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攻撃魔法は苦手ですが、補助魔法でがんばります!  作者: 緋泉 ちるは
第3章 辺境の街 トレンティア編
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弓月の刻、ローゼさんから手紙を受け取る

 朝ですね……眠いです。

 窓から差し込む朝日が僕の顔にあたり、意識を覚醒させようと攻撃をしてきます。

 ですが、僕は補助魔法使いです。そんな攻撃なんてききません。

 朝日を避けるために寝返りをうち、攻撃を避けます。しかし、失敗に終わりました。

 う、動けないです。

 理由を確かめようと、重い瞼を開けようとしたとき、柔らかい何かがおでこへと触れました。


 「う……ん?」

 「ユアン、起きた?」


 動けない理由、それはシアさんでした。

 あぁ、いつものですか。

 なら問題ないですね。

 

 「もう少し……」

 「わかった」


 シアさんの匂いです。落ち着きます。

 僕が目覚めた事に気付いたからか、シアさんの拘束が緩まりました。僕はその隙を見逃さず、朝日から隠れるように布団にもぐり、シアさんの匂いを求め、シアさんを抱き枕にします。


 「ユアン、ぎゅー」

 「ぎゅー……」

 「もっとぎゅー」

 「ぎゅぅぅぅぅぅぅっ」


 暖かくて柔らかい抱き枕。とても気持ちいです。


 「朝から何やってるの?」

 「仲良し」

 「見ればわかるよ」

 

 布団を無理やり剥され、朝日が僕を襲います。


 「眩しいですー……」

 「朝だからね。それよりも、ギルドマスターが来てるよ」

 「そうですか……スノーさん頑張ってください」

 「弓月の刻のリーダーはユアンでしょ、しっかりして」

 「わかりました……」


 伸びー!

 耳と尻尾も一緒に伸ばします。


 「ふぁぁぁぁ……」

 「ユアンさん、可愛い」

 「うん、ユアンは可愛い」

 「そうね」


 予想以上に昨日は疲れていたようで、伸びをしても眠気があまりとれません。

 

 「シア、ユアンどうしたの?いつもなら朝は割とすぐに起きるのに」

 「疲れてただけ」

 「そうなの?もしかして……朝までしちゃった?」

 「してない」

 「何の話ですか?」

 「ユアンさんにはまだ早いです!」


 よくわかりませんが、下でコウさんが待っているようなので、ゆっくりですが着替えをします。


 「それじゃ、私は先にギルドマスターの所に行ってるから、なるべく早くお願いね」

 「わかりました」

 「私も先に行ってます」


 スノーさんとキアラちゃんが部屋を出ていきます。

 その辺りでようやく頭が回ってきました。


 「シアさん、身体の調子はどうですか?」

 「問題ない」

 「良かったです。ですが、今日一日は休んでてくださいね」

 「わかった、釣りしてのんびりしてる」


 できれば、部屋でゆっくりして欲しい所ですが、シアさんが大丈夫だと言い張るので、無理しない程度ならと伝えておきます。

 着替えも終わり、下に降りると、ソファーに疲れた表情でコウさんが座っていました。


 「お待たせしました」

 「構わない。むしろ朝から悪かったな」

 「いえ、大丈夫ですよ」


 コウさんは昨日から寝ていないように見えますね。どこのギルドマスターも徹夜が日常なのでしょうか?


 「それで、ご用件は?」

 「昨日の事についてだな」

 「その後、魔物の方は?」

 「今の所確認は出来ていない」


 全ての魔物を倒したかまではわかりませんが、一段落は付いたようですね。


 「それで、昨日捕らえた蛙の魔物だが……」

 「タンザの領主、と言っていましたね」

 「あぁ、その通りだ。夜通し尋問を行った結果、少しわかった事がある」

 

 夜通し尋問を行っていれば、疲れるのは当然ですね。コウさんが疲れた表情をしているのにも納得できます。

 

 「一つは、この事件に魔族が関与している事だ」


 それは予想通りでしたね。


 「では、あの角も魔法陣も魔族が?」

 「そうだ」


 となると、トレンティアに魔族が侵入していたという事になりますね。

 

