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攻撃魔法は苦手ですが、補助魔法でがんばります!  作者: 緋泉 ちるは
第3章 辺境の街 トレンティア編
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弓月の刻、トレンティアの初夜を過ごす

 「ユアンさん、料理出来たんですね」

 「孤児院で作っていましたからね。これくらいは出来ますよ」


 食卓に並んだ料理にキアラちゃんが驚きを隠せないようです。

 といっても、魚の腸をとり、串に刺し、焼いただけなので料理と呼べるほどではありませんけどね。

 ただ、魚の捌き方や串の刺し方に工夫してありますので、キアラちゃんはそのやり方に驚いたようです。


 「私は、てっきり料理は苦手だと思っていたよ」

 「私もです」


 スノーさんもキアラちゃんも僕が料理を出来ないと思ったみたいですね。


 「どうしてですか?」

 「あの干し肉を食べれば誰だってそう思うよ。そうだよね、キアラ?」

 「はい。あれは衝撃的でしたので」


 料理が出来ないと思った理由は、タンザからトレンティアに来るまでに振舞ったゴブリンの干し肉様が口に合わなかったからのようです。


 「好みがあるから仕方ない」

 「僕モ嫌イジャナイ」


 シアさんは勿論の事、ラディくんにも好評のようです。


 「確かに好みはあるだろうけど、流石にあれは……」

 「ユアンさんとシアさんに騙されたと思いましたからね」

 「確かに美味しくはないと思いますが普通に食べれますよ?」


 二人とも干し肉を食べた瞬間に吐きだし、スープを飲んだ瞬間に激しく咳き込んでいましたっけ。


 「極限状態なら食べれるとは思うけど、普通は無理だよ。だから、料理は出来ないと思ったんだよね」

 「あの干し肉が特殊なだけですよ。ゴブリンの干し肉を食べれるように工夫した結果ですからね」

 「まずはその発想が凄いですけどね。普通は食べようとは思いませんから」

 「そんな事ないと思いますけどね……」


 ゴブリンの肉を食べる発想は何処でもあると思います。

 だって、大量に処分されるだけの肉ですからね。美味しくないにしろ食べる研究は今でも何処かで続いていると思います!

 でなければゴブリンの肉が市場に出回る事はない筈ですので。


 「まぁ、ユアンが料理出来て良かったよ。魚も上手に捌けているし、美味しそうで良かった」

 「ちょっと、心外ですけどね」


 ゴブリンの干し肉様の一件でどうやら僕が料理は出来ないと思われていたみたいで、汚名返上ではありませんが、どうやら料理は出来ると理解して貰えたようです。


 「ですが、これではマナー講座にはなりませんよね?」


 食卓に並んでいるのは魚の串焼きです。

 串を持って、齧り付くのが美味しい食べ方ですので、フォークやナイフを使って食べるのは変ですからね。


 「そうだね。食事のお誘いは明日の夕食だし、お昼に持ち越しかな」

 

 という訳で、マナー講座は明日に持ち越しとなりました。


 「皮がパリッとしてて、中はホクホクして美味しいね」

 「塩がいい感じに効いてる」


 単純な料理ですが、自分たちで獲った食材を使い、自然に囲まれた中で食べるのは街では味わえない贅沢です。

 その雰囲気のお陰も相まって、余計に美味しく思えますね。

 ラディくんもキティさんも嬉しそうに食べてくれてますので、手間はかかりましたが、作って良かったです。


 「そういえば、二人にはまだお願いを聞いて貰ってなかったね」

 「あ、そういえばそんな約束していましたね」


 ラディくんが戻り、キティさんと契約をしてしまったので、その話はすっかり抜けていました。


 「忘れてよかったのに」

 「折角の権利だからね、使わないと勿体ないでしょ」


 約束を反故するつもりもないですし、僕とシアさんは二人の要望に応える事になりました。


 「では、まずは私からだね」

 「あまり無茶は言わないでくださいね?」

 「うん、二人が嫌だという事はしないけど、良かったら二人をモフモフさせて貰いたい!」

 「やだ」

 「僕は構いませんよ」

 「なら私はユアンをモフモフさせてもらう権利でいいかな」


 スノーさんは獣人が好きと言っていましたからね、耳や尻尾を触るのが好きなようです。

 僕は気の許した人になら触られても大丈夫ですが、シアさんは嫌みたいですね。

 耳と尻尾を触られる事を極端に嫌がる獣人は多いと聞きますからね。


 「今日はシアさんと寝る権利を貰いますね」

 「わかった」

 

