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転生遺族の循環論法  作者: はたたがみ
第1章 民間伝承研究部編
20/165

転生遺族のむかしむかし7

「何?止める気?」

「まさか、止めないよ」

「え?」


 ていりは意外に思った。今の発言は彼女の中の虚縦軸という人物像と全く合わなかったからだ。作子の話が正しければ、縦軸は自殺なんて見逃さなかっただろう。実際音のことも一度助けている。


「先輩、十二乗さんに〈天文台〉のことは?」

「は、話したよ。それに見せた」

「十二乗さん、ちょっと相談がある。ここじゃあれだし、場所を変えよう」

「……分かったわよ」




 縦軸たちは部室にいた。外はもう夕方。縦軸の顔には、()があった。


「で、わざわざここに来てまで何の用?」

「うーん……部室にしたのは特に意図はないかな。ゆっくり話のできる場所を選んだだけだよ」

「ねえ虚君、そんなに大事なの?その()って」

「もちろんだよ三角さん、これは是非十二乗さんに聞いてほしいんだ。まあ2人は作子から聞いてるだろうけど」

「……それって」

「そうだよ。まあ察しはついたさ。三角さんが急に優しくなったり、先輩が十二乗さんに急に近づいたり、あいつだったら頼みかねない」 

「ていりちゃん、バレてるよ?」

「……」

「ねえ、私、置いてけぼりなんだけど?」


 流石に痺れを切らした音が話しかける。縦軸は少し申し訳なさそうに謝った。


「あはは、ごめんなさい。それじゃあ音さんには僕の話を聞いてもらおうか。参考になると思うからね、自殺の」

「じ、自殺の⁉︎」

「ああそうだよ。では話すとしよう。2人はもう知ってるだろうけどね」





 ー僕と、姉さんの話だー





 僕には8つ上の姉が()()。僕と姉さんはとても仲良しだった。名前は(うつろ)(あい)、訳あって敬語で話す優しい人だった。


「たてじくー、お姉ちゃんだよー」

「キャハッ!」


 僕がまだお喋りもできない頃、姉さんは僕によく話しかけてくれていた。そんなに鮮明な記憶は無いけど、あの頃の記憶と言えば大抵姉さんの顔なんだ。


 姉さんはよく絵本を読んでくれた。まあ育児ってのは大変だから、そうやって幼い僕を楽しませるだけでも彼女の功績は素晴らしいものだ。


「……こうして桃太郎は鬼を退治したのでした。めでたしめでたし」

「わあーい!お姉ちゃん、もっと読んで!」

「ふふ、いいよ。じゃあ次はこれね。むかしむかし、とある貴族が事故にあってしまいました。すると、そこに通りかかった泥棒が……」


 あと、姉さんと友達だった作子も遊びに来てくれた。男子にいじめられていたところを姉さんに助けられたとか。


「やっほー、元気かね弟くん?」

「こんにちは、作子お姉ちゃん!」

「縦軸、ただいま」

「お姉ちゃん、おかえりなさい!!」

「きゃっ⁉︎きゅ、急に抱きつかないでよ、もう!」

「相変わらず仲良いね〜」

「見てください作子、ここに(てんし)がいます」

「会話繋がってないぞー」

「縦軸、今日は作子がウチにお泊まりするから迷惑かけちゃダメだよ?」

「うん、分かった」




 その日は作子が姉さんの部屋を使ったので、僕と姉さんは僕の部屋で寝た。


「ふふ、縦軸のことぎゅーっとしてると、何だかポカポカしてあったかいなあ」

「へへ、僕も、お姉ちゃん大好き」


 僕がそう言うと、姉さんは思い切り笑顔になってまた僕を強く抱きしめた。


「ねえ、お姉ちゃん」

「どうしたの?」

「ずっと一緒にいてね?」

「うん、いいよ。約束する」


 姉さんが僕に対して嘘をついたり、約束を破ったりしたのはこの時だけだった。

次回も回想シーンからです。

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