ダチョウより巨大な鳥、モア
「ではニンゲン様、お乗りください」
お城の外には、馬じゃなくてダチョウが引く車が何両も停めてあった。
二頭立ての馬車ならぬ鳥車の中、僕がエマに案内されたのはひと際大きくて、金や銀があしらわれた豪奢なモノだった。そしてそれを引くのは……
「こちらがお城自慢の王族専用鳥車」
エマが手を広げて胸を張る。
「モア車でございます」
「デカ!?」
ダチョウよりもずっと大きい、身長三メートルぐらいの鳥が二頭、いや、二羽かな? とにかく、数百年前ニュージーランドで絶滅した史上最大の鳥類がそこにいた。
黒いダチョウとは違い黒毛並み。
ダチョウ以上に退化した翼は羽毛に隠れて見えなくなっている。
でも体の割に頭はちっちゃくて、くりっとした目が可愛い印象を与える。
驚く気持ちを押さえて、僕は自分をなだめた。
そうだよ。よく考えてみれば恐竜がいるんだから、ほんの数百年まえまでいたモアぐらいいるよ。
エマが扉を開けると、僕、ネイア、ニーナ、キャロ、ムチポ、マワリちゃんの六人が乗り込む。中も立派な作りで、赤い重厚な座席は座り心地抜群だった。
車の中は六人乗りで、三人用の座席が向かい合っている。
けど僕の左右にキャロとニーナが座って、目の前にネイアが座って、ムチポとマワリちゃんが一人ずつ、僕の膝に座って来た。
二人とも小動物のようにきゅーきゅー声を鳴らしながら、僕の胸板に顔をうずめて甘える。
うわぁ、なんか幸せ。
ついで、ロップウサギのキャロが僕の右腕を、フレミッシュウサギのニーナが僕の左腕を抱きよせる。キャロはともかく、ニーナはほとんど大きな胸に腕を挟みこんでいる形で、僕はその感触に困ってしまう。
逃げようにも両ひざにはムチポとマワリちゃんが座っていて身動きが取れない。
四人のメイドにもみくちゃにされる僕を、向かい側に座るネイアは不機嫌そうに眺めてから、ぷいっと顔を背けてしまう。
嫌われているなぁ。
僕は口の中でほっぺを噛んだ。
それから、最後にエマが御者台に乗って手綱を握る。
「では、出発です」
エマが軽く手綱を鳴らすと、車が動き出した。
ゴム製タイヤじゃないのに、振動が少ない。
きっと、木製のサスペンションがついているんだと思う。
それでも流石にゼロとはいかず、車の振動に合わせてニーナとムチポのおっぱいの感触が絶妙に変化する。
僕は必死に理性を保つべく、窓の外に視線を放った。
たぶん軍隊が並ぶためなのかな? 城の周囲に建物は無くて、グラウンドみたいに広々としている。
それからすぐに街に入る。レンガと木でできた、西洋とも東洋ともつかない家々が建ち並んで、街には他の女の子達の姿も見える。
外からは『王族の車だ』『モア車だ』と弾んだ声が聞こえる。
これだけで、レオナが国民から好かれているんだと分かる。
窓からうかがって解った事。
ここは王都の大きな道路、たぶん本道で、道路の幅的には片側二車線ずつ。
さらにその外側に、三メートル以上の道幅があるように感じる。
日本と違って、完全に道路と歩道には別れていないけど、街の人達はその範囲しか歩かないようにしているのが解った。
もちろん鳥車が通り過ぎると、普通に横断している。
「ではニンゲン様、駐車場に着くまでに軽く種族の説明をさせて頂きますね」
ニーナが僕の頬に顔を寄せくる。僕は一瞬ドキッとして、すぐニーナが手で差した方を見る。




