補助魔法使い、白狼族と対面する
さて、とても面倒な事になりました。
どうやらこの白狼族の女性はシアさんが目的で僕に近づいたみたいですね。
そして、何が面倒なのかというと、僕に接触してくるという事は、僕がシアさんの主である事もわかっている可能性が高いという事です。
「えっと、いきなりそんな事を僕に言われても困ります。そういう事は本人に……」
「確認した所で無駄でしょう。貴女があの影狼の契約者なのですから。違いますか?」
確定ですね。
この人は僕がシアさんの主という事を見抜いているみたいです。
「そうですね。でも、契約者だからといって関係ないですよね? そういうのは本人の意志が大事ですので」
シアさんと僕は主と従者であり、仲間であり夫婦ですが、僕がシアさんの人生を決めている訳ではありません。
二人で話し合い、愛し合い、未来に向かって一緒に歩んでいるのです。
なので、ここで僕にそんな事を言われても僕が決めれる事は一つもありません。
「そう……本当に、最低な主なのですね」
思わず朔夜を収納から取り出してしまいました。
「……これは失礼致しました。少なくともただのお飾りな訳ではないみたいですね」
「そうですね。これでも冒険者ですからね……あれだけの殺気を向けられたら嫌でも反応しますよ」
あそこまでの殺気を向けられたのは初めてかもしれません。
戦いを通じて命の危険を感じる事は今まで何度もありましたが、関係ない所でこうして殺意を持たれる経験は流石にありませんでした。
「でも、それは貴女が悪いから仕方ない事なのですよ?」
「仕方ないと言われても、思い当たる節が全くありませんよ……それよりも、自分の心配をした方がいいと思いますよ?」
つい反応して朔夜を取り出してしまいましたが、実は正直その必要は全くありませんでした。
「さっきから何の話? 話があるなら、直接私に言うといい。いい加減、聞くにも見るにも堪えない」
ついに僕の影に潜んで話を聞いていたシアさんが耐えきれなくなったようで、僕の影から白狼族の女性の影へと移り、静かに飛び出すとそっと剣を首筋へと当てました。
もちろん鞘に納めたままですけどね。
流石に真剣でそんな事をしたら大問題になりそうですので。
まぁ、この時点でお互いに大問題になってもおかしくない事案なのですけどね。
「……ようやく、話ができそう、ですね」
「私はその必要性を感じない。だけど、聞くだけ聞いてやる。そしたらさっさと去る」
「冷たいの、ですね……私達がこれだけ、貴女方影狼のせいで苦労しているというのに!」
「私達のせい?」
「そうよ。貴女達、影狼族が傭兵なんて仕事をしているから私達まで……!」
僕と会話していた人とは思えないほどの豹変ぶりでした。
まるで感情が爆発するように身体を小刻みに震わせ、声を張り上げたのです。
「私達がどうあろうと私達の勝手」
「それが迷惑だって言ってるの! いつだって私達白狼族は……ちっ!」
どうやらゆっくりと話をしている時間はなかったみたいですね。
「カリュア! 何をしている!」
僕がなかなか戻ってこないので様子を見に来たのか、それとも白狼族の女性……どうやらカリュアという名前みたいですが、この人が声を張り上げたからなのかわかりませんが、アルデリカさんが部下の方達と一緒に来てしまいました。
「どうもしない。ただ、少し話をしていただけ」
「とてもそうは見えない」
そうですよね。
アルデリカさんが来たのが見えたので、シアさんは剣を納めましたが、未だに雰囲気は一触即発の雰囲気を保ったままです。
「本当よ。ね、そうですよね?」
「うん。特に何もなかったから気にする必要はない」
でも、それを問題にする訳にもいきませんよね。
僕達だって騒ぎを起こしたいわけではありませんからね。
「お二人がそう言うのであれば、そういう事にして頂けるとこちらも助かります。とりあえず、今は申し訳ありませんが、カリュアをお連れしてもよろしいですか?」
「好きにするといい。私達からは用はないから」
ギリッと音がが聞こえそうな程にカリュアが歯を食いしばるのが見えました。
それを見て、やはりただ事ではないと悟ったアルデリカさんがカリュアの腕を掴みました。
「カリュア」
「わかっている」
「それならいい…………では、私達は一旦これで失礼しますが、オグライト司令官がお待ちしておりましたので、出来れば早く戻って頂けると助かると思います。酔うとセクハラが酷いので……」」
「あっ……」
か、完全に忘れていました!
