お嬢様はブラコンを目指します(2)
私が目覚めた時には、自室のベッドに寝かされていた。
「ん・・・・」
目を開けてみると、数少ない知った顔が勢ぞろいしていた。
「アリサ!」
「アリサよ!」
「姉さま!!」
「お嬢様!!!」
「アリサ様!!!」
それぞれ私を呼ぶ。
ああ、心配かけてしまった。
異世界に来て早々やらかすとは、大失態だ。
開口一番謝罪する。
「みんな……ほんとにごめんなさい……」
私の声を聞いてみんなため息をもらす。
「旦那様。本件に関しましては全て私の責任でございます。
お嬢様を見失ってしまった私に全ての否がございます。どんな罰もお受けします」
ジェラルドが父に頭を下げた。
私はすぐに否定する。
「ちがうんです!父様!!わたしが勝手にジェラルドから離れてしまったのです。
本当に申し訳ありません!!!」
父様はため息をつく。
「アリサ……。今回は君が傷つくような事がなかったからいいが、外は……貴族である君には危険な事が多いんだ。そこの所をキチンと説明しなかった私にも非がある。
しかし、一人で出歩く様な事は今後一切しないでほしい。
ソフィだけでなく、君まで失ってしまったら私は……」
父様の気持ちに気がつき、私は心底反省した。
「父様…本当にごめんなさい。もう絶対、二度とこのような事はいたしません」
私は父様に抱きついた。
そっと私を抱きしめ返してくれた父様は少し震えているような気がした。
そして私は気がつく。
「そういえば、彼は!?あの少年はどうなったの!!?」
彼とは狐の耳がある、あの男に虐げられていた傷だらけの少年だ。
「ああ、あの子はアリサがどうしても離さなくてね。傷もひどかったし、ひとまず屋敷に連れ帰ってきたよ。それに彼はどこからか奴隷として売られてきたみたいだね。丸焦げになっていた男の仲間が自白したみたいだよ。」
よかった……。彼を助けられたのだ。
「しかしアリサ。どうしてあのような事になっていたんだい?」
アリサはポツポツとその時の事について話しだした。
大通りを歩いていたら、いつの間にか迷子になっていた事。
すると、裏道の方から呻くような声がする事に気がついた事。
ジェラルドとエリックを探して、戻ろうと思ったが、少年が踏み付けられている場面を目撃し、気がついたら飛び出していた事。
そして、男に捕まりそうになった瞬間。
何故か目の前がピカっと光って、目を開けたら男が丸焦げになっていた事。
みんなはその話を聞いて驚いていた。
正直貴族のお嬢様としては驚くポイントが多すぎて絶句状態といった所だが、多分一番驚いたのは「ピカッと光って、目をあけたら男が丸焦げになっていた」の部分だろう。
それを聞いたおじいさまが私に尋ねた。
「アリサ。君の世界では魔力というものがなかったと言っていたが?」
「あ、はい。私の世界には魔力の存在がありません。しかし母から魔力を受けついだ私は何故か大量の魔力を持っていたようで、母が神様に頼んで封印していたとの事でした。
昨日神様と話をした際に解除してもらいました」
……………………。
全員固まっている。
何かおかしな事をいったのだろうか?
ソワソワとみんなの顔を見渡すわたしにジェラルドが言った。
「…それならばあの状況、合点がいきますね」
「アリサ、きっとあの男が黒焦げになっていたのは君の魔力が発動したからだ」
え?魔力が発動??
わたし特になにもしてないんだけど???
ポカーンとする私に父様が説明を続ける。
「本来、体内にめぐる魔力を発動源となる部分に集め、念じることにより初めて発動するんだ。……だが、君は何もしていない………ソフィが感じていた通り、君の魔力は規格外の可能性が高い…」
えええええええええ!!!?
この世界に置いてもそんなに規格外なの!!?
神様からその可能性は聞いていたけど、魔力のない元の世界と、魔力が身近なこの世界では感覚に差があるだろうと思っていたのだ。
なんだかとんでもないチートの可能性を秘めてたりする??
