弓月の刻、白狼族について話す
「って事は、あの白狼族はシアの親戚かもしれないって事?」
「その可能性はある」
「まさかそんな縁があるとは思わなかったの」
「私もそう思う。ハッキリ言って迷惑だけど」
イリアルさんから話を聞いたその夜、僕たちはイリアルさんから聞いた話をみんなに伝えると、また面倒な事に巻き込まれてるねとスノーさんとキアラちゃんがため息を零しました。
「それで、どうするの?」
「何が?」
「何がって……あの白狼族だよ」
「別にどうもしない。影狼族は影狼族。白狼族は関係ない」
「そうは言うけどさ。聞いた限り、かなり影狼族を意識しているでしょ?」
イリアルさんから聞けた話によると、どうやら白狼族と影狼族にはちょっとした確執がある事がわかりました。
「向こうが勝手に盛り上がってるだけ。今更私達に絡まれても迷惑」
「でもさ、解決しなかったらいつまでも絡んでくると思うよ。ああいう輩は」
今まで何度もそういう奴を見てきたからわかるとスノーさんは言います。
「知ってる。だけど、どうせ明日には此処を出る。そうなったら関係ない」
「私はそう上手くいくとは思わないな」
正直、僕もスノーさんと同意見ですね。
あの日の晩に見たカリュアは普通ではありませんでしたからね。
「でも、個人的な問題でもないのですよね?」
「うん」
「それなら早めに解決した方がいいと思うの。親戚なら尚更」
シアさんとカリュアが親戚の可能性があると話にありましたが、イリアルさんのおじいさんの代までは影狼族と白狼族は同じ集落に暮らしていたらしく、驚くことにイリアルさんのおばあさんは白狼族だったみたいです。
といっても、イリアルさんが物心がついた頃には既に影狼族は影狼族として独立していたみたいなので、イリアルさんも聞いた話になるので確実ではないみたいですけどね。
「可能性があるだけ。親戚とは限らない」
「そうだけど、シアのお爺さんには白狼族の妹が居たんでしょ? もし、その妹の家系が続いていたら、白狼部隊の隊長になっててもおかしくないんじゃない?」
「その妹も白狼族の長だったみたいですし……可能性としては低くないと思うの」
白狼族の長と影狼族の長が結ばれ生まれたのがシアさんのお爺さんと白狼族の妹。
順当に継いでいれば、シアさんが長の立場についたように、白狼族の長の家系が白狼族纏める立場にいてもおかしくはありません。
「だからといって、影狼族と張り合うのはお門違い。悪いのは全部オメガ」
「あー……そう言われるとそうだね」
オメガさんのやった事を思い出して、スノーさんは確かにと頷きました。
「オメガさんが影狼族と白狼族を進化させたのなら最後まで面倒見るべきですよね」
影狼族はオメガさんによって進化させられた種族ですが、それは白狼族も同じのようです。
しかし、どういった経緯かわかりませんが、オメガさんは影狼族だけを連れ、白狼族は一緒に連れて行って貰えなかったみたいです。
「それ以来、白狼族は影狼族を恨んでいると……」
これが白狼族が影狼族を意識する理由みたいですね。
「それだけじゃない。白狼族は影狼族と比較されるのが気にいらない」
「何だかんだ、影狼族って有名だもんね」
世間に疎かった僕は知りませんでしたが、影狼族は傭兵や冒険者としては有名で、その名は魔族領まで届いていたようです。
まぁ、有名な主な理由は、僕のお母さん達と一緒に行動していたイリアルさんが原因だったりするみたいですけどね。
何せ、その頃はいい意味でも悪い意味でも目立っていたようですしね。
それはさておき……。
それと同時に、影狼族が白狼族と同郷という事がどこからか広まり始めたようで、その頃から影狼族と白狼族が比較され、劣等感を抱くようになったみたいです。
まぁ、それもイリアルさんのうっかりで広まったらしいのですが……。
「それってただの嫉妬じゃん」
「そういうこと」
「一気にめんどくさくなったね」
「最初から面倒だと言ってる」
ここまで来ると呆れが勝るのか、スノーさんは首を振りながら、深くため息を零しました。
イリアルさんの話を簡単に纏めるとこんな感じでした。
といっても、話はもっと複雑でオメガさんに置いて行かれた理由や影狼族にここまで劣等感を抱くことになった経緯もあると思うので、ただの嫉妬ではないとは思っていますけどね。
シアさんではなく、僕に殺気を向けてきたくらいですし、影狼族だけが目的ではないような気もしますが……。
「どのみち、僕たちに出来る事はあまりありませんね」
「うん。相手にする必要もないし、する気もない」
「それがいいかな。まぁ、まだ絡んでくるようだったら、私とキアラが相手するよ。シアとユアンが相手すると大事になりそうだし」
「確かに……その方がいいと思うの」
僕たちが問題児みたいな事を言われている気がしますが、否定できないのが悔しいですね。
「助かる」
「いいよ。その代わり……いいよね?」
「スノーさんばかりずるい! 私も、いいですよね?」
嬉しそうに笑うキアラちゃんの横で、スノーさんが手をわきわきと動かしています。
僕とシアさんはその動きと表情だけで何がしたいのかわかってしまいます。
「ユアン、どっちがいい?」
「えっと、僕はキアラちゃんの方がいいですね」
「私も」
そして、どっちが安全なのかもわかってしまいます。
「私じゃなくてキアラばかり選ばれるのが納得いかないけど……もちろん、両方に決まってるよ!」
「えへへ、今日は沢山仲良くしましょうね!」
シアさんと並んで座るソファーにスノーさんとキアラちゃんが僕たちを挟みこむようにして移動してきました。
「しーあ?」
「ゆあんさん?」
スノーさんがシアさんの耳をむにむにし、キアラちゃんは僕の尻尾に頬ずりします。
この後、僕とシアさんは二人に沢山モフモフを提供しました。
しかし、僕たちはわかっています。
これは二人が僕たちを気遣っている事を。
「はぁぁぁ…………ほんと、癒される!」
「毎日、こうやって過ごせたら幸せだと思うの!」
多分気遣って、くれてるのですよね?
まぁ、僕もこの時間は好きなのでいいですけどね。
影狼族と白狼族はこの先も関りがありますが、解決するのはまだ先の事。
次回から時間を進め、テンポあげてお送りしたいと思います。
いつもお読み頂きありがとうございます
今後ともよろしくお願いいたします。




