表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生遺族の循環論法  作者: はたたがみ
第1章 民間伝承研究部編
15/165

転生遺族のむかしむかし3

回想シーンです。

 虚家と関わるようになったのは、私が小学生の頃からだ。


「やーい、こっちだよー!」

「待ってー!かーえーしーてー!」


 私の名前は原前(もとさき)作子(つくるこ)、当時小学1年生。帰り道にて男子どもに教科書を盗られていた。


「返してよ!お願い!」

「やーだねー。ほーら、とってこーい!」


 そう言って男子は私の教科書を明後日の方向へ投げてしまった。




「うーん。見つからないよー」


 私は教科書を探していた。しかしなかなか見つからない。そんな時だ、彼女に出会ったのは。


「あの、そこのあなた」


 女の子の声がした。


「もしかして、これを探してますか?」


 その子が持っていたのは、私が探していた教科書だった。


「向こうに落ちてたんです。あなたのですか?」

「あ、うん。そうだよ」

「そうですか、ではどうぞ」


 彼女はあっさりと教科書を返してくれた。


「えっと、ありがとう」

「いえいえ、気にしないでください。困ってる子がいたら助けてあげないと」


 何だかやけに丁寧な喋り方の子だと思った。後で知ったことだが、これは絵本のお姫様を真似ていたらしく、この先ずっとこの口調だった。



 この少女こそ、後の我が親友、(うつろ)(あい)であった。



 愛と仲良くなってから1年後、愛に弟が生まれた。両親は弟の世話で忙しく、愛も両親がかまってくれなくてきっと寂しいだろうと思った。ところがそうはいかなかった。

 愛も両親と共に弟(縦軸と名付けられた)を溺愛していたのだ。子どもの彼女が出来ることは少なかったが、よく縦軸に話しかけてあげたり、絵本を読んでやったりしていた。ちなみに私も愛に巻き込まれる形で縦軸にかまうようになった。




 それから3年後、私と愛は5年生に、縦軸は3歳になった。縦軸もよく喋るようになり、愛と一緒に縦軸のお世話をするのが私の日課となっていた。この頃にはもう家族ぐるみで仲良くなっていた。


「縦軸ー、おいでおいでー!」

「わーい!」


 縦軸が愛の元へ駆け寄っていき、思いっきり抱きついた。


「ふふ、やっぱり縦軸君は可愛いね」

「作子、何を今更?縦軸が世界一可愛いことなど証明なしでも明らかです」

「愛、それだと愛が勝手に決めたことになるよ」


 そんな他愛もない会話をしていたその時だった。小さな子ども(まあ当時の私たちもまだ小学生だったが)というのは時にこちらの度肝を抜いてくる。


「ねえねえ、おねえちゃん!」

「あら、どうしたの?」

「ぼくね、おおきくなったら、おねえちゃんとけっこんする!」

「、、、、、!」


 小さい子のお馴染みの台詞だった。


「あ〜い〜?顔が真っ赤だよ〜?」

「ちょ!ま、待ってください!これはちが、もう!そんなにニヤニヤしないでくださーーーい!」


 縦軸と一緒にいるとき、愛はいつだって笑顔だった。そう、縦軸と一緒のときは。




 始まりは中学生になってからだった。


「え!愛、バド部に入ったの⁉︎」

「はい、私は決意しました。この運動音痴という名の呪いを、絶対に解いてやるんです!」

「いやいやいや、やめとこうよ。練習はキツいし馴染むの大変だって。私と一緒に美術部に行こ?」

「え〜、私、絵下手ですし」

「だったら運動音痴はどう説明すんじゃい!」


 結局愛はそのままバドミントン部に入部した。



 それから数週間後のこと。体育の授業にて。


「それじゃあ今日の授業はバドミントンだ。取り敢えずバド部に見本を見せてもらおう。虚、あとええと……」


 先生が愛のペアに指名したのは、ウチのバド部では最強の女子だった。


「じゃあまず基礎打ちから見せてくれ。始め!」

「ハッ!」

「わっ!あわわわわ、えいっ!」


 飛んできた羽と愛のラケットがぶつかることもなく、愛は転倒した。


「プッ、やっぱ愛って天才だわ。もうオリンピック狙えるんじゃない?」


 これは侮辱の表現技法の一種だ。的外れすぎる褒め言葉は、それとは反対の意味の侮辱を表す。


「……っ!」


 愛も彼女の言葉の真意を悟ったのか、その顔には怒りが滲んでいた。だが何も言わなかった。彼女の教師嫌いはよく知っている。きっとあの体育教師が割り込んでくるのが嫌なのだろう。尤もあの女子と1体1の状況ならばどうにかなったとは思えないが。



