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影狼と勇者2

 「私達の敵の事はラインハルトも知ってると思う」

 「魔力至上主義だね。私もアーレン教会で働いていたから、少しは知ってるよ」


 実際、ダンテの奴がその連中と繋がっていたらしいしね。


 「なら話は早い。私達はこの先、それと本格的に戦う事が予想される」

 「そうなるだろうね」


 リンシア殿達が何をしているのかは私も知っている。

 つい最近、一緒にリアビラへと行ったくらいだしね。


 「ラインハルトは魔力至上主義の事、どう思う?」

 「少なくとも一個人がどうにか出来る相手だとは思わないかな」


 純粋な戦いになれば相手が誰であれ遅れをとる事は少ないと思うが、奴らは手段を選ばない。

 実際に私も姉の手掛かりとなる形見をとられ、修道女達を人質にとられ、身動きのとられない状態になっていた事があった。

 しかも、相手は組織。

 ユアン殿達が凄いとはいえ、数で責められたら限界はある。転移魔法で逃げれると思うが、実際に転移魔法には欠点も多く、確実に発動できる訳ではないからね。


 「私達はその相手をしている」

 「王族の後ろ盾があるとはいえ、安心はできないね」

 「うん。だから、備えはしておきたい」

 「備え? それって……」

 「簡単にいえば……私の、代わり」

 

 嫌な事を聞いた。

 まさか、リンシア殿がそんな事を考えているとは思いもしなかった。


 「どうしたの?」

 「いや……まさか、リンシア殿からそんな事を言われるとは思ってなくてね」

 「意外?」

 「意外といえば意外かな」

 「私もそう思う。だけど、それだけこの先の事がわからないのも事実」


 リンシア殿は自分の力に自信を持っている。

 そのリンシア殿が弱音、ではないがそのような事を言うとは思わなかった。

 それも同じパーティメンバーでもない私にだ。

 

 「何か、心配になるような事でもあったのかい?」

 「今の所はない。だけど、胸騒ぎがする。多分、予感って奴。しかも、悪い方の」

 

 野生の生き物が危険を察知するように優れた者にはそういった感覚が宿ると言われている。

 

 「その感覚は大事にした方がいい。しかし、私が詳しくないだけかもしれないが、魔力至上主義の連中はそんなにマズい存在なのかな?」


 私が知っているのはダンテとその部下くらいだったが、あのくらいなら私にでもどうにか出来る。

 もちろん、人質などをとられなければという条件はつくけどね。


 「ラインハルトも知っていると思うけど、普通の神経をしていたら、ゾンビやスケルトンを使って、軍を作ったりなんかしない」

 「結果的には自滅だったとはいえ、確かにやっていることは非人道的行為だね」


 私も一緒にリアビラへと同行したから知っているが、あの街は酷いものだった。

 

 「それに、相手にも龍人族がついている可能性がある。ラインハルトは龍人族に勝てる自信はある?」

 「やってみないとわからないというのが本音かな。リンシア殿は?」

 「不死身じゃなければ、いけると思う」


 それは、ダンジョンマスターとなっていたサンドラ殿の事かな?

 確か、あの時はかなり苦戦したと話しには聞いた事があるけど、そのサンドラ殿を倒せる自信があるのは純粋に凄いね。

 サンドラ殿が言うには、ダンジョンマスターとなってからの力でいえば、龍人族の中でも上位くらいはあると言っていたからね。

 といっても、あの姿で力説されても少し信憑性に欠けるけどね。

 信じていない訳ではないけど、なーなー言いながら熱弁する可愛い姿の方が印象に残ってしまったから。

 

 「それだけの自信があるのなら心配いらないように思えるけど?」

 「それは相手が単体だった場合」

 「そうか、龍人『族』だからか」

 「そう。敵の数が増えたら私達でもきつい。それに、女神の底はしれない」

 「忘れていたけど、レン殿が敵に回る可能性があるんだったね」


 毎日のように食事や昼寝をしに来るから忘れていたけど、レン殿は女神は味方にも敵にも……いや、最初の出会いを聞いた限りでは敵に回る可能性の方が高いんだったね。


 「そこに修行を終えた魔力至上主義奴ら。戻って来たらAランクやその上に匹敵する強さになるかもしれないって話」

 「それはリンシア殿が心配になるのもわかるね。だけど、リンシア殿の代わりってのはよくわからないよ。もしかして、仲間に危険が訪れたら身代わりになろうとか考えている?」

 「そのつもりはない。だけど、私が影狼族である以上、みんなよりも死ぬ可能性は高い」

 「影狼族だと何かあるのかい?」

 「血の契約の効果。もし、ユアンに何かあった時は私が肩代わりする」


 考えたくもないけど、ユアン殿が死んだとき、代わりにリンシア殿が死ぬことになるという事だろうか?


