1話 似て非なる世界
「ぶ、ぶつかるー!!! …あれ?」
悪い夢を見ていたようだ。おかしなほどなんだか妙にリアルな夢だったなあ・・・。転落死だけは一生勘弁して欲しい。
そんなことより自分が今どこにいるのか全く記憶がないことに気づいた。目の前には雲一つない空が見えてた。体を起こしてあたりを見回してみると学校の体育館裏のようだ。そして近くに禍々しい紫色のナイフが落ちていることに気づいた。
なんでこんなところで寝ていたんだ?それにこのナイフは・・・、と思ったとき授業のチャイムの音が聞こえた。
「やば…、早く教室に戻らないと…」
急いで三階の教室に向かい、少し授業に遅れて扉を開いた。授業は歴史らしい。学校一先生として人気のイケメン社会科教師の鈴木先生が授業をしていた。
「遅いぞ白銀!、遅刻だ、早く席に着け」
鈴木先生に謝りながら、いつもの教室の一番後ろの端の席に向かった。しかし、僕の席には女の子が既に座っていた。それも僕の腐れ縁、所謂幼馴染が。いつも何かと僕に絡んできたり、ちょっかいをかけてくる鬱陶しい奴ではあるが、僕の数少ない友人だ。僕は、いつものいたずらかと思い、彼女に抗議しようとした。その時、彼女は不思議そうな顔をして僕に言った。
「なにしてんの?つむじの席あっちでしょ?」
と言いながら指を教室の中央にある空席を指した。
彼女の名前は城ケ崎小春という。天真爛漫な性格で男女問わない人気を誇り、さらにはモデルでもやっているかなようなスタイルと美貌を持ち合わせている。成績はいつも首位。黄金のように輝く金色の髪を腰までのばし、赤い大きな瞳は彼女の気品を輝かせる。父親が資産家らしく、お金持ちのご令嬢とオマケつきだ。お金持ちで、才色兼備、性格は明るく、典型的なお嬢様のような気取った感じもない、まったく火の打ちどころのない人だ。一つあるとしたら少し鈍感なところだろう。僕は小学生から学校が同じで、さらに父親同士が知り合いらしく、昔からよく二人で遊んでいた。
そんな彼女の性格は僕はよく知っているつもりである。彼女は、人の迷惑になるようないたずらはしない人だ。ましてや授業中などと。おかしいと思いつつ、彼女がいたずらをしていると考えることを止め、彼女の指さす方向に目を向けた。そこには確かに空席の席があった。
「おいおい、不遇職くんは自分の席もわからなくなったのかな~?」
小春の前の席に座っている男からそう話しかけられた。教室の一部で小さな笑い声が聞こえてきた。
不遇職?なにか皮肉を言われたみたいだが意味が分からない。けれど、意味は分からないのに、ものすごい恐怖を感じ、僕は声が出なかった。それにこの男に話しかけられたのは初めてだ。
正直よくは知らないけれど、名前を雨宮龍牙と言い、学校では悪い噂の絶えない所謂、不良だ。赤黒い髪を後ろで束ねたドレッドヘアー、肌は焼けている。背は高く、蛇のような鋭い目をしていて正直どっからどう見ても怖い。とても短気で、先生でさえ手がつけられない問題児だ。
いつも関わらないよう細心の注意を払っていたのに…。なにがいけなかった!? 遅刻か? くそぉ、あんなとこで寝なければ…。そう僕が内心で後悔している時、鈴木先生に席に早く着くように、催された。しぶしぶ空いている席に腰を下ろした。
「それでは、気を取り直して授業を再開します! みんなノートを出して。」
そう鈴木先生は言った後、授業は何事もなかったように再開された。しかし僕は授業どころではなかった。今日起きたことが気になって仕方なかった。あまりにもおかしなことが起き続けている。朝から記憶はないし、席は変わっているは、いつも話しかけられない雨宮君から話しかけられた。
極めつけは雨宮君が僕に言った、不遇職という単語だ。僕は学校でなんの委員会にも所属していなければ、アルバイトもしていない。意味も分からないのにあの恐怖は何だったんだ…。なぜか前からそう言われ続けていたような感覚だった。考えても考えてもなんにも分からないまま、時間が過ぎていった。
ふと、黒板に目をやった時、黒板の内容が気になった。鈴木先生は東京タワーについて説明してるようだった。前回は、日本史の中世ごろの内容だった覚えがある。それに黒板に書いてある東京タワーの絵は、よく知っている電波塔の形ではなく神話に出てくるような天まで届くような長い塔が描かれていた。あれは何だ?と考えていると、鈴木先生と目が合ってしまった。授業について質問されると、やばいと思ったが最後、案の定先生から質問された。
「よし。白銀! ちょうどいいから東京タワーは、何層まであるか答えろ。」
何層?見学できる階層の数ってことか?そう思った僕は不安ながら答えた。
「に、二層ですか?」
クラスから爆笑が起こった。
「白銀、外の塔を見ろ!二層に見えるか?」
そう、先生に言われ恥ずかしがりながら、窓の外に目をやると顎が外れるくらい驚いた。窓の外に黒板に描かれている、巨大な神話の塔のようなものが遠くに立っていたのだ。
「な、なんじゃありゃあああああああああ」