 「その魔族はどうなりましたか?」

 「どうやら逃げたらしい。まぁ、それが2つ目に繋がる訳だが……」

 「逃げた方法に問題があったのですか?」

 「あぁ、どうやら魔族は転移魔法が使えるようだ」

 「転移魔法ですか……」


 魔法陣を使い、決まった場所を行き来できる魔法の事ですね。

 複雑な魔法陣に加え、人を移動できる魔法故に大量の魔力を消費すると言われています。

 魔族は生まれつき魔力が高い種族なので、可能なのかもしれませんね。


 「そして、3つ目になるが……昨日の今日で悪いと思うが、その魔法陣を弓月の刻にどうにかしてもらいたい。もちろん、出来ればの話だが」

 「僕たちにですか?」

 「あぁ、これは指名依頼だからな」


 指名依頼という事は誰かが僕たちを指名したという事ですね。


 「それは、ギルドからですか?」

 「いや、トレンティア領主のローゼ様からだ」

 「ローゼさんでしたか」

 「どうだ、まずは話だけでも聞いて貰えないか?」

 「そうですね……」


 僕は仲間の顔を見ます。


 「ユアン次第」

 「私もどっちでもいいよ」

 「ユアンさんにお任せします」


 相変わらず、僕に決定権があるみたいです。

 どちらにしても、ローゼさんに話を聞きたいことは山ほどあるので、僕の答えは簡単に決まります。


 「わかりました、お受けします」

 「助かる。では、俺の役目はここまでだ。詳しくは直接ローゼ様に聞いてくれ」


 どうやら、コウさんはローゼさんに頼まれて僕たちの下に来たようです。

 ギルドマスターを使いにするとは、ローゼさんらしいですけどね。それだけ、ギルドを動かす力があるという事でもありますけど。

 普通なら、ギルドと街の領主は協力関係にありますが、そこに序列は存在しない筈ですからね。

 

 「いつローゼさんの所に行けばいいのですか?」

 「そうだった、これを忘れていたな」

 「なんですか?」


 封筒に入った一通の手紙を渡されます。


 「中の内容はわからん。俺が確認する訳にはいかないからな。だが、恐らくそこに依頼内容とかが記載されているのだろう」

 「わかりました」

 「では、俺の役目はこれで終わりだ。ローゼさんの件が終わったらギルドにも顔を出してくれ、報酬の受け渡しが終わっていないからな」

 

 コウさんが立ちあがり、部屋から出ていくのを見送ります。

 そういえば依頼報酬はまだ受け取っていませんでしたね。森の調査と魔物の撃退……どらくらい貰えるか少し楽しみです!


 「ユアン、手紙は読まなくていいの?」

 「あ、そうでした」


 報酬の事で浮かれ、手紙の事を忘れかけてしまいました。けっして、完全に忘れた訳ではないですからね?

 封を開け、中の紙を取り出すと、白紙の紙が入っていました。


 「いたずらですかね?」

 「わざわざそんな事しないと思うけど……ローゼ様だからなぁ」


 何も書かれていない、紙をテーブルに置き、何なのか考えていると、キアラちゃんが何かに気付きました。


 「これ、魔力が込められてますよ」

 「本当ですか?」


 紙の魔力を探ると、確かに魔力を帯びている事がわかりました。

 手に取っただけではわからない程度の微量の魔力です。


 「よく気づきましたね」

 「うん?誰か、喋った?」

 「いえ、何も喋ってないですよ」

 「私もです」


 となると、後はシアさん?

 

 「違う、そっち」


 シアさんはテーブルの方を指さしました。


 「そうそう、こっちよ」

 「紙がしゃべりましたよ!」

 「紙じゃなくて、私よ」


 紙の上に半透明な女性が現れました。

 そして、その女性には見覚えがあります。かなり印象に残ったので忘れるはずがありません。


 「えっと、精霊さんですか?」

 「そうよ、私は樹精霊ドライアドのフルールと申します」


 スカートを掴み、そっと持ち上げ、軽く会釈し僕たちに挨拶をします。一連の流れがとても優雅で思わず見とれてしまいます。


 「そんなに見つめても、私はローゼがいますのでいけませんよ?」

 「あ、すみません」

 「冗談ですよ」


 うふふと笑う姿はまるで貴族のお嬢様を彷彿とさせます。


 「それで、フルールさん……様がどうして僕たちの所に?」

 「昔から大事なお客様の招待は私がさせていただいておりますから。といっても、何十年振りの招待か覚えていませんけどね」

 「招待ですか?」

 「えぇ……明日の夕刻、お迎えに参りますので、是非とも夕食会にご参加下さい、と主からの伝言でございます」

 「主?」

 「我が主は、ローゼ・アルカナ・トレンティアと申します」

 

