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芸達者な女の子たち

「もうみんな喧嘩は駄目だよ! おすわり!」


 水泳のシンクロみたいに、全員同時にその場に座り込んだ。

 僕は、


「カモン」


 全員一斉に足並みをそろえて僕のところに来た。


「伏せ」


 全員一斉に伏せた。


「今、ボール持ってるのは?」


 みんなの中から、一人の女の子がボールを手に走って来る。

 その子は僕のもとに走って来るとボールを差し出して、褒めてもらうのを待つペットの顔で僕を見上げた。


「よくできました。いいこいいこ」


 良く見れば、その子は戦場で僕を担いで運んだ子だった。

 頭をなでてあげると、トロけた顔で喜んだ。法悦顔っていうのはこういう顔を言うんだろうだなぁ。


「お手」


 その子は、マッハの反射反応で右手を僕の手に乗せてきた。他の子らも虚空に右手を差し出して満足げだ。


 僕は調子に乗って、もっと指示を出す。


「じゃあ次はおかわり、チンチン」


 みんなは左手を出してから、腰を落として腕を折りたたんだ。


 そして僕は恥ずかしくなる。女の子前でチンチンって、僕は何を言っているんだ……


 僕が恥じ入りながらボールをリュックに戻して、みんなの視界に映らないようにしてみると……


『ハッ!?』


 全員同時に、夢から覚めたようにハタとした。


「わ、私達は何を……」

「ニンゲン様がボールを取り出した途端、むしょうにそれが欲しくてたまらなく」

「チンチンと言われると急にこのポーズを取りたくなりました」

「ニンゲン様、もう一度チンチンと行ってみてください!」

「ニンゲン様のチンチンをもう一度!」

「チンチンチンチン!」

「女の子がチンチン連呼しないの!」


 僕が叱りつけると、みんなはシュンとして可愛く眉尻を下げた。中には『クゥーン』と悲しそうな声を出す子までいる。


 やっぱり動物なんだなぁ。と僕は実感した。


 さっきまで半信半疑だったけど、この子らが元は動物だっていう事を信じそうじになる。


「ごめんねみんな。僕が悪かったよ。とにかく話の続きをしないと、みんな元の位置に戻って」


 みんなは頷いて、元の立ち位置に戻る。


 でもこれって恐竜には効かないよね。


 人間に遊んでもらうのが好きなのは哺乳類の特徴だ。爬虫類は芸をしないし、蛇つかいの蛇は、笛の動きを警戒して動いているだけ。あくまで蛇の警戒心を利用したものであり、楽しく遊んでいるわけじゃない。


 僕は頭を冷やして、重たく被りを振った。


「ごめん。僕にはみんなの命を預かることなんてできないよ」

『命?』


 みんなが頭上に疑問符を浮かべる。


 最初に見た戦場を思い出して、僕はその瞬間を見ていないのに、心が苦しくなる。


「だってそうでしょ? あんな剣や槍で殺し合って、戦のたびに数えきれない人達が死んでいるんでしょ? 僕は軍人でも軍師でもない、ただの高校生、学校に通う子供だ。そんな僕に、この世界を平和に、恐竜帝国との戦争を終結させる力なんて」

「たくさん死にましたが、誰も命を落としてませんよ」


 レオナと一緒に、みんなが一斉に首をひねった。


「…………どゆこと?」


 今度は、僕が首をひねってしまった。




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