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攻撃魔法は苦手ですが、補助魔法でがんばります!  作者: 緋泉 ちるは
第3章 辺境の街 トレンティア編
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弓月の刻、ギルドに呼ばれる

 夜のうちに何かしら起こるのではと思っていましたが、幸いにも杞憂で終わりました。

 ですが、日が昇り始めた朝一番に訪問者がいました。


 「朝からですか?」

 「はい、ギルドマスターが全冒険者に集まるように声をかけていますので、出来るだけお早めにお願いします」


 わざわざ職員さんが宿まで来てくれましたので、行かない訳にはいきませんよね。

 

 「わかりました、すぐに向かいます」

 「ありがとうございます、私は他も回らないといけませんので、先に行かせて頂きます」


 男性職員が馬に乗り、急いで街へと戻るのを見送ります。


 「聞いていたとは思いますが、この後街に……まだ戻れませんね」

 「もうちょっと」

 「もう少し」

 「みんな食べるの早いです」

 「慌てなくても大丈夫ですよ。おかわりいりますか?」

 「「「もらう(います)」」」

 

 対応を僕に任せ、3人は朝食を食べていました。

 僕は朝食は軽めに済ませるのですが、3人はガッツリ食べるタイプのようです。なので、一足早く食べ終えた僕は給仕係となります。

 

 「ユアン、パンの追加お願いできる?」

 「スノーさん、食べ過ぎないでくださいね」


 スノーさんは何個目かわからないパンを千切り、口に運びます。


 「ユアンさん、飲み物とって貰えますか? あと、ラディとキティ用、パンを貰ってもいいですか?」

 「勿論ですよ。大事な仲間ですからね」


 キアラちゃんには飲み物を渡し、パンも包んで渡します。


 「ユアン、頭撫でる」

 「わかりました」


 シアさんに近づくと、わしゃわしゃと頭を撫でられます。


 「ついでに寝ぐせ直す」

 「ありがとうございます」


 こんな朝のひとときを過ごし、僕たちはギルドに向かうのでした。





 ギルドに着き、中に入ると既に多くの冒険者が集まっていました。


 「やっと来たか、おはようさん」

 「グローさん、おはようございます」


 僕たちの姿を確認すると、グローさんが片手をあげ挨拶をしてくれました。


 「沢山いますね」

 「あぁ、ほぼ全員の冒険者が集められたようだ」

 「何があったのですか?」

 「それは今からわかる」


 ギルドから説明があるようで、僕たちは招集されたみたいです。

 暫くすると、奥の扉から大柄な男、コウさんが姿を現しました。

 総勢40人ほどの冒険者を見て頷き、コウさんは口を開きます。


 「良く集まってくれた、回りくどい言い方はしないから聞いてくれ」


 ギルドが静まりかえり、コウさんの続きの言葉を待ちます。


 「昨日の件の事を知っているとは思うが、角により操られていたと思われる冒険者が目を覚ました」


 トレントの森から傷だらけで出てきた人ですね。どうやら、命に別状はないようで何よりです。


 「そして、その冒険者から驚愕の事実が伝えられた」


 生唾を呑みこむ音が聞こえます。

 コウさんが話を進める度に、ピリピリとした緊張感が肌に伝わってきます。


 「トレントの森に魔物の大群が集められている事がわかった!その数、ざっと百!」


 ギルドにどよめきが広がります。


 「今日、お前らを呼んだのは他でもない、その魔物たちの迎撃を依頼する為だ」

 

 どうやらDランク以上の冒険者が集められる緊急招集だったようですね。

 

 「討伐ではなく、迎撃とはどういう意味でしょうか?」


 一人の冒険者がコウさんに質問を投げかけます。

 そうですね、討伐と迎撃では意味が違います。討伐は倒す事を目的としていますが、迎撃は文字通り迎え討つです。


 「現在、魔物がトレントの森入口に続々と集結しているという情報が入っている。恐らくだが、狙いはトレンティアの街だろう」


 集結しているという所が厄介です。

 つまりは単独で勝手な行動を起こしていないという事になりますからね、動きが統率されている事がわかります。


 「魔物の種類は?」

 「現在、確認されているのはトレント、ゴブリン、オーガ……どれも変異種だと思われる」


 割合的にはゴブリン6割、トレント4割にオーガが数体と、今の所確認できているようですね。

 

