補助魔法使い、お家へ戻る
「それじゃ、今度は僕の番ですね」
「うん。ゆっくりしてくるといい」
「そうさせて貰います。ですが、フタハちゃん達にバレそうな時は、遠慮なく声をかけてくださいね?」
「わかった」
「それじゃ、行ってきます!」
「いってらっしゃい」
シアさんとハグをし、お別れのキスを交わした僕は転移魔法でナナシキのお家へと戻る事にしました。
「おかえり~」
「ただいまです」
転移先の地下へと飛ぶと、リコさんが待っていてくれたようで、僕を出迎えてくれました。
どうやらシアさんを見送り、そのまま僕を待っていてくれたみたいですね。
「シアちゃんから聞いたけど、足止めをされてるみたいだね~」
「そうなんですよね。長引かないといいですけど、どうなるのかは……」
「そればかりは予想はつかない感じなんだよね?」
「そうなんですよ。困りますよね」
僕たちは今、かなり面倒な事に巻き込まれています。
もちろん、今回は僕が原因ではありませんよ?
なんと、街の先で国同士のにらみ合いが起きてしまったのです。
「戦争になりそうなのかな?」
「今の所は大丈夫そうなのですが、何かきっかけがあったら起きてもおかしくない状態みたいですね」
街の先といっても、街から馬車で一週間以上も離れている場所でにらみ合いが起きているので、争いに巻き込まれるといった事は今の所ありませんが、それが原因で先に進めなくなってしまいました。
「周り道ないのかい?」
「ない事もないですが、その場合だと一度引き返して別の道を進むか、森を突っ切るようにして進まないといけないみたいなので、どちらも面倒なのですよね」
「その森は魔物は出るのかい?」
「出るみたいですね。しかも僕の嫌いなのが沢山」
「それは無理だね~」
「無理ですね」
なので森は出来れば通りたくありませんし、一度戻って別の道を通ったとしても、その時になったら戦況が変化してその道が使えない可能性もあります。
「ま、どうせ何もできないのならゆっくりしてればいいと思うよ~」
「そうさせて貰います」
僕たちもリコさんと同じ結論に至って、こうして順番にお家へと戻る事を決めましたからね。
やはり、一番落ち着くのは自分のお家ですからね。
なので、今日は一日のんびりさせて貰おうと思ったのですが……。
「お久しぶりですね。寂しかったですよ」
「レンさん、居たのですね」
「勿論です。お友達のお家に遊びに来るのは当然ですので」
地下室から近況報告しながらリビングへと向かうと、当たり前のようにレンさんが座っていました。本人も当然と言っていますしね。そこは諦めるしかなさそうです。
まぁ、この光景もだいぶ慣れたので、驚きはしませんでしたけどね。
酷い時なんて五龍神様とレンさんが揃ってる時もありますからね。
それに比べればレンさんが一人居るくらいは何とも思わなくなりました。
なので、気にせずに一緒に朝食を頂く事にしたのですが、僕はレンさんのある変化に気が付きました。
「レンさん、少し肌が白くなりましたか?」
初めて出会った時は、褐色の女神様でしたが、今は日焼けした女神様くらいになっている気がします。
それに、前は嫌な感じがした雰囲気もかなり薄れたような気もします。
一緒に居る時間が増えて慣れただけでですかね?
「わかる? 肌の調子もいいような気がするんだよね」
「そこはわかりませんけど、やっぱり前よりもいい感じなのですね?」
どうやら少なくとも肌が少し白くなったのは気のせいではないみたいですね。
「そうかも。これも、女神を崇める信仰の力ですね」
「邪神ではなく、女神ですか?」
「えぇ。恐らく、邪神としての信仰心よりも女神としての信仰心が少しだけ上回ったのでしょう」
「そんな事でそんな変化するのですか?」
「えぇ。信仰心が神に及ぼす影響はそれほど大きいですから」
「信仰心って凄いのですね」
「当然です。国も民が居なければ成り立たないよね? 一人一人の力は小さくても、それが積み重なれば大きな力となるでしょ? 信仰心ってそれと同じなのですよ」
そう言われると納得かもしれません。
まぁ、その信仰心をどうやって把握して受け取るのかは謎ですけどね。
でも、これってもしかしたら良い傾向なのかもしれません。
「レンさん」
「何でしょうか?」
「もし、このまま女神としての信仰心が増えたらどうなるのですか?」
「私は私。何も変わりませんよ?」
「でも、見た目は少し変わりましたよね?」
「そうかもしれませんね。ですが、肌の調子が少し良くなった程度です」
「心境の変化とかは?」
「何のですか?」
「えっと……龍神様達を許せるようになったとかは思いませんか?」
「全然思ってないよ! まぁ、ちょっとくらいなら話してもいいかなとは思うけど……」
これは大発見かもしれません!
