「はい」
レオナに水を向けられて、ファノビアは食事の手を止める。
「まず我が軍は変えられない事実として連戦連敗。戦場となっている我がアフリカヌス家の領地はその半分が帝国側に奪われ、同じくティア殿の実家、アムール家の領地も徐々に浸食されております」
僕の耳元でエマが補足する。
「五大貴族は王国の国境を取り囲むように領地を持っています。ゾウ族アフリカヌス家の領地は東部、ちょうど帝国が攻めて来る山脈側なのです。トラ族アムール家の領地は東南で、戦場に隣接しています」
僕は口の中で、唇を噛んだ。
アフリカヌス家はファノビアの実家だ。実家の半分を帝国に奪われて……ファノビアは一見冷静だけど、きっとこの中では誰よりも焦っていると思う。
ティアも、夜這いに来た時はトンデモない子だと思ったけど、実家のことがストレスになっているんだろうな。
そう思うと、ファノビアとティアへの見方が少し変わってしまう。
「問題は二つ、兵の質も量も負けているからです」
「え?」
つい驚きの声が漏れてしまった。
だって普通、自然界は大きくて強い動物ほど数が少なくて、小さくて弱い動物ほど数が多い。
なのに恐竜のほうが数が多いの?
僕は疑問を解消するべく、ファノビアの話に集中した。
「帝国軍の数は目算で我が軍の倍。さらに彼女達はあくまで帝国から山脈を越えて派遣された部隊であり、本国にはそれ以上の戦力が控えていると見ていいでしょう。加えて兵の質ですが、我々と彼女達とでは体格差が大きく、白兵戦では劣勢を避けられません」
「弓矢は?」
周りの注目を集めてから、僕はしまったと口を塞ぐ。
「いえニンゲン様。我々の統一王である貴方にも是非意見を言って頂きたく思います。気付いた事は言って下さい。ただし弓矢はいけません。彼女達の体はとても強靭ですし金属製の鎧をまとっています。我々の弓矢では致命傷は与えられません。むしろ帝国が習慣として弓矢を使わないでくれているのが救いなくらいです」
「そ、そうなんだ」
確かに現代動物の多くは古来より弓矢で射殺されてきた。でも恐竜、それこそゾウ並の大きさと丈夫さが標準装備の恐竜は弓矢で殺せないだろう。
ニーナが囁く。
「言っておきますが、ファノビアは矢を通さない体ですが、お肌はムチムチのプルンプルンですよ」
「っ」
僕は体を硬くした。
「あんなにやわらかくて弾力溢れる体なのにどうしてあんなに丈夫なのか不思議ですよね?」
「~~~~っ」
僕はイケナイ想像を振りはらって、一気に牛乳を飲み干す。
ネイアと戦って解った事。
エデンの人達の体は医学的、解剖学的な制約に縛られてないんだろう。
そもそも全員人化して人と同じ骨格や筋肉量になったなら、身体能力も人間並に落ちるはずだ。
あの細い腕で僕を投げ飛ばすネイアの筋力。きっと人体構造に関係無く、元になっている動物の身体能力を発揮できるような不思議な力を持っているんだと思う。
なんだかゲームみたいだけど、例えばゾウ族のファノビアさんの皮膚には、攻撃に対してゾウと同じ耐久度のバリアーが自動で張られる魔法がかかっている、とか。
ネイアならライガー並の身体能力を発揮できるよう、身体強化魔法が常にかかっている、とか。そんな感じだろう。でないと……
僕の手に、ネイアのおっぱいの感触が鮮明に蘇る。
あんなに細くて華奢で、でも出る所はしっかり出ていてやわらかくてきもちよくて、あんな体で猛獣並の身体能力が出せるわけないもん……
僕の疑問は自己完結した。