 「こんな所で、悠長な事をしていても大丈夫なのですか?」

 「急ぐ必要はあるが、問題ない。まだ入り口に集まっている最中だ。幸いにもトレントの進行速度が遅く、見立てでは魔物たちが行動に移すのは夕方以降だろう」


 当然、急に動いてもいいように、常にギルド職員が監視と警戒をしているようです。


 「無理だ!」


 一人の冒険者が震える声で叫びました。

 そして、恐怖は伝染します。


 「そうだ、この人数で魔物の集団、しかも変異種を相手にできる訳がない!」


 集まったのは冒険者約40人程ですからね、魔物の数は少なくとも倍以上、しかもオーガなどの冒険者複数で戦う事を望まれている魔物も混ざっています。

 数以上の戦力差がありますね。


 「心配するな、一大事という事で、領主様より私兵を援軍と貸して頂ける手筈にもなっている」

 「その数は?」

 「30人ほどだ」


 少ないか多いかの判断は出来ませんけど、ありがたいですね。


 「もっと領主の私兵は多いだろう!」

 「残りは街の防衛と避難に割かれている。俺からすれば十分な手助けだと思うが違うか?」

 「それは……」

 「それに、低ランクの冒険者にも戦闘には参加させないが、後方支援を依頼する予定でいる。数も今以上に増えるだろう」


 冒険者40名、ローゼさんの私兵30名に加え、低ランク冒険者の後方支援があるようで、どうにか対抗できそうな人数は揃いそうですね。


 「それに、緊急依頼という事で、領主様より、一人あたり金貨10枚という破格の条件付きだ……これで引き下がる男はいるか?」

 「「「おぉ!!!」」」


 まさに現金なもので、男性冒険者から歓声があがりました。

 僕たちは女性なので引き下がってもいいのでしょうか?


 「だめ」

 「ですよね」


 もちろん冗談です。


 「では、2刻後に湖の前に集まるように。それまでに準備をしておけ……解散!」


 ざっとした説明が終わり、解散となりました。

 作戦は現地に着いてから説明されるようですね。


 「弓月の刻とグローは残ってくれ」


 解散となり、僕たちも戻ろうと思いましたが、ギルドマスター、コウさんに止められました。

 そして、僕たちは連れられるように、ギルド2階にある部屋に案内されました。

 会議室のような部屋で、長方形のテーブルの周りに椅子が置かれ、僕たちはコウさんとグローさんの対面に座ります。


 「今回の迎撃では、お前たちに指揮を執って貰いたい」

 「僕たちにですか?」

 「そうだ、先に伝えておくと、作戦は2面同時に迎撃をする事が想定される」

 「どうしてですか?」

 「恐らく魔物たちは湖に沿って進軍してくるだろう」

 

 確かに流石に湖を突っ切ってくるとは思えませんね。進軍してくるとしたら陸からだと僕も思います。


 「そして、一方方向から進軍すると列が増え、進軍も遅くなる。恐らくだが、移動の遅いトレントとゴブリンはある程度二手に分かれて進軍してくるだろう」


 確かにトレントの移動に合わせていたら、進軍ペースが落ちますよね。トレントは頑丈ですが、動きは決して早い魔物ではありませんからね。

 なので、トレント集団とゴブリン集団に別れ、襲撃してくると読んでいるようです。


 「つまりは僕たちは片一方の指揮を執るという事ですか?」

 「そういう事だ。もう片方はグローが執る事が決まっている」

 「正直、気が進まないけどな」

 

 やれやれとグローさんは肩を竦めます。


 「話はわかりましたが、何故僕たちなのでしょうか?グローさんはトレンティア唯一のBランクで納得できますが、Cランク冒険者は他にもいますよね?」

 