前から滅ぼす存在だとか、許してもいいかもなど、曖昧な返事はしていましたが、会話してもいいとまで言ったのは今回が初めてです。
つまりは話す余地があるという事ですからね!
「僕たちがやって来たことは、少なくとも間違いではなかったという事ですね……」
レンさんに、正しい記憶を見せろと言われ、それが何の事か全く見当がついていませんでしたが、もしかしたら女神としての信仰心が大きく影響している可能性が大きくなってきました。
それと同時に、邪神としての信仰心が大きくなったら逆の影響が出る可能性が高まるという事も。
「となると、この先の戦いはかなり重要になってきますね」
僕たちが滞在している街の先では、女神を信仰する国と邪神を信仰する国とで争いが起きそうになっています。
もしこの争いが拡大し、そのまま戦争へと発展し、その決着が着いた時、信仰心の傾きが一気に変わる可能性があります。
「そうなると、僕達も動かざるおえないのですかね?」
かといって、勝手に他国の戦争に参加する訳にもいきませんし……。
「ま、慌てても仕方ないんじゃないかな~? 今日はゆっくりするんでしょ~?」
「あっ、そうでした!」
忘れていましたが、今日はゆっくりするためにお家へと戻ったのでした。
それなのに、先の事ばかり考えてゆっくり出来なかったら本末転倒でしたね。
「そうですよ。今日は私と遊ぶ予定ですよね?」
「そんな予定はないですよ?」
「そんなぁ……つまんない」
レンさんがぶーぶー言っていますが、レンさんに付き合ったら休みが休みにならなくなります。
前に付き合った時は山に登ったと思ったら、次は海に連れて行かれ、気づいたら森を歩き、最後にはレンさんのお家に案内されていましたからね。
流石に塔の中までは入りませんでしたけどね。
とにかく、レンさんに付き合うと意味もなく色んな所につれていかれた挙句、何もしない一日を過ごす事になります。
見た事のない場所に行けるのは楽しいかもしれませんが、流石にそれはもっと余裕のある時にして欲しいので、今回は断らせて頂きました。
そもそも別の用事がありますしね。
「まぁまぁ。そういえばレンちゃん、今日お客さんが来るって言っていたけど、こっちにいていいのかい?」
「あっ……では、私はそろそろこの辺で……またお会いしましょう」
忘れてたみたいですね。
僕が別れを伝える前にレンさんの姿はそこから消えました。
「リコさん、助かりました」
「いいよいいよ~。実際、レンちゃんも用事あるって言ってたからね~」
「それでも、ああやって言葉にしてくれたお陰でスムーズに事が進みましたよ」
でなければあのままずっと居座っていた可能性がありますね。
ですが、レンさんにお客さんですか……。
ちょっと嫌な予感がしますね。
「それよりもユアンちゃんも支度しなくていいのかい? 今日は、あの日なんだよね?」
しかし、そんな予感も一瞬。
僕はそれどころではなくなりました。
「はい……そうですよ」
「なら、ちゃんとしないとね?」
リコさんがにやにやした笑いを僕に向けています。
「わかってますよ。シアさんとの約束でもありますからね」
「うんうん。ま、折角だし楽しんでおいでよ。ユアンちゃんも嫌ではないんでしょ~?」
「嫌ではありませんよ」
「ならシアちゃんとの約束ではなくて、ユアンちゃんの意志で付き合ってあげるべきじゃないかな~?」
「そのつもりですよ」
誰かに言われてなんて失礼ですからね。
今日の事は最終的には僕自身が決めた事ですし、誰かを理由にするつもりはありません。
「では、行ってきます」
「ほいさ。気をつけてね~」
という訳で、僕はリコさんに見送られリビングを後にしました。
そして、僕はそのまま外に……出ないで、別のお部屋へと向かい。
「えっと、来ましたけど居ますか?」
部屋をノックし、中からの返事を待ちました。
すると、まるで僕を待っていたかのように扉が直ぐに開くと中から。
「お待たせ……変、じゃないかな?」
おめかししたラインハルトさんが出てきたのでした。