 「血の契約ってそんなに凄いのかい?」

 「この魔法を完成させたのはラインハルトの姉。疑うのなら直接聞いてみるといい」


 そうだった。

 影狼族って姉上が進化させたのが始まりだったね。

 そして、その姉上は元はアルフォード王国の女王で、魔王の血を濃く受け継いでいる。

 

 「ユアン殿にはあっさりと負けたみたいだけど、あの姉上が造った魔法ならあり得るかもしれないね」

 「かもじゃない、本当。実際、契約の力で何となくわかるから」

 「なるほど。言いたい事はわかったよ。つまりは、ユアン殿達の中で一番何かある可能性があるのはリンシア殿で、その時はユアン殿の事を頼んだって事だね」

 「そういう事。きっと、私に何かあったらユアンは落ち込む」

 「きっとではなく、確実に落ち込むだろうし、落ち込む程度ですまないと思うけどね」

 

 好きな人、それも自分の嫁さんに何かあって平気な人なんていないだろうからね。


 「うん。だけど、ユアンは立ち止まる事は許されない」

 「だから私に何とかしろって事なのかな?」

 「そういう事になる」

 「嫌な事を押し付けるね」

 「それはすまないと思ってるし、そうならないように気をつける」

 「本当に気をつけてね? 私には荷が重いからさ」

 「うん。でも、私が死んだらユアンの一番になれるよ?」


 もし、私がユアン殿との関係が進み、恋仲になれたら形式上はそうなるかもしれない。


 「あくまで形式上はね。だけど、ユアン殿の中ではずっとリンシア殿が一番だろうから、私がユアン殿の一番になる事はないよ」

 「そうかも」

 「そうさ。それに、私としてはそれが一番好ましいからね」

 「どうして? 一番になりたくないの?」

 「順番はあまり気にしないよ。それに、ユアン殿の一番の笑顔を見る事が出来るのは、リンシア殿と一緒に居る時だからね。リンシア殿が居なくなったらその笑顔を二度と見れないとなれば、リンシア殿に居なくなられたら私が困るよ」


 それだけユアン殿の中でリンシア殿の事が大きな存在という訳だ。

 それが順番で回ってきたとしても嬉しくない。


 「だから、何があっても意地でも生き残って帰ってきて貰えるかい?」

 「善処する」

 「頼むよ。まぁ、私よりも実力者のリンシア殿に言う事ではないと思うけどね」

 「そう思うの?」

 「思うよ。また、最近強くなったよね?」

 「そうなの?」

 「そうだよ。魔族領に行ってから、魔力の保有量が増えたよ」

 「知らなかった。だけど、そうだったら嬉しい」


 リンシア殿がにこりと笑顔をこぼした。

 

 「やっぱり、笑うと可愛いんだね」

 「普段は可愛くなくてごめん」

 「あっ、いやそうは言ってないよ。ちゃんと普段も可愛いと思ってるさ」


 ただ、私に向ける本当の笑顔は初めてだったから、ついそう言ってしまっただけだからね。


 「ありがとう。だけど、そういうのは良くない」

 「どういうのだい?」

 「ナンパみたいなの」

 「別にそういう意味で言ったわけではないからね?」

 「知ってる。だけど、ラインハルトは顔が良い。だから、人によっては誤解されるから気をつける。特に胸はぺったんこだから、男と勘違いされるかもしれないから」

 「それは余計だよぅ!」


 小っちゃいのは仕方ないじゃないか。

 私だって好きで小っちゃいわけじゃないし……。


 「冗談。小っちゃくてもラインハルトにはラインハルトの魅力がある」

 「例えば?」

 「知りたければユアンに直接聞くといい。ユアンは人のいい所を探すのが上手い」

 「逃げたね」

 「逃げてない。教えて欲しければ幾らでも教える。だけど、今じゃないだけ」

 「それじゃ、いつ教えてくれるんだい?」

 「ラインハルトがユアンに認められたら。私達のベッドなら三人で並んでも余裕。その時は朝まで付き合う」

 「それは楽しみだね」

 「うん。待ってる」


 リンシア殿は私の事を本当に応援してくれているらしい。

 その証拠に、リンシア殿の事を『シア』と呼ぶことを許してくれたし、時間があれば私とユアン殿が仲良くなれるように協力やアドバイスもくれると約束もしてくれた。

 かなり頼もしいな。

 まぁ、その理由には納得がいかない所もあるけどね。でも、そうなったら素敵な未来だなと思った。

 それと同時に、私も決意しなければいけないな……。






 「ユアン殿……聞こえているかい?」

 「すぅすぅ……」


 ユアン殿に語り掛けるも、返って来るのは静かな寝息だけだった。

 しかし、私の言葉は勝手なものなので、返事は必要ない。

 だから、私はユアン殿の頭をそっと撫でながらこう伝えた。


 「私は誓うよ。君達に。私は絶対に……」


 

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