僕は世界を守る為に魔王になった 後編
まずは王国に帰る途中で勇者がどうなったかを知ることから始めることにした
勇者と協力することが出来れば、夢の実現の足掛かりになると考えたからだ
だが一つ問題があった、それは殆どの魔族は魔王に従っていたのであって、
魔王の家族に仕える気は無かったのだ、当然だ魔族にとって大事なのは魔王そのもの
であって魔王の血筋や、種族は関係ない
とはいえ、魔族の中にも魔王ではなく個人として忠義を立てる者も時としている
魔族の殆どが従わず故郷へと戻るなか、父の夢を継ぐことを知った彼らと、
王国に領土を奪われ行き場を無くした者たちは、ありがたいことに僕に協力してくれた
しかし、今の戦力では王国に攻め込むことも、奪われ領土を取り戻すことも、
王国からの侵略をこれ以上防ぐことは厳しい、この状態で勇者の行方を追うことはとても
困難に思える、だが泣き言は言ってられない
僕は母を捜索した際に同行してくれた騎士と2人だけで勇者の足取りを追うことにした
残りの者は王国の侵略を出来る限り遅らせる、今はこれが最善策と信じて行動するしか
なかった
魔王の領土と王国の領土との国境付近にて勇者が持って帰ったはずだった父に瞳、
その片方が転がっているのを発見した、瞳に刻まれた刻印はそう簡単に偽装出来るもので
はない、つまり父の切り落とされた頭部から瞳を取り除いてとしか考えられない
辺り一面を詳しく確認すると、誰かの血痕が所々に見つかった
血痕の一つが道標のように続いていたため、その後を追って行く、
すると岩陰に
て、倒れ崩れる勇者の遺体が見つかった
勇者は身体に大量の返り血を浴びた服の上から幾つもの刺傷と、既に乾いた流血の跡
そして勇者の指先には自身の血で書いたと思われる血文字で王国は狂っていると
書かれていた、書かれた文字の意図は解らなかったが、おそらく父の瞳を見つけ、
魔族の誰かがこの文字を見てくれるのを願い最後に書き上げたのだろう
勇者の遺体の傍に、剣先の折れた王国兵の剣が無造作に置かれていた
しかしその周辺に片目取れている筈の、父の頭部を見つけることはなかった
状況を考えるに、勇者を襲撃した者が持ち帰ったと見るべきだろう
僕達が勇者の遺体を発見して、程なくして勇者が元の世界に帰ったと王国が自国民に
伝えた、国民達は、勇者が魔王を倒した偉業を讃え祭ごとを行い、
束の間の平和を過ごしていた
僕は魔王城に戻り今後の対策を練っていた、
父のように魔族が人間に寄り添うだけではダメなのだ、それでは同じように王国が
何か理由を付けられ、また同じことを繰り返すことになってしまう
何か他の方法は無いか、いつまで考えたところで答えなんて出ない行き詰っていると
思わぬ来客が訪れた
来客は自らを聖堂教会の使者だと名乗る人間だった、たしか創造主が創ったこの世界の
均衡を保つことを目的とした宗教団体の一つだったはず、何のようだろう
使者が話した内容は、魔族に協力することと、協力していることは表向きは
秘密にして欲しいとのことだった、確かに今の状況では誰でも頼りたいところだが
理由が検討もつかない、聞いたとしてもはぐらかされ信用ならない
とはいえ、選り好み出来る状況でも無い、些か不安もあったが協力の提案を受け入れる
ことにした、教会の使者は今後の方針として次の魔王の証を持つ者を向かい入れる用意を
することだった、確かに魔族が従うのは魔王だもとより今の状況さえ何とかなれば
探すつもりだった、例え僕が率先して探さずとも他の魔族が探していただろう
だが向かい入れる用意をするとはどういうことだろう、もう既に見つけていると
言うことかなのか? 教会の使者は時が来れば解るとだけ言い、次に魔王を迎えるまでの
あいだ代理の魔王を用意することとのこと、同時にこの代理の魔王は、魔王の覚醒を
促すように仕向けることを言ってきた
魔王の覚醒とは、魔族以外の種族が魔王の証を持つときに試練を与え、
自身より上位の存在を倒すことで魔王としての覚醒させる儀式の通称だ、
魔族ならば誰でも知っていることだが、人間が知っていたとはと、関心と同時に疑問が