 キアラちゃんはシアさんと寝るですね。シアさんはそれなら大丈夫なようです。

 旅の途中で野営をするにあたり、その組み合わせで一緒に寝る事はありましたからね。部屋で分かれて寝るのは初めてですけど。

 

 「では、今日は僕とスノーさん、シアさんとキアラちゃんの組み合わせで部屋を分けるという事でいいですね?」

 「初めての夜はユアンとが良かったけど仕方ない」

 「シア、それだと違う意味に聞こえるよ」

 「違う意味ですか?」


 どんな意味がわからず、その意味を僕が聞こうとすると。


 「ゆ、ユアンさんにはまだ早いと思います!」

 「そうだね、ユアンにはまだ早いかな」

 

 二人にそう言われ、教えて貰えませんでした。


 「大丈夫、その時は邪魔しないから」

 「はい、お願いします?」


 そんな会話をしつつ、僕たちは夜を迎えるのでした。



 「あぁ……しあわせ……」

 

 僕の耳と尻尾を好きなだけ触り、撫でまわしたスノーさんが寝言を漏らしながら寝ています。その顔は緩んで幸せそうです。

 耳と尻尾で喜んで貰えるなら触るくらいならいいですけどね。

 横で眠るスノーさんとは対照的に僕は寝付くことが出来ませんでした。

 なので、こうしてスノーさんが眠るところを見ている訳です。

 

 「……トイレ行きたいです」


 スノーさんを起こさないように、こっそりとベッドを抜け出し、用を済ませます。

 ですが、それでも落ち着かず、部屋に戻る気にはなれませんでした。

 スノーさんと一緒にいるのが嫌という訳ではありませんからね?


 「ちょっと、夜風に当たりたいですね」


 このまま部屋に戻っても寝付けそうにないので、僕は一人夜風にあたるために家を出ました。

 やってきた場所は昼間に釣りをした桟橋です。


 「落ち着かないのは、この場所が魔力が濃いのが一つの要因ですよね」


 僕も魔法使い、魔力を感じる能力は人よりも高い自信があります。

 湖の水には魔力が混ざっていると聞いていましたが、水に触れなくてもわかるくらいこの湖の魔力は高く、肌で感じる事が出来ます。

 常に魔力の中にいるような感覚、僕が寝付けない理由の一つにきっとこれもあると思います。

 

 「ユアン、どうしたの?」

 「あ、シアさん……」


 僕が桟橋で足をぶらぶらとさせていると、後ろから声をかけられました。


 「僕はちょっと風にあたりたかったので……シアさんこそどうしたのですか?」

 「ユアンが外にいくのがわかったから」

 「起こしてしまいましたか?」

 「平気」


 シアさんは僕の隣に座りました。


 「何かあった?」

 「いえ、ただちょっと落ち着かなくて」


 落ち着かない原因をシアさんに伝えます。


 「私は感じない。ユアンが凄い証拠」

 「凄くはないですよ、キアラちゃんも感じていると思います」


 キアラちゃんも魔法を使うのがシアさんとスノーさんに比べ得意です。

 

 「キアラは慣れてると言ってた。キアラの住んでいた場所もこんな感じらしい」

 「そうなんですね」

 「うん。だからキアラは普通に寝てる。だからこっちに抜け出してきた」

 「後で戻ってあげてくださいね?」

 「うん」

 

 エルフの住む場所は人里離れた森の中と聞いたことがあります。

 精霊が住み、妖精と共に生活しているとも聞いたことがあります。

 精霊も妖精も魔力の高い場所を好むようなので、きっとここよりも魔力濃度が高い場所だと思います。

 なので、慣れているキアラちゃんは問題ないようですね。


 「落ち着かない?」

 「はい、魔力に包まれている感覚がちょっと……」


 自分で展開した魔法に包まれるのとは違いますからね。


 「防御魔法を展開するのは?」

 「そこまではしなくても平気ですよ。ちょっと風にあたって気分転換すれば大丈夫です」


 と言いつつも、防御魔法は実は展開しています。シアさんたちにわからない程度にですけどね。


 「わかった。ならこうしてればいい」

 「わっ!」


 シアさんに抱えられ、シアさんの前に座らされます。


 「ぎゅー」

 「シアさん、いきなりだとびっくりしますよ」

 

 あぁ、でも落ち着きますね。

 力強く、ですが優しくシアさんに抱きしめられ、包まれると、知らない魔力に包まれ、何処か不安になりそうな気持が消えていきます。

 このままなら眠れそうな気がします。

 

 「どう?」

 「はい、落ち着きます」

 「よかった」

 「けど、転がらないでくださいね?」

 「……うん」


 流石に桟橋でやらないですよね?

