スノー、ユアンを止める
side:スノー・クオーネ
「スノーさん、本陣の防衛をお願いします」
「わかったよ」
ユアンに頼まれ、私が本陣に残る事になった。
ユアン、キアラ、私、本陣を守る事とを想定した時、3人の中で一番守りに向いているのは私だから仕方ないか。
それに、敵も味方も多かった時、補助が得意なユアンと遠距離で的確に敵を減らす事のできるキアラが援軍に向かった方が助けにもなるだろうしね。
「本陣の様子は?」
「異常ありません」
シアがいない間も問題は起きていないみたい。
遠くから、戦う声が聞こえる。
みんな、必死に戦っているんだろう。
「それに比べ、私はやる事ないな」
そう思っても、警戒は怠れない。
万が一、ローゼ様たちに危機が迫った時に防げなかったら、今日のみんなの頑張りを無駄にすることになるからね。
「回復できる者はいるか!?」
「解毒薬はどこだ!」
「ん? 何かあったのかな」
ユアン達が援護に向かった方から騒がしい声が聞こえてくる。
一大事ぽいし、行ってみようか。
決して、興味本位の野次馬ではないよ。
ただ、守りを任された以上、本陣の様子は常に確かめておかないといけないからだよ。
「どうかした?」
「グローさんが多数の傷を負って帰還しました!」
「Bランク冒険者ね。容態は?」
「傷は浅く問題ありませんが、毒が回っているようです」
毒か。ゴブリンにでもやられたのかな。
幸いにも冒険者が持ち合わせた解毒薬によりグローの毒を取り除くことには成功したようだ。
「まだか?」
「もう少しです」
傷の手当てを受けながら、グローが苛立ちを隠そうとしない。あれじゃ、手当てをしている冒険者が可哀想だね。
「何をそんなに焦っている?」
「あ?……弓月の刻か……すまない」
「別に、謝られる事はされてないよ」
「そうじゃない、俺が手当てを受ける間、前線をリンシアに任せた」
は?
どういう事?
「冒険者が押され、決壊寸前のところをリンシアに助けられた形だ。俺はこのままでは俺は戦力にならんからな」
「シアは無事?」
「俺が離れる時は、ゴブリン相手に無双していたよ」
シアじゃ問題ないだろうし、当たり前だね。
「だが、一人に任せる訳にはいかねぇ。俺が直ぐに……っと」
「まだ、毒が抜け切れていません!」
「うるせぇ! 行くったら行くんだよ!」
立ち上がったグローはふらつき、バランスを崩しながらも踏みとどまった。
だけど、戦えるかと聞かれると微妙かな。
「私が援護に向かうから、貴方は此処の防衛をしてもらえない?」
「ダメだ、向こうに指揮官はいない」
「ユアンとすれ違わなかった?」
「狐の嬢ちゃんは見なかったな」
「そうなんだ。入れ違いかな。とにかく、向こうにユアンが向かったから指揮は平気だよ」
騎士の方では私が主に指揮をとっていたけどね。
「……頼めるか?」
「任せて。その代わり、少し休んだら、本陣はしっかり守ってくれる?」
「Bランク冒険者の名に懸けて責任を持とう」
「それじゃ、お願いね」
やったね。本陣から離れてユアン達に合流できる。
私は、急いでユアン達の元へと向かった。
「てーーーーーいっ!」
ユアンの声が聞こえる。何かと戦ってるのかな?
戦場に着くと、変な事になっているのがわかる。
戦っている筈の冒険者達が足をとめ、同じ方を見ていた。
戦いは続いているようなのに、何が起きたの?
「どいて!」
私はそれを確かめるべく、冒険者の間を抜け、前線に向かう。
そこには目を疑う光景の数々が繰り広げられていた。
「シア!」
まずは、キアラの肩を借りているシアの姿が目に入った。
「スノーさん!」
「キアラ、何があったの?」
「別に何もない。幸せだった」
私の質問に答えたのはシアだった。てか、この状況で幸せって意味がわからないんだけど。
傷こそ見えないけど、服は破れているし、脇腹も血がべっとりとついている。きっと、ユアンが回復したのだろう。
とりあえず、シアを安全な場所で休ませる必要があるね。
「シアは本陣に戻って休んで」
「やだ」
「やだじゃないでしょ?」
「ユアンが私の為に頑張ってる」
「だからこそでしょ、少しでも早くユアンに元気な姿見せてあげて。ユアンを心配させたくないでしょ?」
「…………わかった」
しぶしぶ頷くシア。いう事聞いてくれて良かった。
少しの間でもシアと過ごした時間は濃い。
シアの性格からすると、簡単に言う事を聞くとは思わなかったけど、シア自身、言わないだけでギリギリだったんだろう。
冒険者を補助につけ、シアが本陣に戻るのを見届ける。冒険者の肩を借りない辺りはシアらしいけど。
「それで、ユアンは何をしてるの?」
「えっと、それがですね……」
キアラの話を聞いた限り、傷ついたシアをユアンが助け、ユアンが切れ、魔物と戦っているらしい。
「戦いっていうより……拷問じゃない」
「ユアンさん、怖かったですよ」
ユアンがスタッフでぶくぶく太った蛙みたいな魔物をタコ殴りにしている。
その光景をドン引きした冒険者が見守っている形ね。
これは、ユアンを止めないとだめかな。
「キアラ、ユアンに声かけてくれる?」
「わ、私がですか!? スノーさんがお願いします」
声をかけづらくてキアラに頼んだけど駄目みたい。仕方ないから、私がユアンに声をかける。
「ゆ、ゆあん!」
ちょっと、緊張したせいか噛んでしまった。それだけユアンには鬼気迫る雰囲気がある。
ちょっと笑っているのが余計に怖いよ。
「何ですか、スノーさん?」
「いや……ね?」
その辺でと、止めようとすると、蛙がユアンに攻撃を仕掛けた。
ユアンは防御でそれを弾き、お返しとスタッフで再び魔物を殴り始める……ユアン、怖いよ!
だけど、そうは言っていられず、何とかユアンを宥め落ち着かせる事に成功した。
しかし、直ぐに他の問題が浮上する。
面倒な事に、蛙の魔物が更に増援を召喚した。しかも、元冒険者など人間を操って攻撃させようとしている。
「私が抑えるから、二人はいつも通りよろしく」
二人に援護を頼み、冒険者達を迎え討つ。
まぁ、ユアンとキアラもいるし、冒険者達もボロボロになりながらも、戦う意志は残っているようだし、どうになるかな。
指揮は弓月の刻が預かった。だから、私がユアンの代わりに冒険者に指示を出す。
「皆のもの、よう耐えてくれたのぉ、後は儂に任せるがよい」
指示を出す前だった。
「なっ! ローゼ様、お下がりください!」
私は慌てた。
本来この場にいるはずのない、ローゼ様が現れたのだ。
しかも、娘のロール様とローラ様を連れて。
ゆっくりとだが、操られた冒険者が迫っている。慌てない筈がない。
しかし、ローゼ様は下がろうとしない。
「下がらぬよ。相手は一応、人間じゃろ? なら儂に任せるがよい」
そう言って、ローゼ様は煌びやかな杖を取り出したのだった。
本陣を弓月の刻誰かが守る予定にも関わらず、全員が揃っていた理由でした。
そして、ローゼ様が登場した理由とは?
短めでしたので、更新しました。予定通り、朝にも更新します。
いつもお読みいただきありがとうございます。