生まれる
ようは次の魔王は魔族では無いと言うことだ、使者は種族までは教えてくれなかったが
もしも次の魔王が人間だったなら、人間と魔族の共存の可能性があるということなのでは
ないだろうか、だが問題もある
魔王を覚醒させるように促せということはつまり、代理の魔王は死ねと今目の前で
にこやかに微笑むこの男は遠回しに言ってきたのだ、誰も自ら進んで死ぬことを
望む者などこの場にいない、暫し沈黙が場を支配する
僕は目を閉じ、父の残した日記を、勇者が自身の死を受け入れて託したことを思い出す
彼らは未来の為に、自身の身を犠牲にしてでも託したのだ、ならばその夢を受け継いだ
僕が彼らの後に続いてべきだ、覚悟は出来た
目を開けるそして、その日僕は魔王になった
と言っても形だけのものだ、普通の人間は魔王が瞳に刻印を持つことを知らない
それに魔王の実子でもある僕が名乗りを上げたことで、王国で新たな魔王の出現を
疑うものはいなかった
教会の使者が次の作業の為に城を出る前に、次の魔王は世界から争いを無くして、
魔族と人間が手を取り合う世界にするように伝えて欲しいと言った、
すると使者は何が可笑しいのか笑い
「大丈夫です、次の魔王は世界から争いを無くすことが出来る人です」
そう言って去っていった
せめてどんな見た目かぐらいは教えてくれてもいいと思うのだけど、
使者の行う次の作業は魔王の証を持つ者を導くことだ、おそらく次会うことが出来たと
しても僕が死んだ後だもう会うことは無いだろう、しかし最後までうさん臭かったな
あの糸目の神父、去り行く彼らを見送り、自分の仕事に取り掛かる
使者の話によると近いうちに、また王国が懲りずに勇者を召喚して魔王討伐に
向かわせるとのこと、僕の役割は魔王の証を持つ者がくるまで、勇者達が来るのを
遅らせること、王国付近での妨害は思った以上に上手くいった、このペースなら使者が
言っていた3年間時間を稼ぐのは問題なさそうだ
問題が起きた、当初思っていた以上に王国側の侵略行動が激しくてなってきた
僕自身が前線に出てでも対処するしかなくなった、僕について来てくれた魔族も随分と
疲弊してきた、いくら魔族だからと言って殆どまともな補給を受けられない状態で
1年以上も戦い続けて良く持っている方だだがこれ以上は難しい、領土の一部を放棄して
前線を下げる事にしたが、これ以上領土を奪われてたまるかと、半分以上の魔族が従わず
王国軍に突撃し、無残に散っていった、僕は震える拳を押しとどめ残りの魔族と共に再び
時間を稼ぐ
戦力が減ったことで防衛戦はますます厳しくなってきた、
勇者達の同行を追うのは、王国にある辺境の村を過ぎた辺りから、大雑把になっている
毎日、気力を無くした魔族に指揮をとる内、何かが擦り減っていく気がした
後1年、後1年で約束した……何だっけ、そもそも何で戦っていたんだっけ?
勇者達は魔王領を越えた、だめだ近寄るな、まだお前達が来るのは早い、
あいつらを止めないと、どうやって、殺せばいい、戦力の内一部を勇者捜索に回した
防衛? あぁ、また領土の一部を犠牲にして爆炎魔法で王国兵を吹き飛ばせば2日ぐらい
は持つだろ、とにかく今は時間を稼がないとあと少し何だ
あぁ最悪だ、勇者がやってきたもうすぐで門番も倒されるだろう、
さすがは勇者だ、でたらめなほど強い、でももう少しだけ待って欲しかった
折角王国を毒の霧で足止めしているのに
扉を開け、城内の魔物を殲滅した勇者がやってきた、ボロボロになった鎧も、
刃以外の殆どが血で錆びついた剣、蒼白になった顔を見れば彼がたどった旅がいかに
困難かを物語っている、その姿をいつか見た勇者の姿と重ねる
彼らとは解り合うことが出来たかも知れないのに、あともう少し会うのが遅ければ
良かったのに、教会の使者からのサインが目の端に見える、こうなればもう勇者はただの
邪魔者だ、魔王の覚醒は1人で達成しなければ意味が無い、勇者にはここで死んでもらう
勇者は、自身の得意とする氷結魔法を匠に使い、攻撃の注意を逸らしながら何度も
