弓月の刻、戦場となった場所へ着く
森を抜け、森の切れ目から見下ろすそこは、無が広がっていました。
「ここがそうですよ」
「なるほど。確かに戦いやすそうな場所ですね」
街を出発してから一週間経った頃、僕たちは街で足止めされる原因となった戦場に差し掛かりました。
「なんだか、凄く嫌な感じがするね」
「何もないのがまた不気味な感じがすると思うの」
死の大地。
そう言われても納得してしまいそうなほどに、その場所には何もありませんでした。
「戦争が原因ですかね?」
「草木一本も生えていないのは流石に異常」
「砂漠の方がまだ景色があったぞー」
本当に砂しかなかった砂漠でしたが、その砂漠でさえデコボコな丘があったり、サボテンというとげとげした植物が生えたりしていました。
しかし、この場所はそれすらもなく、多少の緩やかな小さな丘こそありますが、本当にそれ以外に何もなかったのです。
「お姉達が不気味に思うのは正常。実際、ここでは何度も大規模な戦闘が行われている」
「これだけ見通しがよければ当然」
「まぁ、戦いには向いているだろうね。軍を展開するのにはいい所だと思うよ」
「逆に大変な戦いになりそうですけどね」
「実際大変だろうね。向こうの行動が丸わかりだけど、逆にこっちの行動も全て見られるわけだからね」
「だからこそにらみ合いになる」
僕たちが経験した事のない戦いですね。
僕たちも戦争経験者ですが、僕たちの戦いは、ほとんどが突撃して終わりでしたからね。
特に、鼬族との初戦がそうでしたね。
「それはユアンさんとスノーさんの部隊だけだと思うの」
「私達はちゃんと部隊を指揮して作戦を練って戦った」
「それは僕たちもですよ!」
ただ、その作戦がたまたま突撃になってしまっただけですからね!
「そうそう。それに私の部隊はちゃんと制圧した門を死守する役目だったし、ユアンとは違うからね」
「そうでしたね」
「確かにスノーは役割を全うしてた」
「む……それじゃ、僕だけ突撃したみたいになるじゃないですか」
「実際そうでしたよね?」
僕は違いましたよ?
ちゃんとスノーさんと一緒に門を制圧してそのまま守りましたからね。
まぁ、僕の部隊であるチヨリさんとアラン様達は突撃して暴れまわってましたけどね。
「あの……さっきから何の話でしょうか? 聞いた限り、お姉様方が戦争経験者で、しかも部隊を指揮したと聞こえるのですが……?」
つい話に夢中になってしまいました!
そして、思い切り話を聞かれてしまったみたいです!
フタハちゃんは僕たちの話を危機、凄く怪訝そうな顔をしました。
「あー……それはですね……」
フタハちゃん達に気を遣わせたくないので、スノーさんがナナシキの領主である事は伏せておきたかったのですが、流石にここまで話してしまっては誤魔化しきれないかもしれないですね。
まぁ、一か月以上の時を一緒に過ごしているので薄々は普通ではないと勘付いていると思うので、無理して誤魔化す必要もないですし、この際、全てを話してしまった方がいいですね。
そう思い、みんなに目配せすると、みんなから仕方ないねと頷きが返ってきました。
では、サクッと説明しちゃいましょうと、口を開きかけた時でした。
「っ! みなさん、警戒してください!」
ぶわっと、気持ちの悪い魔力が肌を撫でるように広がってきました。
「スノー」
「了解。フタハとソウハは私の後ろに」
「サンドラちゃんも私の後方に居て下さい」
「わかったぞー。杖、構えとくなー」
速いですね。
これも、この一週間の成果かもしれませんね。
走り込みだけではなく、連携や各自の役割を確認しあってきた甲斐がありました。
そのお陰もあって、僕が警戒を促した時には既にそれぞれが役割を果たせるポジションへと移動していました。
「ユアン、相手の位置は?」
「僕たちから見て、左前方、約、百メートル程先です」
「数は、十二人で間違いない?」
「はい……いえ、一人増えました」
「うん。もう一人増えた」
シアさんの感覚も鋭いですね。
僕が探知魔法で捕らえた情報を全て感覚だけで把握しています。
しかも、自分の感覚だけで判断せず、僕に確認をとりつつ、同時に周りに相手の位置を教えています。
「近づいてきます」
どうやら、僕達の事に気づいているようで、突如現れた集団は真っすぐ僕たちの方へと近づいてきました。
「ま、魔物ですか?」
「いえ、相手は人ですよ」
「ユン姉、大丈夫?」
「問題ありませんよ。ただ、僕たちから離れないようにだけ気をつけてくださいね」
ただ一つ、心配があるとすれば、戦闘になった場合、この二人を守りながら戦えるかですね。
「大丈夫。それは私がどうにかするから」
「二人居ても?」
「問題ないよ。みぞれも居るし」
「頼もしい。全部任せた」
「了解」
スノーさんに任せれば懸念していた事もどうにかなりそうですね。
となれば、僕たちはこっちに集中すればいいだけですね。
まぁ、急に現れた人たちがまだ敵とは限らないので、戦いにならない可能性も……んー、そういう訳にはいかなさそうですね。
「…………」
やってきたのはローブを深く被った、いかにも怪しい集団でした。
その手には杖や短剣が握られていて、とても話し合いで解決できるような雰囲気は全くありません。
「何か、御用ですか?」
それでも会話をすれば何か変わるかもと思い、一応声をかけてみますが。
「…………捕縛」
その余地はないようで、足音一つ立てずに僕たちを囲むように移動を開始しました。
残念ながら、話し合いで解決できるような相手ではないみたいです。
「仕方ありませんね……一応は忠告しますが、退いてはくれませんよね?」
「…………」
完全に囲まれました。
どうやらそれが答えのようですね。
はぁ……僕たちはどうしていつもこう色々と面倒ごとに巻き込まれるのでしょうか。
そう言うと、みんなから『ユアンだから』と言われそうなので言いませんけどね。
だからといって、流石にこれはないですよね。
「そこで何をしている!」
光があれば影があります。
それと同じように、ローブを被った怪しい集団がいれば、まるで騎士のような集団もいるのですかね?
「全員そのまま動くな。動いたら……わかるな?」
ローブを被った集団が現れた方向とは真逆の方から別の集団が現われたのでした。




