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弓月の刻、依頼を進める

 「シアさんそっち行きました!」

 「うん……ソウハ。そっち」

 「ごめん。フタハ。そっち行った」

 「任せて!」


 これぞパーティーって感じがしますね!

 

 「や、やりました!」

 「おめでとうございます!」

 「ありがとうございます!」


 僕たちの手に握られた武器……ではなく、網に入った獲物を見てフタハちゃんが嬉しそうにぴょんぴょんと跳ねています。

 そのせいで泥水が跳ねてきますが、既にみんな泥だらけなのであまり気になりません。


 「この調子でどんどん捕まえる」

 「次は私が捕まえる。リン姉。手伝って?」

 「任せる」


 嬉しそうにしているフタハちゃんを見て、ソウハちゃんもやる気が増したみたいで、シアさんにお手伝いをお願いしています。

 

 「フタハちゃん、捕まえたのはこちらで預かりますよ」

 「はい! お願いします」

 「いえ……私達はこれくらいしか出来ませんから……」

 「ホントごめん」

 「大丈夫ですよ。適材適所ですからね」

 「はい、それに元々は私とソウハの依頼ですので、気にしないでください」

 「ありがとうございます。何かあったら言ってくださいね」

 「出来る事なら手伝うよ。それに関わる事以外ならだけど」


 そう言って、スノーさんは嫌そうにフタハちゃんが捕まえたものを見ています。

 

 ゲオゲオゲオゲオッ!


 「ひっ! きもっ……」」


 フタハちゃんが捕まえたそれをキアラちゃんに渡そうとすると、フタハちゃんに掴まれたそれは抵抗するように暴れ、大きな音を鳴らしました。

 

 「スノーさん、そんなに怯えなくても魔物じゃないので安全ですよ」

 「安全かどうかが問題じゃなくて、見た目がやなの!」

 「ただの大きなカエルですよ?」

 「それがやなんだってば……」

 「スノーさんって苦手なもの多すぎると思うの。今回は私も強くは言えないけど……」」

 

 まぁ、誰にでも苦手なものはあるのは仕方ありませんからね。

 僕だって蜘蛛が出た時はみんなにお願いしますし、自分でも言っていましたが、キアラちゃんだって今回は待機組ですからね。

 というのも……。


 「ユアン、みてみてー」

 「あっ! これはまたでっかいのを仕留めましたね」

 「うん。木から垂れてきたから倒した」


 そう言ってシアさんが仕留めてきたのは全長三メートルくらいはあり、太さは僕の腕くらいはありそうな蛇でした。


 「し、シアさん! こっちに連れてこないでください!」

 「ご、ごめん。ユアン、これはユアンにお願いする」

 「わかりました」


 流石のシアさんもキアラちゃんの剣幕に押された様で、慌てて仕留めた蛇を僕に渡してきます。

 これが原因でスノーさんとキアラちゃんは待機組なのですよね。

 なので、僕とシアさん、フタハちゃんとソウハちゃんが協力し、依頼目的であるゲオングという蛙を捕まえ、それを食べるためによってくる蛇の討伐をしているのです。

 そして、サンドラちゃんはというと……。


 「なーなー! ユアンー! こっちも大量だぞー!」

 「うわっ、こんなにいっぱいとってきたのですね」

 「うんー。びちびちだなー!」


 網に大量に入った硬貨くらいある黒い物体を僕に見せつけてくれます。


 「ぎゃー! サンドラ、こっちに来ないで!」

 「なー? なんでだー?」

 「いいからっ! ほんと、無理、だからっ!」


 もはや悲鳴ですね。

 

