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3.俺はこんなにも愛されていた

「おい待ってくれ、それってどういうことだ」

「まさかウチも旅人なんかに憑依させることになるとは思ってなかったんだよ、それ以上のことは秘密」

 詳しく話を聞くために引き留めようとした瞬間、サリーは唇を重ね合わせてきた。


「っ!?」

 突然唇を奪われた俺とそばで見ていたミリアはなにがあったのか理解が一瞬追いつかず茫然としてしまった。

 おいおい、ミリアがすごい目でサリーを見てるぞ。なんかしでかしたりしないだろうな。


「ず、ずるい! 私ですらまだ和也とチューしたことないのに!」

「早いもの勝ちだよ、ウチが一番なんだって~」

 嬉しそうな目でサリーが俺の目を見つめてくる。

 そりゃあこんなにかわいい子とキスができるのはうれしいに決まってるけど王女様と結婚の約束してる俺がこんなことしてていいんだろうか。

 なんだかいよいよ全国民に晒しあげにされて石でも投げつけられる気がする。


「ねぇ和也様、これで少しは不安そうな顔じゃなくなったね」

 そうか、こいつは俺が不安そうにしてるのを見て和ませてくれてたんだな。

 この部屋の雰囲気は最悪だけどな、ミリアも兵士さんたちも鬼の形相でこっち見てるよ。


「旅人様は死刑というものをご存じですか?」

「急にどうしたんだ!?」

 おい兵士、そんな物騒なこと聞いてくるんじゃない。

 なんかこれから俺が死刑台に引っ張られて死刑にされるみたいじゃないか。


「羨ましかったけど、とりあえず今後のことを考えないとね」

 さっきまで王女様がしてはいけない顔をしていたミリアが空気を変えるために今後について話し合おうと提案してきた。

 確かに俺もこのままこの城に居候することも難しいだろうから、一体どうしたらいいのか考えないといけないな。


「正直俺はどこに住んでいたかも全く覚えていないんだ」

 覚えているのは名前だけということにしておこう。

 そうしたらある程度みんなが助けてくれるかもしれないし、なによりも嘘を言っても住むところがないとなればこれからの生活に支障がでてきてしまう。


「それだったら和也様はウチのところにくればいいよ」

 そう言ってサリーが俺の腕にぎゅっと抱きついてきた。

 なにがとは言わないけど当たってるよ。服の上からだと分からなかったけどこんな風に抱きつかれていると女の子であることを実感させられて少しドキドキとしてしまう。


「そんなの絶対私が認めない、王女特権で絶対にあなたたちを引き離します」

 そんな職権乱用許されるわけないだろう。

 だけど目が本気ですごい怖い、もしかしたら本気でそういうことをやってくるかもしれないと思わせてくる。


「だけどウチに抱きつかれて和也様は嬉しそうだよ?」

「火に油を注ぐなサリー、お前も引き離されたら色々面倒なんじゃないのか」

「女の子に抱きつかれたいがために和也がそんな言い訳するなんて思ってなかった」

 いやいや、そんなつもりなかったのにミリアが体育座りして泣き始めちゃったよ。


「ミリアのその衣装でその恰好はパンツが見えそうだからやめておいたほうが……」

 これってもしかして失言だったか?

 言ったあとに後悔してももう遅い。あとの祭りというやつだ。

「和也のバカ! もう知らない!」




「城の外につまみ出されてしまったな」

「いまのはどう考えても和也様が悪いからね?」

 さっきまでミリアをおちょくって遊んでいたサリーすら今はあっちの味方だ。

 俺の発言はそんなに問題があったのか。


「それにしてもどうしたもんかな、住む場所もなければ食べ物もなんにもない」

「食べ物ならここにあるでしょ?」

 そう言ってサリーはお尻を可愛らしく振ってきた。


「なんだ、お前が食べ物でも錬成してくれるのか」

「和也様って現実世界で空気が読めないとか言われてなかった?」

 今後のためにそういうところがダメだったからいじめられてたんだよなとサリーがひとりで納得している。

 確かに思えば相手の冗談に真面目に答えてたり適当に受け答えしたりしてたような気がするな。

 こんなところに俺が嫌われるきっかけがあるなんて考えもしなかった。


「それはそれとしてどうして俺はこんな世界にお呼ばれされたんだ?」

 いやきっと嫌われてたのはそれが原因じゃないだろう。

 そんな風に自分に言い訳をしながら城の中での話に戻った。


「どうしてって言われてもウチが結婚したいからだよ」

 サリーっていう女の子は少し頭のネジが何本かなくなっている子なのかもしれない。

 現実世界の俺の行いも見てて結婚したいなんて思うやつがいるわけないだろ?


「和也様ってホントに色々と適当だったんだね」

 やれやれとジェスチャーで俺に伝えてくるサリーは続けてこう言った。


「下駄箱とかに手紙入ってたりしたでしょ? もしかして読んだことなかったのかな」

 確かに入ってた気がするな。

 それも俺のことを嫌っている連中だと思ってたから完全に無視してゴミ箱にポイっと捨ててたけど。


「それじゃあこういえば伝わるかな、ウチ先輩の高校に転校してきたはサリーだよ」

 俺の学校に転校してきただって?

 こんなにかわいい子が転校してきてたら学校中で噂になるだろうしさすがに俺の記憶にあると思うが、記憶を手繰り寄せてもあまり思い出せなかった。


「二年も後輩だから仕方ないかもしれないね、だけどこの高校に入った瞬間からずっとずっと好きだったんだよ」

 サリーがそう言ったあと俺を好きになった経緯を説明し始めた。

 どうやらサリーは転校初日から俺のことが気になっていたらしい。


気になっていた理由というのはなにをされても我慢していて手をあげることをほとんどしなかったからだそうだ。

だけど辛そうにしている俺を見かねてどうにか助ける術がないかと考え続けた結果行きついた場所はこの世界。

現実世界と離れた世界での生活をしてもらえばきっといまみたいに辛くなることはなくなるだろうと思いたったサリーは早速行動に移していた。

そうして今現在こうして俺を引っ張り込んでサリーのやりたいことはうまく成功したということらしい。


「ねぇ和也様、現実世界に帰りたい?」

 そう質問されたときに俺は「帰りたい」という言葉をすぐに出すことができなかった。

 さっきまで大変だったのに、不安だったのに、帰りたいと思ってたのに上手く口に出せない。


「俺は……」

 そうだな、きっとそういうことなんだろう。

 そう思った俺はサリーに向けて、そして城の中にいるミリアに向けてこう言うことした。

 俺は一体どう思ってるのだろうか。

 深く悩んだあとに俺はこう口にした。

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