転生遺族と自称ライバル13
人気の少ない帰り道、2人の少女の影があった。
「平方さん」
縦軸たちとは途中で別れた。今はていりと成の2人だけである。
「彼にはあんなこと言ったけど、私はあなたの気持ちを否定しないわ。まだ彼のことが好きなら……まあ頑張りなさい」
「……はい、分かりました。それとありがとうございます、今日のこと。おかげで少しすっきりしました」
成の声はどこか軽やかになっていた。
「私は自分の利益を求めただけよ。その過程であなたを巻き込んだだけ」
「素直になりましょう?さもないと虚さんにも嫌われちゃいますよ」
「そこで何で虚君が出てくるのかしら?」
ていりはすかさず反論した。ただ成にはどこか声が上ずっているようにも聞こえた。
「ふふふ、三角さんって案外可愛らしいですね」
「うるさい」
ていりは成を見ないで文句を言った。くすくすと笑いながらこう続けた。
「私、あきらめませんよ。確かにあのシカト体質はいただけませんけど、ダメなところは私が治してあげればいいだけですから」
可愛らしい声とは対照的にその笑顔には小悪魔の如き色気が滲み出ていた。
それを見つめるていりは相変わらず無表情だ。そして無表情のまま、彼女は成へ返す言葉を紡ぎ始めた。
「私には彼の魅力は分からないし、あなたが修羅の道を歩みたがるのも分からない。でも……」
ていりがつけていたお面を外す。
「それもまた一興……なのかしらね」
「ええ、今から治療が楽しみです」
成の顔を覗き込みながら、ていりは彼女のつけていた狐のお面を成に被せた。成はそれに可愛らしい笑い声で応えた。
それから数日後、夏休みの補習のある日。
「みなさん初めまして!転校生の平方成です。よろしくお願いします!」
成がやって来た。ちなみに縦軸やていりと同じ7組である。驚愕する縦軸がていりの方を見ると、少しだけ笑ったように見えた。
休み時間になると案の定、成は縦軸たちの元はやってきた。
「というわけで、今日からよろしくお願いします!虚さん、お姉様!」
「よ、よろしく……お姉様?」
「ていりお姉様にはお世話になりましたから。おまけに私の両親が引っ越せるまでは住まわせてくださるなんて!」
「互君を追って押しかけてきたときから居座ってたでしょ。今更感謝されるようなことではないわ」
「いやいやいや!三角さんどういうこと?」
置いてけぼりの縦軸。ていりが除に狙われる可能性はもう無いだろうと言われて恋人のフリは終えている。ただし周囲の認識を正したとは言ってない。
「この前まで私に嫉妬してたのに、急にこうなったの。安心して。虚君には迷惑をかけないから」
「もちろんです!愛さんの件も伺っているので何か出来ることがあれば是非ご相談ください!」
ていりはいつの間にか縦軸の姉のことを話し、成も無条件でそれを信じたらしい。縦軸は疲れてきた。
「……はあ、よろしく平方さん」
「はい!」
縦軸が「外の空気を吸ってくる」と言って教室から出て行った後、成は徐にこう切り出した。
「にしてもお姉様、虚さんに話さなくていいんですか?その……あの事を」
「ええ、今は黙っておくわ。信じたいけど、どこかで疑ってしまうもの」
「わ、分かりました」
成は押し黙った。ていりの気持ちも分かる。縦軸に打ち明けることは案外利益よりリスクの方が大きいのだ。
「正直あなたにも教えるつもりは無かったわ。それともちろん他にできることはやるつもりよ」
ていりはそう言って机の中から一冊のノートを取り出し、漠然と眺めた。
成だって分かっている。彼女がこれを作って縦軸に見せると決めるまでにどれほど迷い悩んだかを。
「このノートはかなりの進歩になる。幸い私は頭がいい人間で通ってるから、言い訳はどうにかなるでしょう」
「そうですね」
ノートの表紙には、「翻訳」とだけ書かれていた。
ヤンデレ目指したらただのワンコになりましたね。