もしそうだとしたら、この世界でもなんとか生きていけそうな気がして嬉しくなる。
そんな事を考えていたら、わたしは気がついてしまった。
エリックの顔が真っ青だ。
「エリック!?」
思わず声をかける。
「…姉さま、よかったですね。この世界に置いて魔力の大きさは重要視されることの一つです。父様、僕も少し疲れてしまったようで、今日はもう下がらせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「ああ、大丈夫だよ。お前も巻き込んで悪かったね。ありがとう。ゆっくり休みなさい。」
父様はエリックに優しく声をかけた。
エリックはすぐに退室したが、父様が小さくため息をついた。
私は後日、魔導院という場所に行くことになった。
そこで体にめぐる魔法量を測定する事ができるらしい。
自分のチートな可能性を見出しワクワクな私だ。
だけど、それよりも気になるのはエリックだ。
知り合ってたった2日しか経っていないが、私の中ではもう大切な弟だ。
この2日……なんとなく顔色が悪い。
もしかして持病でも抱えているんじゃないか?
だとしたら、わたしの世界での知識が役立つこともあるのではないか?
そんな気がして、窓際の花瓶の水を取り替えるマリンに声をかける。
「ねえ、マリン?」
「はい、なんでしょう、お嬢様」
「私ちょっと気になった事があるんだけど…聞いてもいいかしら?」
「もちろん!わたくしがお答えできる事であれば何なりと」
「あのね………エリックの事なんだけど。あの子顔色が悪いような気がするの。
たった2日しか経っていないから、思い違いかもしれないと思ったんだけど……でも、やっぱりどうも違うよう気がするのよ。
あの子、持病でもあるの?」
マリンはちょっと困ったように微笑む。
「いいえ、エリック様は健康体でいらっしゃいます」
「じゃあなんであんなに顔色が悪いのかしら?わたしが来る前からあんな感じなの??」
核心をついたのだろう。マリンが動揺している。
そして割と勘がいいほうである私は気がついた。
原因はわたしか!!???
でも私は何もしていない。いじめなんて絶対しない!!
念願叶ってあんなにかわいい弟ができたんだもん!
いじめるわけがない。
それはエリックにも伝わっているはずだ。
ウザイくらいに……。
もしかして対人恐怖症!!?
いや、それもないな。怖がっている様子ではなかった。
じゃあ何か私が現れたことで不都合があるのだろうか?
!!!!!!!!!
そうか、ようやく気がついた。
彼は養子だ、ソフィはこの世界にいないのだ。
当たり前だが実子じゃない。
なぜこの家の養子になったかというと、後継が必要だったからだ。
そこにソフィの(この家の本筋の)実子が現れたのだ。
普通に考えたら、正当な血筋のものが現れたのだから、継承権は私にくる可能性が高い。
だとしたら彼は??
自分の必要性がなくなったと感じるかもしれない。
なんてことだ!!!
こんなわけがわからない娘が急に現れたせいで、彼は居場所を失いつつあるのだ。
そんな事があっていいはずがない。
エリックは多分優秀だ。
この家を継ぐため、わずか5歳にして努力しているのだ。
あああああああ、なんですぐに気がつかなかったのだろう。
彼は私が現れ絶望したに違いない。
なのに無邪気に仲良くなりたいという私の手を払わなかった。
彼を傷つけたであろう自分が許せない!!!
なぜってわたしはもうれっきとしたブラコンなのだ!!!!!
いや、まだ2日だから自称ブラコン……ブラコン候補?ブラコン予備軍か??
ええい、もうなんでもいいや。
とにかくエリックを溺愛予定のお姉さまなのだ!!!!!
わたしは早速行動を起こす。
先に謝っておこう。
手のかかる娘でごめん、父様!
美少年な弟を手に入れたアリサは立派なブラコン(?)になります。
お姉ちゃんはがんばります。
美少年は正義なのです!←