 今回招集された冒険者の中に、Cランクは半数近くいますからね。


 「昨日の事件を見たからだな」

 「森の入り口の時ですか?」

 「そうだ。相手は変異種の特殊な魔物だ、何が起こるかわからないが、弓月の刻は見事にそれに対処してみせた。対処のわからない奴に任せるよりは安心できる」


 決め手となったのは昨日の一件のようですね。


 「理由はわかりましたが、ギルドマスターは何をするのですか?」


 別に僕たちではなく、コウさんが指揮を執ってもいいはずです。


 「俺は現場全体の指示をだす予定だ。後方支援の冒険者にも指示を出さなければならないからな。当然、押し込まれるような展開になった場合は俺も前線に参加する」


 後方支援は大事ですね。

 要は補給と、傷ついた冒険者の手当てですね。


 「僕たちが指揮を執って、不満が出たりはしないのですか?」

 「そこは問題ないだろう」

 「侮られますよ?」

 

 大人しく女性冒険者に従ってくれる保証がありませんからね。そこでの不満が内部分裂に繋がる恐れもあります。


 「大丈夫だ、弓月の刻が指揮を執るのは領主様の私兵たちだ。その中には、一緒に護衛をした、フィオナとカリーナという騎士もいる」


 男性の騎士も居ますが、女性騎士が多いと言っていた記憶があります。


 「そういう事でしたら構いませんが、騎士の方からの不満があがったりはしませんか?」


 騎士は領主を守ると同時に、街を守る事も仕事です。

 これは街を守るための仕事です。それを冒険者に指揮を委ねるのは騎士のプライドを傷つけ兼ねません。


 「そこは問題ないだろう。ローゼ様の私兵だ、教育が行き届いている筈だ。一大事に不満を漏らすような輩は少ないだろう」


 フィオナさんとカリーナさんと一緒に過ごした期間がありますが、あの二人は僕たち冒険者にも丁寧に接してくれましたし、いらぬ心配になるかもしれませんね。

 中には不満を出す人がいるかもしれませんが、いざ戦闘になればそんな事を考える余裕はないでしょうしね。


 「わかりました、引き受けます」

 「助かる。作戦内容は騎士と湖で合流してからになる。それまで休んでくれ」

 「はい」


 僕たちがローゼさんの騎士達の指揮を執る事が決まりました。

 そして、時間まで湖の家に戻る事にします。集合場所が近いですし、どうせ湖に向かうのなら宿に戻ろうという事ですね。

 戻る途中、護衛付きの貴族と思われる家族と何組かすれ違いました。

 魔物の出現を知らせ、避難が始まっているようですね。


 「では、時間までですが」

 

 宿に戻り、集合までの時間を休憩にあてようと提案しようと思いましたが。


 「釣り」

 「釣りですね」


 とシアさんとキアラちゃんが言い出しました。


 「えっと、今から迎撃ですので、少しでも体を休めないと……」


 昨日は久しぶりに依頼を受けましたし、完全に疲れが抜けきっていない可能性があります。疲労は自分で気づかないかもしれないですしね。


 「大丈夫、趣味は休憩」

 「はい、ついでに対岸にある森の入り口の様子も見れますので」


 それらしい理由をつけられてしまいました。

 納得しにくいですが、二人が休憩となると言うので許可を出します。


 「スノーさんは?」

 「私はゴロゴロしてるよ」

 「それが、普通ですよね!」


 良かったです、僕がずれている訳ではないようです。


 「あ、ユアンお菓子貰える?」

 「はい、ですがさっき朝食食べたばかりですよ?」

 「大丈夫、お菓子は別腹って言うみたいだよ」


 タンザで一緒にケーキを食べて以来、スノーさんはすっかり甘い物に目覚めてしまったようです。

 僕はスノーさんの前にお菓子を並べます。


 「一応、食べ過ぎないでくださいね?」

 「うん、大丈夫だよ」


 スノーさんがお菓子をパクパクと口に運びます。

 何でしょう、この緊張感のなさは。

 僕は、僕だけはしっかりと休みます!

 僕がしっかりしないとダメな気がしますからね。

 パーティーメンバーの行動に不安を覚えつつ、僕は体を少しでも休める為、ソファーに横になり目を瞑りました。

トレンティア編も終盤に突入です。

果たして、無事に魔物の集団を撃退出来るでしょうか、お楽しみに。


いつもお読みいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いします。

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