弓月の刻、歓迎される
「ほら、こっちはルティナでしか飲めない上等な酒だ! 好きなだけ飲め!」
「あ、ありがとうございます」
アルデリカさんの案内で軍部の心臓である、指令室にやってきた僕たちでしたが、何故かおもてなしを受ける事となり、気がついたら宴会になってしまいました。
「それで、ルード帝国は今でもそこらじゅうとやり合ってんのか?」
「今は何処とも争ってはいないと思いますよ」
「そっか。あの暴れん坊の国がなぁ……俺達が前線に立ってた頃からは想像できんな」
長い髭を撫でながら豪快に笑い豪快に飲むこの人は、この要塞の司令官でまとめ役のオグライトさん。
僕たちとアルデリカさんとの一連の流れを聞いて、アルデリカさんを拳で説教し、逆に僕たちが申し訳なくなるくらいに頭を下げて謝ってくれたとても気持ちいのいいくらいに真っすぐなおじいさんです。
「あっ、でもまったくゼロって訳ではないみたいですけどね」
「ほぉ! そうなのか!」
「はい。まだ、リアビラ……今はその首都はないのですが、その残党が残っていて、そことは争いが少なからずあるとは聞いています」
ラインハルトさんはまだ準備段階ですが、僕たちが魔族領に出発する前にエレン様を先にリアビラの首都へと送り出しました。
その時に、魔鼠さん達を連絡役兼護衛として一緒に送り出しましたが、そのような報告を受けたのを思い出しました。
「はっ! あの国も相変わらずだなぁ!」
「昔からなのですか?」
「こっちに被害はなかったが、話題には事尽きなかったのは確かだ」
魔族領とリアビラはかなり離れています。
何せ、間にはルード帝国がありますし、ルード帝国を越えても広大な砂漠がありますからね。
それなのにここまで情報が届いてるのは凄いですね。
まぁ、それだけ悪事を働いていたって事なのでしょうけどね。
それにしても……この状況、困りましたね。
お酒をちびちびと頂きながら周りをみると、僕は思わずため息を零しそうになりました。
「スノーさん、これ以上は駄目だよ!」
「いいじゃん。まだ、私酔ってないし!」
「十分酔ってるよぉ~」
「酔ってないよ。アルデリカ~、そっちのお酒ちょっと飲ませてくれない?」
「いいけど、本当に大丈夫なの?」
「平気平気~」
「平気じゃないよ! もぉ~……」
案の定、僕の視線の先では完全に酔っぱらったスノーさんの姿とそれを介護するキアラちゃんの姿がありました。
「あの嬢ちゃん大丈夫か?」
「まだ大丈夫だとは思いますけど……ホント、スノーさんはお酒には弱いですよね……」
お酒を飲む量に関しては結構飲めるの弱くはないと思うのですが、どうしても歯止め利かなくなるようで、放って置くとでろんでろんになるまで飲んでしまうのですよね。
まぁ、介護役としてキアラちゃんが居るからああなってしまう所もあるとは思いますけどね。
「それでも限度はあるけどなー」
「そうですね。サンドラちゃんは大丈夫ですか?」
「うんー。私お酒はのまないからなー……でも、そろそ無理だぞー……」
僕がオグライトさんとお話をしている間、サンドラちゃんはフタハちゃん達と一緒にご飯を食べたり雑談をしていたみたいですが、宴が始まってからそれなりの時間が経ちましたし、朝も早くから移動をしていた事もあって、既に眠気の限界を迎えてしまったみたいですね。
「それじゃ、サンドラちゃんは先に寝ましょうか……シアさん、お願いできますか?」
「任せる。サンドラ、部屋いく」
「うんー、先におやすみなー」
「はい、おやすみなさい」
「すぐ戻る。サンドラ、乗る」
「なー……」
サンドラちゃんがのそのそとゆっくりとした動きでシアさんの背中に昇ります。
すると、その様子を見たフタハちゃん達もこそこそとシアさんの傍へと寄ってきました。
「えっと、私達もお先に部屋に戻らせて頂きますわ」
「うん。ユン姉、おやすみ」
そして、僕へと軽く頭を下げると、シアさんの後に続き、二人も会場を後にしました。
どうやら二人には少し無理をさせたかもしれませんね。
食事は楽しんでいるようでしたが、どうしても場が場ですからね。
僕でも未だに慣れずに緊張しているのですから二人はもっと緊張していたのかもしれません。
今度からもっと気を遣わないといけませんね。
とはいえ、本番はここからと言っても過言ではないかもしれません。
「で、お前さんはまだまだ行けるんだろ?」
「まだ、大丈夫ではありますね」
本音をいえば、僕もこの場を離れたいですが、僕たちの為に開いてくれた宴ですので直ぐに離れる訳にも行きません。
なので、スノーさんが駄目な以上は僕が頑張るしかありません。
幸いにも僕はお酒に強いみたいで酔いに関しては何も問題ないですからね。
だからといって、全く問題がないわけではないですけど……。
「あの、ちょっとだけ、席を外してもいいですか?」
「ん? あぁ、またトイレか。早く行ってこい」
「あっ、はい……行ってきます」
酔わなくてもお酒を飲んでいる以上はこうなるのは仕方ないですが……オグライトさんもわざわざ口に出さないで欲しいですよね。
僕だって一応は女性ですし、そう言われると流石に恥ずかしいですからね!
まぁ、これも初めてのやり取りではないので今更ですけどね。
なので、僕も慣れた様子でトイレを済まし、会場に戻る事にしました。
しかし、会場に戻る前に予想外の出来事が起きました。
「こんばんは、素敵なお嬢さん。 楽しんでくれていますか?」
もしかしたら、僕も少しだけ酔いが回っていたのかもしれません、さっきまでトイレに行くにも警戒していたのですが、今回はシアさんが近くに居ないにも拘らず、完全に気を抜いてしまっていました。
そのせいで、トイレから出て声をかけられるまで、人の存在に全く気付けなかったのです。
「ふぇ? えっ、あ、はい。楽しませて、頂いていますよ」
焦りからか、変な声が出てしまいましたが、どうに平然を装ってどうにか返事を返すと、僕に話しかけた女性は静かに笑みを零しました。
「それはなにより。それはそうと、折角ですので私ともちょっとお話をしてくれませんか?」
しかし、その笑みは偽物だと直ぐに直感でわかりました。
僕を見ているのに、僕じゃない何かを見ているような冷たい目で僕を見ていたのです。
「構いませんが、オグライトさんを待たせているので長くはお話できませんよ?」
「問題ありません。すぐに終わりますから。お嬢さんが首を一つ縦に振ってくれればそれで終わる話ですから」
やはり、僕の直感は間違っていなかったみたいですね。
いえ、僕に直感がなくてもこれならわかります。
「内容によります」
「簡単です。あの娘……影狼をこちらに引き渡して頂きたいのです」
その一言で理解しました。
この人はやはり僕を見ていなかったのですね。
あの時と同じ……この白狼族の女性は砦の上からシアさんを見ていたように、僕を通してずっとシアさんを見ていたのですね。
大変お待たせいたしました。約二か月ぶりの更新です。
しかし、これだけ間があくと書き方がわからなくなってしまいますね。
下手なのが更に下手になったのが自分でもわかります。
12月に入れば少し余裕もできますので、更新頻度またあげれるように頑張ります。
更新遅れても待っていてくださる読者の皆様、本当にありがとうございます。
これからもよろしくお願い致します。




