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弓月の刻、騎士団を捕まえる

 「ユアン、これで全員」

 「ありがとうございます」

 「構わない。でも、これからどうする?」

 「そうですね……」

 

 正直な所、かなり困惑しています。

 

 「ひっ! ご、ごめんなさい……これ以上、痛くしないで下さい」

 「そのつもりはありませんけど……」


 どうしていいのか困ります。

 勢いで襲ってきた集団を返り討ちにしたのはいいものの、実力の差を思い知ったのか、すっかり僕たちに怯えるようになってしまいました。


 「自業自得だけどね」

 「そうなんですけどね」


 拘束すると宣言しただけあって、僕たちに殺意を向けては来ませんでしたが、それでも武器を抜かれた以上は僕たちも対応する以外に選択肢はなく、その結果逆に僕たちが拘束する側になったのですが、正直な所ここまで怯えられると複雑です。


 「ただの正当防衛。気にする事はない」

 「気にしてはいませんよ」


 それに、多少痛めつけてしまいましたが、傷はちゃんと癒してあげましたからね。


 「でも、大丈夫なのかな? 一応、この人達はルティナの騎士みたいだけど」

 「大丈夫だと信じたい所ですけど……」


 困った理由のもう一つがこれだったりします。

 格好からして、相手が冒険者ではなく、何処かの騎士だとは予想していましたが、まさかこの人達が本当に騎士だとは思っていなかったのです。

 だって、騎士がいきなり問答無用で旅人を拘束しようとするだなんて思いませんよね?


 「まぁ、普通は話くらいは聞くかな」

 「何でだー?」

 「もしかしたら、何処かの国の使者の可能性だってあるからだよ。一応、それを示すように私もちゃんと騎士の格好しているしね」

 

 スノーさんはいつものスタイルなので、白の甲冑と腰には剣を差していますので、確かに冒険者というよりも騎士に見えますね。

 

 「とりあえず、前向きに考えようか」

 「そうですね。幸いにも、この方達は僕たちの行き先に詳しい人達ですからね」

 「それが本当なら」

 「流石にこの状況で嘘はつかないとは思いますけど……一応、確認してみますか」

 「それなら私に任せる……ん」


 シアさんが捉えていた人の頭に手をかざし、魔力を流しました。


 「シア、何かしたの?」

 「うん。契約魔法。嘘ついたら、痛む奴」

 「そんな魔法が使えたんだね」

 「割と前から使えましたよね。確か、カバイさんがナナシキに侵入した時に使ってたと思います」

 

 サンドラちゃんと出会い、イリアルさんが訪れ、シアさんが影狼族の長になった頃の話しなので結構前になりますね。

 

 「で? 効果はちゃんとあるの?」

 「わからない。だから、試してみる……おい」

 「は、はい! 何でしょうか?」

 

 シアさんがしゃがみ込み、魔法をかけた隊長さんに声をかけると、身体をびくりと震わせ、顔をあげてシアさんを見ました。


 「そんなに怯えなくてもいい。ただ、私の質問に嘘偽りなく話せ」

 「…………内容によります」

 「酷い目にあうとわかっても同じことが言える?」

 「……これでも、国を守る騎士です。覚悟は出来ています」

 「ふーん。怖くないの?」

 「怖いです。ですが、痛めつけられても、情報は与えられません。痛いのは嫌ですけど」


 さらっと本音を混ぜてくるあたり憎めない人ですね。

 

 「なら、最初から行動に気をつけるべきだと思うよ。貴女の行動は国の品位を貶める行動だからね? 騎士の誇りがあるなら尚更さ」

 「うっ……確かにその通りです」

 

 自分のしでかした行動を理解したのか、がくんと首を垂れました。


 「反省したみたいだけど、私の話は終わってない。こっち見る」


 しかし、シアさんはそんな事では許してあげないみたいですね。

 問答無用で隊長さんの顔をあげさせました。


 「申し訳ありませんが、私から話せることはあまりありません」

 「それでもいい。私達が知りたいのはお前たちが本当にルティナ兵士かどうか」

 

 捕まえた時に、ルティナの騎士団と言われましたが、それが本当かどうか確認する術を僕たちは持っていませんので、話をそのまま鵜呑みにする訳にはいきませんからね。


 「だから、改めて質問する。お前たちはルティナの人間? 目を見て答えろ」

 「間違いありません」

 「一緒に捕まってる奴らも?」

 「はい。私の部下です。なので、責任は私にありますので、部下には手を出さないで……えっ?」


 シアさんが隊長さんが話している途中にも拘らず、拘束していた縄を剣で切り解きました。


 「いいのですか?」

 「うん。これ以上、拘束しておく理由はない」

 

 という事は、本当にこの人達はルティナの騎士だったみたいですね。

 だとすると、やっぱり正当防衛とはいえ、手を出したのはマズかったかもしれませんね。

 もちろん、後悔はしていませんけどね。

 でも、僕たちの行動のせいで国同士が険悪な関係になるのも困りますけど……んー、どうするのがいいのでしょうか?

 

 「大丈夫だよ。ユアンが思っているような事にはならないから」

 「本当ですか?」

 「うん。だから、とりあえず私に任せて」


 スノーさんが自信ありげに僕の肩を叩くと、シアさんの横に並び、いまだ困惑する隊長さんに手を差し伸べました。


 「ごめんね。どうやらお互いに誤解があったみたいだね」

 「誤解、ですか?」

 「そうそう。あんな状況だったし、お互いに警戒するのは仕方ないよね」


 実際に敵か味方なのかわからない状況でしたからね。

 

 「ですが、私達は騎士として……」

 「そうだね。だから、貴女達の行動は何も間違ってないよ」

 「なら、貴女方が……」

 「間違ってないよ。そもそも私達が拘束される理由はないからね。それに、もし私達が悪人で貴女達の敵だったら、貴女達は今頃この世には存在していないと思うよ。捉えるよりも殺す方がずっと楽だからね」

 

 さらっとスノーさんが怖い事を言っていますが、これって事実なのですよね。

 自分達で言うのもアレですが、こうやって騎士たちを拘束出来たのは実力差があって僕たちに余裕があったからです。

 これがもし拮抗した実力であったり、窮地に立たされていたらとてもではありませんが相手を気遣う余裕はありませんでした。


 「だからさ……、良かったよね。誤解でさ?」

 「…………はい。誤解で良かったです」

 「うんうん。それじゃ、私達の話もしっかり聞いてくれるよね?」

 「あっ!…………はい」


 私達の話『も』と強調した事に隊長さんも気づいたみたいですが、スノーさんと和解を交わした手前、頷くしかなかったみたいですね。

 しかし、スノーさんのお陰で敵対する事は避けれたと思いますし、情報も得られそうですね。

 

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