 浅いとはいえ、湖に落ちてびしょ濡れになるのは嫌ですからね。

 そんな時間をどれくらい過ごしたでしょうか、お互い口数は多くありませんが、心地良い時間です。

 ですが、いつまでもこうしてはいられません。

 スノーさんもキアラちゃんも部屋で眠っているはずで、起きた時に僕たちの姿が見えないと心配してしまいます。


 「シアさん、ありがとうございます。もう大丈夫ですよ」

 「わかった」

 

 部屋に戻るために、僕たちは立ち上がります。そして、湖の向こう側を見渡します。


 「……動いてますね」

 「うん。トレント」


 落ち着かない理由の一つがそこにもあります。

 念のために探知魔法を張りながら眠るようにしているのですが、常に魔物が動いていることを感知してしまっていたのです。


 1匹や2匹ではなく、まるで虫に群がる蟻のように赤い点が対岸の湖に押し寄せているのがわかります。


 「湖に水と魔力を補給しにきてる」

 

 森全体が動いているみたいに、湖のすぐそばまで森が来ています。

 つまりは、それ全てがトレント……街の名前がトレンティアとなった理由がよくわかります。

 一体、どれほどのトレントが生息しているのか予想すらつきません。

 そして、もう一つ……。

 湖の中心に居座る赤い点があります。

 昼間から一度も動かずに、鎮座するような大きな赤い点。

 これが意味するものが何なのかわかりませんが、万が一の為に、防御魔法は外す事が出来ません。

 あれが動いたとき、何かが起こりそうです。

 一人そのことを胸に秘め僕たちは部屋の前で分かれました。

 

 「逢引きは終わった?」

 「え?」


 スノーさんを起こしては悪いと、僕はスノーさんが眠るベッドではない方に入ろうとすると、声をかけられました。


 「起こしてしまいましたか?」

 「そんな事ないよ、たまたま」


 そうは言ってくれますが、スノーさんも冒険者であり騎士です。寝ている最中でもあっても動くものがあれば反応してもおかしくはないです。


 「すみません」

 「たまたまだから気にしないでいいよ。それよりも今日はこっちでしょ」


 スノーさんに手招きされ、僕はスノーさんのベッドに呼ばれます。


 「今日は私のご褒美だからねっと!」

 「わっ!」


 スノーさんにベッドに引きずり込まれました。


 「シアの代わりにはなれないけど、不安なら頼ってくれていいからね」

 

 スノーさんはスノーさんで僕の心配をしてくれているようです。

 

 「ありがとうございます。ですが、スノーさんはスノーさんです」

 「ま、シアの代わりにはなれないか」


 残念そうにスノーさんがそう言います。

 ちょっと言い方が悪かったようです。


 「違いますよ、スノーさんはスノーさんなので、代わりなんかではなく、大事な仲間ですから」


 シアさんにはシアさんに、スノーさんにはスノーさんの良さがあります。もちろん、キアラちゃんの良さも知っています。

 どれも代わりなんていません。


 「ふふっ、なら1番じゃなくてもいいから2番狙っちゃおうかな?」

 「仲間に順位はありませんよ?」

 「そういう意味じゃないけどね……そろそろユアンも寝ないとダメだよ」

 「そうですね」

 「寝れなくても横になっているだけでもいいから休める時に休まないと……」

 「だめってシアさんに怒られてしまいますね」

 「そう言う事、それじゃおやすみ」

 「はい、スノーさんありがとうございますおやすみなさい」


 同じベッドではありますが、スノーさんは僕を抱きかかえる事はせずに眠りました。

 僕もスノーさんに感謝しつつ眠りについます。

 改めて一人じゃないと思える一夜を過ごしたのでした。

今後の展開を広げる為の話でした。

トレント、謎の湖に存在する赤い点。

今後の話に大きく関わるかも?


そろそろ仲間との仲を進展させようかなと思いつつも中々進みませんね。


どうなる事やら……。


いつもお読みいただきありがとうございます。

誤字報告とても助かります!

今後ともよろしくお願いします。


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