種族のお勉強時間
「ではニンゲン様、駐車場に着くまでに軽く種族の説明をさせて頂きますね」
ニーナが僕の頬に顔を寄せくる。僕は一瞬ドキッとして、すぐニーナが手で差した方を見る。
「彼女達はジャガー族。ほとんど王族貴族や上級軍人であるライオン族、トラ族に仕える種族です。多くは兵隊やライオン族、トラ族の近衛兵をしております」
ジャガーはトラ、ライオンに次ぐ体格の猫科動物で、北米では最大の猫科動物だ。
言い方は悪いけど、ライオンやトラの小型版と言えなくもない。
「あちらはオオカミ族とイヌ属。オオカミ族の多くは歩兵を務め、イヌ属は警察を務めています」
そこはイメージ通りだな。
僕は頭の中で、子供の歌にもある犬のおまわりさんを思い出した。
「牛族、馬族の多くは農業畜産に従事して、ゴリラ族は工業に従事します。羊族は畜産に従事しながら自らの髪質に気を配り、一定以上伸びると切って被服業者に渡します」
「髪売るの!?」
なんか、昔の人がお金に困って髪をカツラ屋さんに売るみたいで、僕にはイメージが悪かった。
「はい売りますよ。だってみなさんに喜ばれますから」
ニーナの物言いに、僕はひっかかるものがある。
「羊族って、髪を売って生計を立てている……んだよね?」
でも、ニーナは目をぱちくりさせる。
「? いいえ、喜んでもらうためですよ」
「?」
僕がますます解らなくなっていくと、車が停車。
御者台のほうからエマが、
「どうどう」
と言って、御者台から降りた。
「着きましたよニンゲン様。どうぞ、お降り下さい」
エマが優しく車内のドアが開いて、僕らは車から降りる。
一歩外に出れば、春の温かい太陽がいっぱいに広がる駐車場という名の広場だ。
ダチョウが引く多くの鳥車が並ぶ駐車場は開放的で広く、敷地内にはダチョウ用の餌や飼育道具を売る店が設置されている。
しっかりとした造りの柵の向こうにはすぐ街並が見える。
エマに連れられて僕らが柵の外に出ると、そこはさっきの本道で、大勢の人達が行き交っている。
「さぁニンゲン様、ここは我らが王都本道の商業区。キングストリートでございます」
「なんて安直な名前」
とツッコミつつ。その発展ぶりには目を見張るものがある。
第一に貧しい人が一人もいない。
みんなの身なりがいいという意味じゃなくて、みんなキチンと洗濯された清潔な服で、破れたりツギハギの服を着ている人がいない。
何よりも活気に溢れているし、みんな笑顔だ。
ストリートを作る様々な店も、どれも綺麗な造りだし、店頭販売が主で、外からでも品物の豊富さが良く分かる。
野菜、穀物、飲物、魚、鳥肉、そして衣類。
どの店にも棚いっぱいに商品が並べられているし、お客さんが入っている。
オープンテラスで食事をするオオカミ少女が、鳥肉の丸焼きにおいしそうにかぶりついている。同じ丸テーブルで、シカの少女がフルーツパフェを笑顔で食べている。
エデンだけあり、中世から近世ヨーロッパ風の文化。平民であろう服装。でも食事に困っている様子はない。
かつて人類が追い出された楽園エデン。楽園の何相応しく、この世界は食べ物が豊富で誰も飢える事の無い、理想郷なんだな。と思う。
誰も飢え無いから、誰も憎まない理想郷。でも、今この国は恐竜帝国と戦争中だ。
その事実が、僕の胸にしこりとなって違和感を残す。
でも、オオカミとシカ。肉食動物と草食動物が同じテーブルでご飯を食べる光景を見ると、この平和を壊したくないという想いが芽生えてくる。
「あれ?」