 愛へのいじりは日に日にエスカレートしていった。教師たちは知ってか知らずか放置していた。まあどっちにしろ無能ということだ。

 愛は、教室では完全に気配を消していた。誰にも話しかけられたくなかったのだ。


 そして私は、何もできなかった。下手に横槍を入れれば今度は私がターゲットだし、愛がどんな手段で解決して欲しいかも分からなかった。


 私の目にはただ、延々と言葉で小突かれ続け、その痛みが消えていかない愛の姿が映っていた。あえてコミカルに例えるならば、龍が延々とダメージ1の攻撃をとめどなく与えられているような、そんな感じだった。



 その日は愛も私も部活が休みだった。


「はぁー疲れました。早く帰って縦軸を愛でねば。あ、作子、今日も遊びに来ませんか?」

「……」

「ああそうだ、もうすぐ中間テストですよね?勉強会したいなー、なんて」

「……」

「にしても今日の山田先生の解説は神授業でしたよね。特に平方根が……」

「愛」


 愛が立ち止まる。その顔はこの後の会話を察しているように見えた。


「愛はさ、その、苦しくないの?」

「……何の話です?」

「あいつらのことだよ」


 はぐらかしてはならなかった。


「愛さ、部活で酷い目に遭ってるよね。そのせいでクラスでも笑い者にされて、苦しくないの?何で笑ってられるの?」


 愛は、私や縦軸と一緒にいるときは常に笑顔だった。闇を隠していたのだ。


「……そりゃ苦しいです。でも、どうしようもないじゃないですか」

「……それは」

「あいつらと話し合って解決なんてできっこない。かといって教師には頼りたくない。分かりますか?詰んでるんですよ、私。だから耐えるしかないんです」


 耐えるしかないと言わせてしまった。最悪の状況が起きてしまっていた。だからこそ、


「何で頼らないのよ」

「へ?」

「何で私を頼らないんだよ!私はあなたの親友なんだよ!困ってたら助けるもんだろ!」

「つ、作子?」

「あんた1人だったらそりゃ詰むに決まってるよ!あいつらどうにかできるわけねえだろ!でもな、あんたには私がいるだろ!」

「作子……」

「あんたは何とも思わねえのかよ?あんたそんな馬鹿じゃないから思いつくだろ、仲良い奴頼ればいいって。気づいてただろ、私に縋ればいいって」

「……」

「それで思っただろ、()()()()()()()()()()って。」

「……!」

「私は今までずっと、親友(あなた)が苦しむ姿をただ()()()()()なんだよ?普通恨むだろ、ギルティだろ。傍観者なんて加害者とイコールなんだよ。だから、私を恨みなよ」


 私は止まらなかった。


「私恨んで、そんでもって文句言いなよ。『何で助けないんだ』って。じゃないと私、私、助けてあげられないんだよぉ……」


 私の方が何故か泣いていた。


「ごめんなさい。ごめんなさい……」

「作子」


 泣きながら蹲る私に、愛が寄り添ってくる。


「うぐっ……ひぐっ……ごめんね、ごめんね」

「泣かないでください。作子は悪くありません。悪いのはあいつらです」

「でも、私だって、もっと何かできるかもしれないのに、なのに……」

「作子……」

「ごめんね、愛。助けてあげられなくて……」


 我ながら情けなかった。今苦しいのは愛なのに、その愛に慰めてもらっていた。また1つ、彼女に苦労をさせてしまっていた。そうしてくれると信じる自分がいた。


「作子、泣かないでください。私だってまだ負けたわけじゃありません」

「……ふぇ?」

「いいですか作子、こういうのは屈したら負けなんです。こちらより先に相手の心が折れればいいんです」

「愛……!」

「だから私は明日も耐えます。私は負けないって、あいつらに分からせるために。だから作子、お願いがあります」

「お願い?」

「私の味方だって、約束してください。別に無理して行動を起こさなくてもいいんです。ただあなたという味方がいると思うだけで、私はいつまでも戦える。だからね?約束してください」

「……うん!約束する!私はぜーったい、愛の味方でいる!ずっと愛の味方でいる!」

「ありがとうございます。あなたのおかげで、私は絶対に負けません」



 これが中学1年の時の出来事。この時、私はこれでいいんだと思ってた。



 そして2年後、愛は自殺した。負けるどころか、全てを手放させてしまった。

今回はね、書いてて辛かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