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転生遺族の循環論法  作者: はたたがみ
第1章 民間伝承研究部編
19/165

転生遺族のむかしむかし6

休日に行く場所と言われて某電荷を帯びた粒子しか出てこない作者です。

 土曜日、縦軸は駅にいた。


「ごめんなさい虚君、待ったかしら?」


 当然だが、ていりは私服だった。しかもそれなりにお洒落している。ジャージで来てしまったインドア派の縦軸は少し気まずくなった。


「いいや、今来たとこだよ。それで、これからどうしようと?」


 実は縦軸は今日の予定を聞いていなかった。とにかくこの時刻にこの駅に来て欲しいとだけ言われていたのだ。


「そうね……見たい映画があるの。近くのショッピングモールに映画館あるからそこに行きましょう」

「うん、分かった」


 こうして縦軸とていりは映画館に向かった。


「ちなみにどんな映画なんだい?」

「私もよく知らないの。ネット小説原作で、SNSでの人気が高いって聞いてるわ」

「そうなんだ」




「まさか最後に主人公が刺されて死ぬとは思わなかったよ」

「そうね。でも性格がクズだったし、その後のヒロインたちが幸せそうで良かったじゃない。あの中に混ざってた主人公が害悪なのよ。それにあのシーンで流れた曲は最高だったわ」


 ていりはいつものようにクールな口調ではあったが、いつもより少し饒舌になっていた。


 ていりが見たいと言った映画は所謂異世界モノだった。主人公が規格外の能力で無双してハーレムを築き上げていく、そんな王道のストーリーだった。まあラストは意外でスカッとするものだったが。


「にしても少し疲れたわ。あそこのベンチで休みましょう」


 通路の片隅にはベンチや自動販売機が並んでいた。やはり大型のショッピングモールだと途中で疲れてしまう客も多いのだろう。


 ていりがベンチに座り込むと、取り敢えず縦軸も飲み物を買ってていりの隣に座る。


「ふぅ……ねえ三角さん、このあとどうs」

「…………」


 眠っていた。やがて重力に流されるまま、ていりの頭が傾いていき、縦軸の肩によって落下を防がれる。


「どんだけ疲れてたんだ……」


 することが無い、というか何もできないのでぼーっとすることにした。


 ていりの寝息が聞こえて来る。この程度の音など周りの喧騒にかき消されているはずだ。なのにやけにクリアに聴こえて来る。彼女の体から流れてきた熱量が縦軸に伝わってくる。


「……レベル、上げないとな」


 何もできない時間というのは時に関係のないことを考えさせる。縦軸の頭は〈転生師(トラックメイカー)〉のことを考えていた。


「うん、大丈夫だ。絶対上手くいく。だけど、あんまり待たせたくはないかな。」


「……早く……起きて……」


 ていりの寝言について、縦軸は特に気にはしなかった。




 一方その頃、同じ建物内の別の場所にて。


「うあーん、見逃したーー!面白そうだったのにーーー!」

「先輩が来る途中で蜜柑ぶち撒けたお婆さん助けてたからよ。あとその映画、原作読んだけどつまんなかったわよ。特に主人公の性格がホンッッット最悪。見なくてよかったわ」


 微と音も来ていた。


「つーか、着いたんだから2人に連絡したら?先に着いてたら映画見終わってどっか彷徨いてるでしょ」

「うん、分かった!」


 電話だと声が聞こえづらいのでSNSで連絡する。送る相手はていりだ。



「うーん、音ちゃん、既読つかないよ?」

「じゃあまあいいわ。私たちもどっか適当にブラブラしましょ。ほら、行くわよ」

「はーい!」




 微と音がモール内を散策すること数分、縦軸とていりが見つかった。


「あっ見つけた、おーい縦軸くーん!ていりちゃーん!」


「あれ、先輩、十二乗さん。何でここに?」

「何でって、あんたそいつから聞いてないわけ?私たちも誘われたのよ。色々あって遅れちゃったけど」

「そうだったんだ。ところで、今はちょっと動けないんだけど……」

「まあ、仕方ないわね」


 ていりはまだ寝ていた。もちろん縦軸の肩に寄り掛かった状態で、である。


「にしてもあんた、虚って言ったかしら?ずっと()()()()でいたわけ?」

「……?そうだけど?それが何?」

「……気にならないの?視線」

「視線?」


 実はさっきから2人を見る人物はちらほらいた。だがみんなが暖かい目で見守りながらそっと離れていっていたのだ。


「はあ、まあいいわ。んで、この後どうするのよ?言い出しっぺのそいつが起きるの待つわけ?」

「そうだね。無理やり起こすのも悪いし。ところで先輩、どうしたんですか?」

「むぅーーーー……」


 微は少し羨ましそうな目になり、頬を膨らませながら縦軸を見ていた。


「……ずるい」

「え?」

「ていりちゃん気持ちよさそうでずるい!私も一緒に寝る!」

「先輩⁉︎うわっ、ちょっ!」


 微はていりとは反対側に座るとそのまま縦軸の膝の上で横になった。まあ膝枕というやつだ。目は瞑っているが、どう見ても起きている。


「あの、先輩?これ一体どうしろと……十二乗さん、何でスマホ向けてんですか⁉︎」

「……(パシャシャシャシャシャ)」

「おーーーーい!」


 この後、起きたていりは縦軸の膝で眠る(フリをする)微を見て、結局何も訊かなかった。




「ちょっと行きたい所があるんだけど」


 そう言ったのは音だった。

 そこから縦軸たちは何カ所か店を周り、音の買い物に付き合わされた。そして……


「あの……十二乗さん?」

「何よ?」

「遠出かい?」


 音が買ったのは、大きめのリュック、缶詰等の保存食、ナイフ、ランプ、バッテリー……などなど。まあどこか遠くに出掛けるための準備としか思えない物ばかりだった。


「……まあね」


 自殺未遂の少女が遠出の準備をしている。


「十二乗さん、あなた、()()()()()?」


 歯に衣着せぬ質問のていり。


「それが何?」


 包み隠さぬ返答の音。


「前話した自殺の動機は本当。だけど話してないこともあった。そういうこと」

「話してなかったこと?」

「両親とね、反りが合わないのよ。将来のことで揉めた。よくある話でしょ?」

「……やめなさいって、言ったら?」

「嫌よ。もう決めたの。第一、ここで生きて楽になれるの?それとも、苦労して両親を説得しろって言うの?まあ確かにそれが正しいやり方ね。でもね、それは嫌なの。なるべく苦労はしたくないのよ。自分勝手?自殺考えてる人間に何を今更?兎に角もう決めたことなの。決行前に話してあげただけでも有り難がりなさい。それだけ信頼してあげたってことだから」


 独白する音の目と言霊は、不動だった。


「……っ!」


 反論はしたい。だがそのための最適解は、ていりには見つからなかった。


「じゃあもう行くわ。まだ準備が残ってるから」


 そう言って背中を向けて立ち去ろうとする音を、彼はそれでも引き留める。


「待ちなよ」


 そう言う縦軸の目には、憎しみがあった。

デート回にするつもりだったのに……

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