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「地獄には色が無い」


 イチョウの木が葉を落とす頃、何度目かの展覧会が催された。


 「やあ羽成さん。良く出来たと思わないかい」

 背広の息が締まりそうな服装が視界に入る。

 「嫌なくらい、亡くなった娘にそっくりだよ」

 いつもはシャキッとした首が、今日に限って座っていた。

 「嫌なの?」

 ええどうしょう。描きなおさなきゃかなぁ。

 「嫌じゃないよ。娘そっくりだ」

 しわしわの口元が僕に向いた。

 「でもなんで目が赤いのかね」

 よくぞよくぞ聞いてくれた。

 腰に手を当てて背を伸ばす。

 「赤はりんごの色だからだよ」

 「うん?」




  ○  〇  〇



 帰り道、豆腐みたいな形の住宅街を通った。

 僕のほかにも、肩をすくめたスーツ姿の男の人や、大きくため息を吐きながらベビーカーを押す女の人が歩いている。


 ここは地獄だ。

 きっといろんな人間の人生をめちゃくちゃにした、僕を罰する地獄なんだ。

 忌々しい呪いは山のように積み重ねられる札束こそ生み出すが、僕の欲しかった幸せはその札束では何一つ買えなかった。僕が知ることが無い色たちも、父からの称賛も、あの子の両腕も。


 一件の豆腐ハウスから嗅いだことのある甘―い匂いが漂う。

 「また食べたいなぁ」

 そうやって僕は、アップルパイの香りが漂う、地獄のようなこの世界を生きている。


  「完」

 


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