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黒天狐と勇者2

 「ラインハルトさん、入りますよ?」


 自分の部屋なのに、部屋に入るだけでこんなに緊張するのは初めてかもしれません。

 正直、心臓がバクバクして、倒れてしまうんじゃないかと思うほど、自分でも緊張している事がわかります。

 ですが、いつまでもこうしていられません。

 深呼吸を繰り返し、意を決して部屋の中に入ります。

 すると、そこにはベッドに腰かけ、ぶつぶつと何かを呟きながら座っているラインハルトさんの姿がありました。


 「ぷっ」

 

 その姿を見た瞬間、何だか緊張しているのが馬鹿らしくなり、思わず吹きだしてしまいました。

 

 「あっ、もしかして……見てた?」

 「はい。バッチリ見ちゃいました」

 「ははっ、また情けない姿を見せてしまったね」

 

 吹きだした事でラインハルトさんも僕が入ってきた事に気づいたようで、慌てて立ち上がると、恥ずかしそうに頭を掻きました。


 「情けないとは思いませんよ。僕もさっきまで同じでしたからね」

 「けど、もう大丈夫なんだよね?」

 「まだ少し緊張していますけど、大丈夫ですよ」

 「凄いね。私はもう少し慣れるのに時間がかかりそうだよ」

 「すぐに慣れますよ」

 「そうかな? けど、それはそれで勿体無い気がするけどね」

 「わかります」


 今でこそシアさんと寝る事が当たり前になりましたが、最初は凄くドキドキした気がします。

 だって、起きたらいきなりすぐ隣に居るんですよ?

 誰だってびっくりしますよね?

 でも、今ではそれが当たり前になってあのドキドキは今ではなくなってしまいました。

 まぁ、違う意味でドキドキする日が沢山あるので残念だとは思いませんけどね。


 「そうなのかい? シア殿が言うには、ユアン殿は直ぐに受け入れていたと言っていたけど?」

 「そんな事ないと思います……ってラインハルトさん、シアさんからそんな話を聞いていたのですか?」

 「うん。参考になればって色々教えてくれたよ。ま、参考にはならない事ばかりだけどね」

 

 シアさんの感性も独特な所がありますからね。

 特に恥じらいに大しては鈍感なようで、僕たちが恥ずかしいと思う事を平気でしようとしてきます。

 特に人前で平気でキスをしようとするのはやめて欲しいです。

 愛情表現だとわかっていても、恥ずかしい事はどう頑張っても恥ずかしいですからね。

 茶化す人が沢山いますので。


 「ところで、いつのまにシアさんとラインハルトさんは仲良くなったのですか?」

 

 シアさんとラインハルトさんってあまり接点がないイメージがあったのですよね。

 ですが、ラインハルトさんは先ほどシアさんの事をシア殿と呼びました。

 確か前まではリンシア殿と呼んでいたと思いましたが、いつの間に愛称に変わっていたのです。

 あの呼び方はシアさんが親しい間柄と思った相手にしか許していないので、そう呼んだという事はラインハルトさんはシアさんと親しい関係といえると思います。


 「前々から話すようにはなっていたけど、シア殿と呼ぶようになったのはユアン殿達が魔族領に出発が決まった辺りかな」

 「割と最近なのですね」

 「そうだね……」

 

 むむむ?

 なんだかラインハルトさんの表情が曇った気がします。


 「どうかしたのですか?」

 「いや、何でもないよ」


 シアさんと何かあったのでしょうか?

 ラインハルトさんは誤魔化すように笑顔を作りました。

 まぁ、シアさんもラインハルトさんも僕に基本的には隠し事をしないので、隠すという事はきっと意味があるからだと思いますし、言及はしない方が良さそうですね。

 それに。


 「ラインハルトさん、やっと笑ってくれましたね」


 今はラインハルトさんとの時間を大事にしなければいけませんからね。

 作り笑いだとしても、折角笑ってくれましたし、少しでも緊張が解けたのなら、きっかけにするべきです。


 「そんなに仏頂面でもしてたかい?」

 「はい! こんな顔をしてました!」

 「ふふっ、流石にそんな顔はしてなかったと思うよ?」

 

 両人差し指で目じりを吊り上げるようにしてみせると、それを見てラインハルトさんが吹きだしました。

 いざやってみると恥ずかしいですね。

 ですが、偽りではなく本当に笑ってくれたのでやってみて良かったです。


 「ふぅ……ところで、そろそろ寝なくていいのかい?」

 「そろそろ寝ないとマズいですね」

 

