表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ある天才科学者の失敗

作者: チャッピー

昔々とある日本の小さな村に、自他共に認める天才科学者がいた。

彼は常に完璧な発明を求め、彼の発明品は世界中の人々に賞賛され、使われた。

様々な発明品の中でも彼は時計を一番気に入っていた。彼の作った時計は、半永久的に時を刻み、その間一秒もずれることはないという素晴らしい発明品だ。

時計好きな彼は、時計と同じく時間をきっちり守る性格だった。

待ち合わせのときは必ず五分前には待ち合わせ場所にいて、相手が待ち合わせの時間に少しでも遅れると腹を立てて帰るのであった。

そんな彼がある日、大変な失敗を犯した。

その日は世界各国の科学者たちが東京に集まり、自らの新しい発明品を見せ合う会合が開かれる日だった。

そのことをすっかり忘れていた彼は、正午過ぎまでぐっすり寝てしまった。

その会合が始まるのは午後4時からだ。

どれだけ急いだとしても彼の住む村から東京へ行くとなると会合には絶対間に合わない。

それに彼は新しい発明品も作っていなかったのである。

彼は途方に暮れた。

が、さすがは天才、すぐに頭を切り替え、発明に取りかかったのである。

「たとえ新しい発明品を作れたとしてもどうせ会合に間に合わないのだから無駄さ。」

と読者は思ったかもしれない。

だが、彼は天才である。

彼が作ったのは時計だった。

ただの時計ではない。

それは時間を止めることのできる時計なのであった。

これさえあれば、会合に間に合うし、発明品としてもとても素晴らしい。

彼には失敗などないのである。

いや、正確に言うと、彼はたとえ失敗を犯したとしても、その失敗をなかったことにできるほどの天才だったのである。

彼はさっそく時計で時間を止めて外に出てみた。

すると町行く人が皆固まっていた。

発明は成功したのである。

彼はゆっくり食事をとり、風呂に入り、新調したスーツを着て、車に乗り込んだ。


この車も彼の発明品の一つである。この車は船にも飛行機にもなる優れものなのである。

4時間ほどの海の旅を楽しみ、東京に到着し、止めていた時間を元に戻した。

まだ時間に余裕があったのでそこら辺をぶらぶらしていつものように五分前に会合の開かれる会場に入った。

会合が始まり各国の科学者たちは順番にそれぞれの自慢の発明品を発表していった。

そしていよいよ彼の順番がやってきた。

「私の発明品は、時計です。」

彼がそう言うと周りはざわついた。

科学者の中の一人が、

「確かにあなたの時計は素晴らしい発明品であり、世界中の人々が愛用しています。私もその愛用者の一人です。ですが、今回の会合は新しい発明品を見せ合うためのものなのですよ。」

と言った。

周りがざわつく中、彼は落ち着き払ってこう言った。

「まあそう焦りなさんな。私が作ったのはただの時計ではありません。なんと時間を止めることができる時計なのです。」

すると、周りはより一層ざわついた。

彼はとても得意気だった。

「では、実際に時間を止めますよ、それ。」

時計のスイッチを押すと時間が止まった。

しばらくの間、時間を止めてまた元に戻した。

「どうです。これが私の発明品です。」

会場が拍手と賞賛の声でいっぱいになる、はずだった。

しかし、なぜか会場は静まりかえっていた。

「どうです。これが私の発明品です。」

彼がもう一度言うと、科学者の一人が、

「発明品が作れなかったのなら作れなかったと正直に言ってください。では、次はカナダの方、発明品の発表をお願いします。」

と言った。

彼にはその科学者が何を言っているのか、なぜ会場が静まりかえっているのか全く理解できなかった。

彼は冷静に考えた。

すると、とんでもないことに気づいた。

彼以外は時間が止まったことに気づいていなかったのである。

彼はその日から世界中に嘘つき科学者として知られるようになった。

その後の彼の行方を知る人は誰もいない。


今日も時間は止まらない。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