第一話 「解放」
石垣の壁は西日で影を作った。
歩くたびに砂利が擦れる音が、酷く心をざわつかせる。顔を上げて反対側の川を見るが、どす黒い水が波を打っていた。
モダンチックな街灯と合わせて、どこか古めかしいこの道を、きっと普通の人はおしゃれだと言うのだろう。
そうだと思えない自分が通っていい道ではない。
木の板で構築された古めかしい集合住宅。その外壁を囲うかのように無尽蔵に配置された鉢が、いろいろな形をした花で生い茂っていた。
一見すると童話に出てくるような建物。その建物と添えられている花々が何色なのか、今はまだ知らない。
○ ○ ○
私の視界から色が無くなったのはほんの数か月前。思えばもっと前からだったのかもしれないが。
教室の窓側で友人と話していた時、話題が天気の話になって、相手と私の意見が両極端だったことがきっかけだった。初めは空の色からだったのが、クラスメイトの身なりや教科書の写真、しまいには色ペンまで、どれがどれだかわからなくなっていった。
眼科に行っても、原因がわからなかった。不便だからと何件も別の病院に行った。しまいには心因性のものかもしれないと、心療内科を進められた。
何をしてこうなったのかわかるかと尋ねられた。
多分わからないと嘘をついた。
頭の片隅にひっそりと、その多分が顔を覗かせていた。
○ ○ ○
ミシミシと響く。木の板を張り合わせただけの階段を上り、最上階である四階へとたどり着く。ところどころ歪んでいる廊下をまっすぐ歩き、奥の一室へ向かう。
不用心にもドアを開けっぱなしにされていた。ドアのふちに手を添える。
「小田巻さん」
紙やら鉛筆やらの画材道具が散らかってる部屋を開ける。テーブルに置ききれなくなったであろう文房具が床にまで浸食し、その上を覆うかのようにして埃が積もっている。
そして肝心の家主は今だ夢の中なのだろう。
この家の家主は三十路の男性。髪も肌も真っ白なアルビノの画家。
それだけでも個性というか、突飛だがそれだけではなかった。
彼が描く絵は全て白黒なのだ。