 つまりは、フルール様の主がローゼさんで、フルール様は精霊という事は。


 「契約しているという事ですか?」

 「その通りでございます」

 

 昨日から色々ありすぎて頭が追い付かなくなりそうです!


 「それで、返事の方をお伺いしても?」

 「あ、はい。よろしくお願いします」

 「畏まりました。主に伝えておきます故、明日の夕刻までお休みください」


 失礼致しますとフルール様が紙の中に消えていきました。

 そして、その紙を手に取っても、既に魔力を感じる事が出来ず、ただの紙になっている事に更に驚きます。


 「普通の紙ですね」

 「ローゼ様らしいやり方だけどね」

 「そうなのですか?」

 「うん。普通の手紙は誰かに読まれる危険性があるけど、これなら特定の人に渡らない限りは読まれる……というよりも、フルール様が伝言をしているから、伝わりようがないよね。後、ローゼ様が楽しんでいる姿が思い浮かぶよ」


 確かに、フルール様が僕たちの驚く様をローゼさんに報告し、笑っている姿が想像できます。


 「ま、これで心配事もなくなったし、明日までゆっくりできるね」

 「そうですね。今日はみんな自由に過ごしましょう」


 ゆっくり出来るのもいつまでかわかりませんからね。

 ローゼさんからの依頼もありますし、もうすぐ皇女様が帝都に着く頃です。もしかしたら既に着いているかもしれません。

 そうなると僕たちは犯罪者、国外追放の為に街を出なければいけませんからね。


 「釣りしてくる」

 「私もいきます!」


 シアさんとキアラちゃんは相変わらず釣りみたいですね。


 「ユアン、お菓子ちょうだい?」


 スノーさんはまたお菓子ですか。


 「ユアン、どうする?」

 「僕ですか?」


 僕が今日やりたい事、それは決まっています。


 「お昼寝したいのですが、シアさんに膝枕してもらったら邪魔……ですか?」

 「平気。おいで」

 「はい!」


 僕は桟橋に座るシアさんに膝枕してもらって日向ぼっこしながらお昼寝です。

 

 「えへへ、シアさん」

 「うん、いい子」

 「いいなぁ」

 「キアラはユアンの尻尾触ってるといい」

 「いいんですか!?」

 「いいですよ~」


 頭を撫でてもらい、キアラちゃんに尻尾を触られます。

 

 「ユアンまでこっちにいたんだ。私だけ仲間外れみたいで嫌なんだけど」

 「スノーも一緒にいればいい」

 「そうだね。ユアンの近くならお菓子貰えるし」


 結局、スノーさんも合流しました。

 何だかんだ、別の時間を過ごしながらも一緒に居れるのは嬉しいですよね。

 釣りをして、しゃべって、お菓子を食べて、お昼寝をして、僕たちの一日はこうして過ぎていくのでした。


 「あ、大きい魚です!」

 「頑張れ」

 「ちょっと重いです……手伝ってください!」

 「わかった」


 僕は桟橋に座るシアさんに膝枕をしてもらって寝ています。


 「あ、シア立ち上がったら……」

 「ふぇ?」


 バシャーンッ


 「「「あ……」」」


 僕はシアさんが立ちあがったせいで湖に落ちました。


 「もぉ、酷いですよ!」

 「ごめん」

 

 こんな一幕もありながら、一日を過ごしたのです。


 「そういえば、シア……昨日からお風呂入ってないよね」


 そして、びしょ濡れになった僕とスノーさんに指摘されたシアさんは一緒にお風呂に向かうのでした。

少しずつ、スノーが堕落していく気がします……それに下ネタぽいことまで。

こんなはずでは!ですが、スノーも物語の中で変わっていくので仕方ないですよね。

次回は説明回になると思うので、少し退屈かもしれませんがお許しください。


いつもお読みいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いします。


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