弓月の刻、挟まれる
「どうしましょうか」
「動くなって言われたし、任せればいいんじゃない?」
「うん。どっちにしろ囲まれてるから動けない」
困った状況ですね。
怪しい集団に囲まれたと思ったら、別の集団が現れました。
しかも、怪しい集団は僕たちの包囲網解き、僕たちを間に置くようにして、新たに現れた集団と対峙する形をとったのです。
そのせいで完全に僕たちが真中に入り、挟まれた形となりました。
「お姉様……」
「大丈夫ですよ」
フタハちゃんが怯えたようにプルプルと震え、僕のローブを握ってきます。
無理もありませんね。
どうやら二つの集団には因縁でもあるのか、お互いににらみ合い、物凄いプレッシャーを放っていますからね。
といっても、ローブの集団は深くフード被っているので表情は伺えないので、後から来た騎士っぽい女性たちが凄く睨んでいる形です。
それにしても……この後、どうするつもりなのでしょうか?
「いい加減、面倒になってきた」
つまらなさそうにシアさんがため息を洩らしながら呟きました。
それも仕方ありませんね。
この状況になってから、既に五分ほど経過しました。
それなのに、どちらもにらみ合ったまま動こうとしないのです。
「お互いに牽制しあってるから仕方ないよ」
「それはわかる。だけど、どちらかが動かないとずっとこのまま」
「やるなら私達の関係ない所でやって欲しいと思うの」
本当にそうですよね。
この二組にどういった因縁があるのかわかりませんが、それは今の僕達には関係のない事ですからね。
まぁ、大体の予想はつきますので、全くの無関係とは思いませんけどね。
「お姉様達、どうしてそんなに余裕があるのですか?」
「この状況で落ち着いてられる神経はおかしい」
そういわれても、挟まれているものの、僕たちに敵意を向けられていませんし、みんなが固まってくれていますので、小さなドーム型の防御魔法を展開していますので、余程の事がない限り危険はありませんからね。
とはいえ、ずっとこのままというのも困ります。
シアさんが膠着状態に飽きてきたしまったようで、今にも動き出しそうになっていますからね。
なので、ここは敢えて切っ掛けづくりの為にも僕たちが動いてみる事にしました。
「う、動くなといっているだろう!」
「……!」
すると、僕たちを挟んでいた両方の集団から焦ったような雰囲気が伝わってきました。
それでも構わず、僕たちはスーっと二組の間から移動し、二組が僕たち抜きで対峙するようにしてあげました。
やっぱり僕たちがいたら邪魔ですからね。
「「…………」」
やっぱり、第三者っていいですよね。
僕たちがどいた途端、あからさまに挙動不審になりました。
どうやら僕たちがいた事でにらみ合いが成立していたみたいで、居なくなった瞬間どうしていいのかわからなくなったみたいです。
「……今、退くなら見逃す」
「…………撤退」
「だが、次はないぞ」
「…………勘違いするな。私達は、目的を果たしたから戻るだけ。お前たちは端から眼中にない」
「ほぉ……なら、ここでやりあうか?」
「そっちが望むなら構わない。しかし、ガキどもを守りながら戦えるならだけどな」
「ちっ、行け」
「そうさせてもらう」
ガキって僕たちの事ですかね?
ここで僕たちに構わず好きに続けてくださいと言ったら余計に混乱しますかね?
「言ってみていい?」
「駄目ですよ」
「残念」
その気持ちは凄くわかりますけどね。
ですが、巻き込まれたとはいえ、僕たちがローブの集団に目をつけられたのが始まりですし、これ以上余分な事をするのは良くなさそうです。
それに、言おうにもシアさんとそんな会話をこっそりとしている間に、ローブの集団は現れた時と同じように忽然と姿を消してしまいましたので、どちらにしても言うタイミングは逃してしまいました。
どうやら転移魔法陣を使用したみたいですね。
気配が消えた辺りの魔力を辿ると、それらしき魔力の残りを感じる事が出来ました。
「行ったか……」
ふぅと安堵のため息を後からきた集団のリーダーらしき人がもらしました。
「お疲れ様です」
「ん? あぁ、ありがとう」
「では、僕たちもこれで」
「あぁ、気をつけて……って違う!」
残念です。
もしかしたらこのまま立ち去れるかなと思いましたが、そうはいきませんでした。
ハッキリいって、さっきの集団も目の前の人達も僕たちからしたらどっちがいい人で、どっちが悪い人、もしくは両方とも悪い人なのかわかりませんからね。
出来る事ならこのままスルーして貰えれば良かったのですがそうはいかないようです。
「まだ何か用ですか?」
「当然だ。お前たち、ここで何をしていた?」
「僕たちは旅の途中で立ち寄っただけですよ。そしたらさっきの人達に絡まれた感じです」
「それを証明する事は出来るか?」
「信じてくれとしか言えないです」
僕たちはルード帝国の帝王であるクジャ様からの依頼で魔族領へと来ていますので、それを提示すれば少なくとも此処にいる理由くらいは証明することは出来ます。
ですが、それを見せるのは最終手段にしたい所です。
少なくとも、目の前の相手が何処の騎士団なのか判明するまでは。
「ならば仕方ないな……」」
騎士団の団長らしき人達が団員に目配せをしました。
「君たちを拘束する!」
そう宣言し、再び僕たちは包囲されたのでした。




