弓月の刻、砦に案内される
「大きな所ですね」
「ここが最前線の拠点ですからね」
「そうなのですね」
無事に和解(?)を果たした僕たちは、隊長さん……アルデリカさんに連れられ、ルティナの砦へと案内して頂きました。
「警備ご苦労。変わりはないか?」
「お疲れさまです! 異常はありませんっ!」
「そうか。その調子で頼む。では、私は報告に向かう」
「お待ちください。そちらの方は?」
「私の客人だ。責任は私が持つ。通るぞ?」
「わかりました。お通りください」
「うむ」
どうやら、隊長さんというのは本当で、それでいて立場もそれなりにあるようで、僕たちが何者なのか確認される事もなく砦の中に入れてしまいました。
「アルデリカって、本当に偉かったんだ」
「それなりには顔は利きますよ」
「みたいだね。じゃ、ちょっとうろついてきてもいい?」
「駄目に決まっています! 一応、私にも立場がありますので勘弁してください」
「冗談だって」
ここに来るまで二人は喋っていたからか、随分と打ち解けたみたいですね。
もしかしたら同じ騎士として、共感できる部分でもあったのでしょうか?
といっても、スノーさんは今が騎士ではなくて、冒険者兼領主ですけどね。
「なーなー」
「はい?」
「私達はー?」
「何が、でしょうか?」
「私達はうろついてきていいかー?」
「ホント、勘弁してください」
「残念だなー」
「残念」
冗談……ではなくて、二人とも本気で残念がってますね。
でも、その気持ちもわかります。
僕も砦の中が入った時から凄く気になっていました。
「普通にここで暮らせて行けそうですね」
「そうですね。宿屋もありますし、洋服屋さんなんかもあるみたい」
「普通に街ですよね」
アルデリカさんに続いて僕たちは歩いていますが、よそ見して歩いていたら見失ってしまうほどには人通りが多く、とても賑わっていました。
「ユアン、あれ食べに行こ?」
「駄目ですよ。後で買ってあげますから、今は我慢です」
「むー……わかった」
そして、僕たちには少し辛いですね。
ここ最近、街に寄っても屋台などがなかったからか、こうして美味しそうな匂いが漂ってくるだけで、ついつい寄り道したくなってしまいます。
「でも、どうして屋台なんかあるのでしょうか? 魔族の方って食事は必要としないのですよね?」
「娯楽だと思いますよ。私達は食事は必要ないとはいえ、食べる事はしますので」
「うん。ユン姉達と共に過ごしてわかった。食事は楽しい。美味しいのは幸せ」
二人が言うと妙に納得できますね。
ここに来るまで二人の生活を聞いていましたが、食事をする事は本当に稀で、その食事というのも僕たちでは考えられないほどにとても質素なものでした。
それこそ魔素だけで補えない要素を取り入れるだけの果実や植物とか。
「もう、あの生活には戻れませんね」
「私も。これはユン姉達のせい」
「そうですね。こんな身体にした責任をとっていただかないといけませんね」
「もう、お嫁にいけない」
「お姉様達に貰って頂かないといけませんね」
「それは駄目。ユアンは私と相思相愛だから渡せない」
「残念ですわ」
「残念」
二人の息がぴったりで思わず吹きだしそうになりました。
最初こそ僕たちに遠慮していて、どうしても距離が空いていた感じがしましたが、ようやく冗談を言ってくれる程には近づけた気がするので嬉しいですね。
でも、まだあの一件……僕たちの正体というか、冒険者以外の肩書は伝えられていないので、それを伝えた時、どんな反応をするのか怖いですね。
「ところで、何処まで歩けばいいの?」
「もう少しです。この区画を抜けたら直ぐです」
結構歩いた気がしますが、もう少し歩かなければいけないみたいですね。
それだけでこの砦がどれだけ大きいのかわかります。
「砦というよりも要塞都市って感じが近いと思うの」
「その名前を聞くと良い思い出はありませんけどね」
「うん。鼬国の……」
「それ以上は駄目ですよ。スノーさんが落ち込みますので」
「言っておくけど、私だけのせいじゃないからね?」
「そんなに否定しなくてもいいと思うの」
「だって本当に私だけのせいじゃないし」
あれは本当に酷い事をしましたね。何せ、都市一つが水没ですからね。
「そろそろつきますよ」
歩くのが長くなったので、結局はみんなと雑談を交わしながらアルデリカさんの後に続いていると、ようやく目的地へと着いたみたいです。
「この先が軍部の拠点となります。付いてきてください」
「それ以外に選択肢がないんだけどね」
「そうだなー。うろつくの禁止されたからなー」
「仕方ないじゃないですか……ほら、こっちですよ」
この移動でまた僕たちに慣れたみたいですね。
ちょっとだけ扱いがいい意味で雑になりましたね。
これで僕たちのわだかまりも全て消え去ってくれればいいのですが、流石にまだ早いですね。
「では、僕たちも行きましょう……シアさん?」
みんなが歩きだしたので、僕たちも続こうと思ったのですが、何故かシアさんがぴたりと足を止めていました。
しかも、それだけではなく一点を見つめるようにジッと何処かを見つめています。
なので、僕も気になってシアさんの視点の先を追ってみる事にしました。
すると、そこには……。
「灰色の髪の獣人?」
それに黒が混じった髪の狼族らしき女性が人が砦の上に立ち、僕達……いえ、シアさんの事をジッと見つめているのでした。
久しぶりの更新となりました。
遅くなりまして申し訳ございません。
更新頻度あげれるかわかりませんが、引き続き応援してくださると嬉しいです。
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