 まだ日付が変わる前とはいえ、朝は早いですからね。

 僕が寝坊してしまったら交代でこっちに来る予定のサンドラちゃんの一日が短くなってしまいます。


 「なら、そろそろ寝ないとだよね……」

 「そうなりますね。なので、ラインハルトさん先に……」

 「あぁ……そうだったね」


 先にベッドに横になるように促すと、ラインハルトさんは思い出したように布団の中へと潜り込みました。

 どうやら僕たちの寝方もシアさんから教わっているみたいですね。


 「……どうぞ」

 「はい、失礼します」


 ラインハルトさんの横に僕は潜り込みました。

 そして、いつもの通り。

 いつもシアさんにして貰うように、僕はラインハルトさんの伸ばした腕の上に頭を乗せました。


 「こうで、いいのかな?」

 「僕は大丈夫ですが、ラインハルトさんは辛くないですか?」

 「今の所は、大丈夫、かな。ユアン殿こそ、大丈夫かい?」

 「問題ありませんよ。ちゃんとぷにぷにで柔らかいです」

 「それが良いのか悪いのかわからないけどね」

 

 顔は見えませんが、ラインハルトさんが苦笑い浮かべたのが何となくわかりました。

 

 「良い事だと思いますよ。僕は寝やすいですからね!」

 

 シアさんに負けず劣らずの良い枕をしていると思います。

 それに、シアさんもそうですが、ぷにぷになのはこういう何もない時だけなので、決して筋肉がない訳ではないので問題もないと思います。

 剣を振るう時などはカチカチな筋肉になるのは不思議ですけどね。

 

 「ユアン殿が喜んでくれるのなら良かったよ……でも、本当に良かったのかい?」

 「何がですか?」

 「私と一晩を共にする事がだよ」

 「此処まで来て言う事ではないと思いますけど」

 「そうだけど、どうしても不安でね」

 「何がですか?」

 「私がユアン殿に嫌われてないか、がだよ」

 

 嫌いだったらこんな風に一緒に居ないと思いますが、わかっていても不安になる事はありますよね。

 むしろ幸せだからこそ、それが全て嘘なのではないかと疑ってしまったのかもしれません。


 「もちろん嫌いじゃないですよ?」

 「それじゃ、好きかい?」

 「ふぇっ!? そ、それは……」


 まさかの返しに変な声が出てしまいました。

 もしかして、それを聞くためにわざと嫌われていないのか確認をしたのですかね?

 そうだとしたら、ラインハルトさんはなかなかの策士と言えるのではないでしょうか?


 「どうなんだい?」

 

 ラインハルトさんが僕の表情を確かめるように不安と期待の入り混じったような表情でジッと見つめてきます。

 

 「好きか、嫌いかでいえば、好きです」

 「そうなんだ。それじゃ、普通か好きかで言ったら?」


 うぅ……。

 ラインハルトさんが意地悪です。

 ラインハルトさんからしたら重要な事かもしれませんが、少しは僕の恥ずかしさも考えて貰いたいものです!

 まぁ、言われる側も相当恥ずかしいとは思いますけどね。

 実際に、ラインハルトさんも顔が真っ赤ですしね。


 「…………どっちかなら、好きです」


 言葉に出すのは恥ずかしいですが、それは本当の気持ちです。

 ですが、あくまでシアさんとは違う好きですからね?

 いわゆる友愛って奴だと思います。


 「どの辺が?」

 「そ、そこまで言わないといけないのですか?」

 「うん。教えてくれるかい?」


 いきなりそんな事を聞かれても困ります。

 だからといって、ここで答えない訳にはいきませんよね。

 

 「目が、凄く綺麗だと思います」

 「私の目が?」

 「はい。まるで、宝石みたいだなって……」

 

 ラインハルトさんの左右違う色の瞳はオッドアイというみたいですが、その特徴的な赤と青色の瞳は見る者を虜にします。


 「そっか。ユアン殿にはそう見えるんだね」

 「本当に、そう思ってくれるのかい?」

 「はい。本当ですよ?」

 「そうなんだ……それは、嬉しいな。今までそんな風に言ってくれる人は少なかったからね」

 

 それは意外ですね。

 

 「獣人や人族にはあまり馴染みはないだろうけど、私の目も魔眼の一種でさ、嫌がられる事が多いんだ」

 「そうなのですね」


 確かに、魔眼は魅了チャームを使ったりできたりと、目を合わせるだけで色んな事が出来るみたいですからね。

 セーラも魔眼持ちで僕に鑑定と魅了チャームを仕掛けてきた事がありましたね。

 その時に、鑑定は妨害できましたが、魅了チャームには影響受けましたね。

 まぁ、何故か魅了チャームの結果がシアさんに向いてしまいましたけどね。

 ですが、そう考えると魔眼が警戒されるのは納得ですね。


 「うん。だから、この瞳を好きと言ってくれるのは素直に嬉しいかな」

 「それなら、幾らでも言ってあげますよ。ラインハルトさんの瞳が綺麗なのは本当の事ですからね」

 「ありがとう」


 ラインハルトさんがやっと自然に笑ってくれた気がします。

 

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