「忠告ありがとう。大丈夫直ぐに戻る」
「わかりました……ほら、いくぞ」
アルデリカさんは苦労人かもしれませんね。
カリュアの腕を牽いて歩く後姿はとても疲れているように見えました。
「シアさん、僕たちも戻りましょうか」
「うん。その前に、ごめん」
「何がですか?」
「多分、また影狼族の事で面倒を……ん」
シアさんもカリュアの姿が見えなくなり落ち着いたみたいですが、その反動からか見るからに元気を無くしているのがわかりました。
なので、僕はそんなシアさんに背伸びをし、そっと口づけを送ります。
「シアさん、そういうのは嫌ですよ?」
「うん。そうだった」
自分の事で誰かに迷惑をかけてしまうのは誰だって嫌なのはわかります。
実際、僕だって嫌ですからね。
ですが、そんな時に頼れる相手が居るのは心強いのも知っています。
だから、僕たちはお互いにそうやって支えあって生きていくと決めています。
今回だってそうです。
「まずは、白狼族の事を調べましょう」
「うん。もしかしたら、お母さん達に聞けばわかるかもしれない」
「そうですね」
カリュアの口ぶりからすると、シアさんに大してというよりは影狼族に大して思う部分があるようでしたからね。
きっと、そこに何か繋がりがあると考えるのが妥当です。
「ですが、今はあっちを片付けないとですね」
あと、どれくらい飲めば気が済むのかわかりませんが、今もオグライトさんが待っていますからね。
「でも、そんなに飲んで大丈夫?」
「はい、僕は大丈夫ですよ。僕はシアさんと違ってお酒には強いみたいですからね!」
こればかりは体質なので仕方ありませんが、シアさんはとことんお酒には弱いみたいですからね。
それに、お酒を飲むとどうしてもシアさんは変な方向に気分が傾いてしまうみたいですので、お外で飲ませる訳にはいきません。
なので、今回もお酒を飲ませていない訳ですが……。
「むー……。私、お酒弱くないもん」
ぷくーっとシアさんはまるで子供のように膨らませました。頬を
それに加え、さっきまでシャキッとしていたシアさんの目が少しとろんとしているようにも見えます。
まるで、酔った時のように……。
「し、シアさん?」
「なぁーに?」
「ど、どうしたのですか?」
「どうもしない。ただ、ユアンがちゅーしたから、ちょっとムラムラする?」
「ちゅーしただけで……あっ」
もしかして、僕が結構飲んだからですかね?
その状態でキスをしたので、シアさんは酔ってしまって……?
「ゆあん」
「な、何ですか?」
「はやく、してね? 私、待ってるから」
そう言って、シアさんは尻尾を振り回しながらご機嫌そうに僕の影へと潜りました。
これは、急がないと後が大変な事になりそうな予感がしますね。
「とりあえず、戻りましょうか」
そして、出来るだけ飲み会も早く終わらせないといけませんね。
シアさんがああなってしまったのはお酒もそうですが、本当は不安な気持ちを抱えているからですからね。
そういう時は沢山甘えさせてあげるのが一番ですから。
新年あけましておめでとうございます。
更新、長らくお待たせ致しました。
今年から少し生活の方も落ち着くと思いますので、更新頻度はあがると思います。
待ってくださっていた皆さま、本当にありがとうございます。
今後ともお付き合い頂けると幸いです。
本年も宜しくお願い致します。