斬りかかる、流石は勇者途轍もない程に攻撃の速度が速い、こちらは防戦だけで
手一杯だ、何とか隙を見つけようとするが、長期間続いた王国との防衛戦の疲労がたたり、
少しずつ押されはじめる、勇者の方も消耗しているようで、剣先が手前で空を斬る
それが戦いの決めてだった、全力を込めて勇者の腹を蹴る
壁に叩き付けられた勇者はピクリとも動かない
後から1人の人間がやってきた、ようやくか、瞳にまだ刻印は浮かんでいないが、
魔族である以上、彼を一目見ただけで正体は察しが付く、現に教会の使者が付けたサイン
が彼の服に付いている
正直もう殆ど戦う力は残っていない、精々低級の魔法を一発といったところ
勇者に目をやった後、人間を見るどう見ても今の彼では勇者の小指程度の強さだが
問題ない、勇者との戦いのおかげで彼でも僕を殺す分には十分だ、
あの糸目めこの為、勇者の後に来させるように仕組んだな、それならそうと言って
くれれば良かっただろうに
目の前の人間を見る目がかすむ、もう僕自身ももう時間が無いらしい、例えここで
生き残れたとこで、数日と持たないだろう、せめて彼には絶対に勝てない相手に勝ったと
錯覚してもらわ無ければいけない、殺されて覚醒しなかったでは殺され損だしな
残った魔力を集め、最後の魔法を放つ、出来るだけ避けやすい直線に放つ
雷撃の魔法を使用した、頼むからこんなので死なないでくれよ、
人間は雷撃を直前で躱し、構えていた槍先で勢い良く斬り付けてきた、手元の剣で弾き
首を狙うが、ギリギリで身体を反らし脇腹を斬られた、だが浅いようで致命傷にまでは
ならない
覚醒前でこれだけ動けるならまあギリギリだけど及第点かな、というかもう身体の方が
持たないしこれで最後だ、少し距離を離しもう一度、雷撃の魔法を唱えるように見せかけ
わざと心臓を狙いやすく身体の向きを変える、人間は狙い通り心臓を突き刺した
人間の瞳を見る、あぁ良かった、瞳には懐かしい鳥の刻印が浮かび上がっていた
安心してそのまま倒れ崩れる、彼は勇者の元に駆け寄ったようだ、かすむ目の中、
予め決めていたサインを騎士に送る、あとは信頼出来る彼に任せれば何とかしてくれる
だろう、あ、せめてあの人間の名前くらいは聞いておけば良かった
もう遅いか、人間は勇者を連れて外に出ていった、カツカツと聞いたことがある
足音が聞こえ来る、
「すみません、貴方には辛い役目を押し付けてしまいましたね」
糸目か、声はもう出ないせめて一言ぐらい、文句を言いたかったがそれすら出来ない
ようだ、糸目は続けて話す
「実は貴方に一つ噓を付いていいたことがあるんですよ、ちゃんと役目を果たしてくれた
貴方だからこそ本当のことを言って上げますよ」
はぁ、嫌な予感がする、どうせろくでもないことを言うんだろ
「私が所属しているのは聖堂教会では無くて、邪神教団なんですよ、
あ、でもそれ以外で噓は付いていませんよ、貴方の夢の世界平和は実現します
貴方の犠牲で出来た新たな魔王がこの世界を征服することでね」
ほら言った、凄いろくでもないことだ、特に僕がもうどうすることも出来なくなって
から言うのだもの意地悪過ぎだ
「貴方のことは割と嫌いじゃ無かったんですよ、もう少し早く会えていれば……なんて
噓ですけど、では今度こそお別れです哀れなピエロさん」
ピエロか、今の自分にはピッタリじゃないか、センスいいな
はぁ、本当に何をしていたのだか、糸目の掌で踊らされて、哀れな幻想を抱いて
でもまあ、思っていた以上に悔いは無いかな、全力でやり切ったて感じ
まだまだ小説のいろはを独学中ですが書きたい物語をかけるよう頑張ってみました
前編・中編・後編と続く物語いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんでもらえたら嬉しいです
読んで頂いた皆様ありがとうございました
評価の方をいただければ今後の励み改善につながるのでしてもらえると助かります
今回の話は「勇者様の代わり魔王を倒しました」の別視点の話として書いた物語なので
良ければこちらも読んでみて下さると嬉しいです