1.目が覚めたら王女の膝で眠ってた
自殺の名所。
誰しも知っているだろう。多くの人間が現実に絶望して身を投げていたり、この世から立ち去ることを選んだ人間が多く訪れた場所のことだ。
そんな自殺の名所の山の中に俺はひとり立ち尽くしていた。
別に今日ここで死んでしまうおうなどと思っているわけじゃない。
しかし俺はこの場所に惹かれるように山の奥へと入ってきてしまったのだ。
学校では不当な扱いを受けている。言葉にできるほどのことでもなく手もほとんど出されていない。
ただ周囲の視線が俺を見るときだけキツい目を向けてくるのだ。どんな時も如何なる時でもそんな目線を向けられていてはたまったものではない。
こんな風に語っているがクラスの奴らが俺に近寄らなくなっていたのはなにも俺に責任がないと言っているわけじゃない。
前に何度か手をあげて殴りかかろうとしてくる奴らもいたぐらいなんだ。
だが手をあげてくるといってもそいつらは素人、格闘技を一通りやっていた俺は軽く受け流しているつもりだった。慣れない格闘技なんてやるもんじゃないと思ったなあの時は本当に。
結論から言えば受け流しているつもりが相手の腕を掴んでアスファルトの上にかなりの力で叩きつけてしまった。
時間は下校時刻、もちろん多くの生徒が見ていて先生なんかも俺に向かって走ってきた。
これ以上抵抗することもないだろうと思い俺は大人しく先生方についていき停学処分を言い渡されてしまったのだ。
これからどうしようか。
そんなことを思いながら自殺名所をスマホで見て歩いていたらこの山に惹かれて歩いてきてしまったというわけだ。
「そういえばこのサイトに載ってた99って一体なんだんだろうな」
99人目の来場者ということだろうか。それになんで100じゃないのにご丁寧に金色に輝いている。そろそろ暗くなるしこんな場所からは早く帰るか。
時間は午後6時でそろそろ日が暮れてくる時間だろう。こんな山で一夜を過ごしたくないし遭難もしたくない。そう思い俺はすぐに来た道を引き返すことにした。
「来るときも思ったがここのつり橋めちゃくちゃ怖いな」
穴だらけでいまにも崩れ落ちそうなつり橋を渡って帰らなくてはならない。
だけど暗くなってからこんなところは通りたくないからゆっくりと足を進めることにした。
この行動が迂闊だった。俺のこれからの人生が大きく変わることになるなんて誰も思ってなかった。
気づいたときにはもう遅い。俺の足はつり橋から大きく外れて大きく体勢を崩してしまった。
最後に家に電話でもできたらいいな。
そう思って最後に携帯を開いたときにはさっきのサイトに【あなたは異世界で生きることを選択しました】と表示されていた。
なんだよ、俺ってやっぱりこの世界に不満だらけで死にたかったんじゃないか。
冷静に自分のことを分析して、俺の意識は死を受け入れるようにゆっくりと遠くなっていった。
「……っ。意識が戻ったんですか……?」
俺の耳に可愛らしい声が響き渡りふと目が覚めた。
なんだ、俺は死んだはずじゃなかったのか。
ゆっくりと目を開けると人形と見間違うぐらいキレイな女の子が俺のことを心配そうに覗きこんでいた。
それに頭のところがなんだかすごく柔らかくて暖かいような気がする。
「おい貴様、旅人様が目を覚ましたのだから早く食事を用意しなさい!」
俺にかけた声とは違う切れ味の鋭い声で女の子が声をあげると、奥から少し怯えたように返事が聞こえた。
「旅人様を驚かせてしまい申し訳ありません」
今度はまた心配するような声色に戻り俺に話しかけてきた。
「それは大丈夫です、そんなことよりここは一体どこですか?」 そんなふとした疑問を問いかけると女の子は驚いたように目を丸くした。
俺はいま変なことを言ってしまったのかもしれない。
「覚えてらっしゃらないのですか、あなたは少し前に魔王を討伐して意識を失ってしまったのです」
そういって女の子は窓の外を見つめていた。
魔王を倒した? 一体なんのことを言っているんだ。
「人違いじゃないんですか、俺にはそんな記憶全くなくて・・・・・・」
「人違いなんてことはありえません、私はきちんと旅人様をお見送りして帰ってきたら婚約するという約束までしてしまったのですから」
結婚だってよ。一体どうなってるんだ。
よく周囲を見回すと普段見慣れないような雰囲気の建物の中だった。
それに俺はどうやらこの可愛い女の子に膝枕をされているらしい。
「ごめんなさい、あなたの名前も魔王を倒したという記憶も全くありません」
ここは素直に白状しておこう。下手に嘘をついてこれから大事になっても大変だからな。
善意で言ったつもりが女の子は瞳に涙をためてさっきよりも大声で叫びだした。
「だれかお医者様を用意しなさい、旅人様が大変なことになってしまっています!!」
その大きな叫び声はこの建物中全体に響いたのか色々なところから男女問わずの返事が返ってくる。
えーと。俺ってもしかしてまずいことを言っちゃったのかな。
そう思うころには多くの医者がこの部屋の中に続々と入ってきた。
(俺ってこれからどうなるんだろうな)
死ぬつもりがなかったのに死んで、気が付いたら俺は女の子の膝の上で目が覚めていた。
これ以上大変なことにはならないでほしいと心から願うばかりだ。
平日に一話ずつ投稿していこうと思っているのでよろしくお願いします。