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弓月の刻、魔族領を移動する

 「ようやく出発できましたね」

 「長かったなー……」


 まさか、戦争の影響で街にひと月も滞在する事になるとは思いもしませんでした。


 「お陰でゆっくり休めたけどね」

 「そうですね。仕事も進みましたし、これで暫くはこっちに専念できると思うの」

 「僕たちの方も進んだので悪い事ではなかったですけどね」


 実際の所、僕たちもナナシキでの仕事がありますので、そちらの方を集中的に進める事ができました。

 なので、今日からはこっちの旅に専念する事ができるので、良かったといえば良かったですが、どうしても問題はあるのですよね。


 「スノー、馬車から降りた方がいい」

 「どうして?」

 「身体、重くなった」

 「なってないし!」


 恒例のスノーさん弄り……と言いたい所ですが、この一か月、僕も少し身体が鈍ったような気がします。

 

 「キアラ、実際どう?」

 「実際ですか? 正直、私も含めて運動した方がいいとは思うの」

 「スノー、聞いた? キアラがお肉減らせって」

 「聞いたけど、そんな事言ってないよね?」

 「言ってないけど、視線を見ればわかる」


 目は口程に物を言うって言いますからね。

 僕もキアラちゃんの視線を見ていましたが、ちゃんとスノーさんのお腹周りを見ているのを確認しました。


 「これでもそれなりに運動はしてたからそれほどだと思うんだけどなぁ」


 確かに、僕もスノーさんも運動はしていました。

 ですが、運動といっても、一人で出来る運動には限りがありましたし、どうしても一人でやると甘さが出てしまい、怠けてしまった自覚があります。

 

 「運動してたとしても、それ以上に食べたら意味ない」

 「そうだぞー。リコがスノーが間食ばかりして心配って言ってぞー!」

 「…………内緒って言ったのに」


 それは知りませんでしたが、間食は一番マズい奴ですね。

 

 「でも、気持ちはわかりますよ。ジーアさんが作ってくれるお菓子は美味しいですからね」

 「そうなんだよね。あればあるだけ食べちゃうよね」

 「ですが、流石に食べ過ぎはよくないですよ」


 それに、美味しいものは適度に食べるから美味しいのであっていつも食べていたら飽きてしまいます。


 「ユアンは仲間だと思ったのに」

 「それは違う。ユアンは太らない体質」

 「シアさんもですよね」

 「女の敵めっ!」


 そう言われてもこればかりは体質ですからね。

 逆に僕はもう少し背と体重を増やしたいくらいです。

 

 「それはある。ユアンの体格だと接近戦は不利」

 「そうなんですよね。力は魔法でどうにかカバーはしていますけど、背はどうにもなりませんからね」


 特に僕の相棒は刀ですので、僕の背だとどうしても振り回されてしまう時があります。

 大事な時は朔夜がいう事を聞いてくれますが、そうでない時は朔夜は僕で遊びたがりますからね。

 困ったものです。


 「どちらにしても、みんな運動した方が良いって事だね」

 「一番はスノーだけど、運動はした方がいい」

 「ま、とりあえず馬車に合わせて移動するよ……ごめん、一度止めてもらっていいかな?」

 「わかりました」


 スノーさんがフタハちゃんに声をかけると、ゆっくりと竜車が止まりました。

 

 「なら、僕も付き合いますね」

 「私も一緒に走りますよ」

 

 スノーさんが降りたので、身体を動かしたい僕とキアラも一緒に降りる事にしました。


 「私は見守ってる」

 「魔物が来ても大丈夫なように待機してるぞー」

 「それも大事なのでお願いします」


 魔族領の魔物はルード帝国やアルティカ共和国に居る魔物よりも強いみたいなので、全員が疲れていたら危ないのでそうして貰えると助かりますね。

 まぁ、走りたくないから体のいい言い分けかもしれませんけどね。


 「それじゃ、出発しようか……今更嫌になってきたけどさ」

 「そう言わずに頑張りましょうね」

 「そうだよ! ふふっ、こういうのもきっと楽しいよ?」

 「笑ってられるのは最初だけだよ……あー、騎士団に居た頃を思い出すから嫌だなぁ」


 どうやら昔の辛い体験を思い出してしまったみたいですね。

 騎士団の訓練がどれだけ大変なのかわかりませんが、スノーさんの嫌がりようからすると相当大変だった事が伺えます。

 

 「ぐだぐだ言ってないで走る。フタハ、出発」

 「わかりました」

 「あっ、ちょっとまだ準備が……」

 

 今から走るので準備運動をしていると、シアさんの掛け声共に竜車が出発してしまいました。


 「キアラちゃん! スノーさん合わせてたら置いて行かれるので先に行きましょう!」

 「うんっ! スノーさん、追い付いてきてね!」

 「嘘!? ま、待ってよー!」


 出だしで躓いたら大変ですからね。

 スノーさんには悪いですが、僕はキアラちゃんと一緒に先に走り出しました。

 といっても、速度は早歩きかそれよりも少し早い程度なので直ぐに追い付いてきましたけどね。


 「この速度なら余裕そうだね」

 「そうですね」

 「息も上がる事はないので大丈夫だと思うの」


 なんならもう少し速度をあげても大丈夫かなと思えるほど余裕でした。

 しかし、僕たちの考えはかなり甘い事にすぐ気づく事になります。


 「「「…………」」」


 最初の一、二時間はまだ会話する余裕はありました。

 しかし、三時間、四時間と重ねるごとに会話はなくなり、六時間が経過した頃はついに会話がなくなりました。

 そして……。


 「もぅ、無理……」

 「僕も、です……」

 「私も、動けません……」


 野営の場所が決まると同時に、僕たち三人は倒れこみました。

 まるで生まれたての動物のように足をプルプルとさせながら、倒れました。

 まさか、ゆっくりでもずっと走り続けるのが辛いとは走り出した時には思いもしませんでした。


 「おつかれ。野営は私達に任せて休むといい」

 「いいんですか?」

 「構わない。だって、辛いのは明日だから」

 「?」


 シアさんが言いたい事はよくわかりませんでしたが、今日ばかりは好意に甘えさせて頂く事にしました。

 ですが、次の日。

 僕たちはシアさんが言っていた事を痛感する事になりました。


 「あ、足が……」

 「さ、触らないでください!」

 「あー……懐かしいな、この感じ……ふふっ、今日も辛いんだろうなぁ」


 三人揃って見事に筋肉痛になりました。


 「今日は速度は落とすから安心するといい」

 「頑張って歩こうなー」


 それなのに、休ませてくれるという選択肢はないようですね。

 

 「出発」

 「いくぞー!」


 こうして僕たちの旅は再スタートし、それと同時に魔族領の旅も本番を迎えたのでした

次回から物語が動く予定です。

更新頻度は秋口くらいからあげれるように頑張りますので、もう暫くお待ちください。


いつもお読み頂きありがとうございます。

今後ともよろしくお願いします。

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