 「可愛いのにー……」

 「仕方ありませんよ。ほら、それはあっちの川に逃がして来てください」

 「わかったぞー」

 「川に落ちないようにしてくださいねー」

 「大丈夫ー」


 バシャバシャと水しぶきをあげ、サンドラちゃんが網を肩に担ぎ走って行きます。


 「それにしても、本当に数が多いですね」

 「うん。特にオタマジャクシ。スノーじゃないけど、私もあまり好きじゃない」

 「確かにうじゃうじゃと足元で泳いでいるのは気持ち悪いですよね」


 足元を見ると、真っ黒い影が蠢いているのですが、その全てがオタマジャクシなんですよね。

 それが靴にゴツゴツと当たってくるのが伝わってくるのが余計に嫌な感じがします。


 「フタハちゃん達は平気なのですか?」

 「一応は問題ありません」

 「気持ち悪いけど、仕事だから我慢できる」

 「偉いですね」

 「スノーも見習ってほしい」

 「サンドラちゃんくらい逆に楽しめば楽なのですけどね」

 「ですが、お姉様方にも弱点があるのは意外でしたけどね」


 むしろ弱点だらけですよね。

 僕は蜘蛛とゴーストが駄目で、スノーさんは虫系全般……と色々。キアラちゃんは蛇。

 苦手がないのはシアさんとサンドラちゃんくらいじゃないでしょうか?

 

 「っと、これで十匹目ですね。こんなものですか?」

 「上出来だと思いますが、出来る事ならもう少し集めたい所です」

 「わかりました。ですが、一度休憩を挟みましょう」

 


 沼に入って一時間ほど、捕まえた蛙も少しずつ増えてきました。


 「ふぅ……疲れました」

 「お疲れ様です。やっぱり大変かな?」

 「そうですね。足元がとられますし、近づくと泥の中に隠れられちゃうので少し大変ですね」

 

 最初は蛙を捕まえるだけと聞いていたので、楽勝だと思っていましたが、思った以上に成果を挙げれなくて大苦戦を強いられることになりました。

 わかっていましたが、足元が不安定なだけで体力をかなり持っていかれるのですよね。


 「それならもう少し効率をあげれるようにしましょうか?」

 「効率をですか?」

 「はい。今日はお姉様方に手伝って頂いているので使っていませんでしたが、私達には…………この子達も居ますので」

 「きっと役に立つ」

 「「こあーん」」


 か、可愛いです。

 どうやらフタハちゃんもソウハちゃんも召喚魔法を使えるみたいで、二人の肩のうえには小さな狐が乗っかっていました。

 

 「珍しい子達ですね」

 「そうですか? 森のある場所であれば何処にでも生息していますよ?」

 「ルード帝国やアルティカ共和国では見た事ないので、魔族領に生息している魔物なのかもしれませんね」

 

 やはり地域ごとに生息している魔物は違うという事ですね。

 実際に、僕たちが捕まえている蛙もアルティカ共和国では見た事ありませんしね。


 「それで、その子達は何ができる?」

 「ゲオングくらいの蛙なら追い込む事が出来ますので、みんなの負担を少しくらいなら減らす事はできると思います」

 「それは有難いですが……溺れませんかね?」

 

 フタハちゃんの肩に乗るサイズからわかるように、二人が召喚した狐はとても小さく、あのサイズでは沼を移動するだけで一苦労だと思います。


 「問題ありませんよ。この子達は……ほら」

 「きゅいっ!」


 ふわりとソウハちゃんの肩から飛び降りた狐は水面のうえに沈む事なく浮かびました。


 「すごいですね! 普通に魔法を使ってますよ!」

 

 魔法を使える事自体は別に珍しくはありません。

 実際、僕たちが今まで出会った魔物の中には魔法を使って攻撃してくる魔物も存在しましたからね。

 ですが、僕が驚いたのは別の理由があります。


 「どうやって浮いているのでしょうか……やっぱり【飛翔】なのですかね?」


 良く見ると、召喚された狐は水の上に浮いているのではなく、水に触れずに浮いていたのです。

 鳥系の魔物が空を飛ぶのは当たり前なのですが、こうして翼を持たない魔物が浮いているのはかなり凄い事だと思います。

 それだけ繊細な魔力操作が必要になりますからね。


 「驚きましたか? 他にもこんな事が出来るのですよ?」


 僕が驚いたのが面白かったのか、フタハちゃんが狐に指示を与え、色んな事をさせています。

 

 「風魔法まで使えるのですね」

 「はい。後は簡単な炎位なら使ってくれます」

 「私の子は水が出せる」

 「水も出せて火も使えるのなら冒険に困りませんね」

 「そうですね。この子達のお陰でかなり助けられた場面はありますね」

 「頼れる相棒」


 かなり良好な関係を築けているようで、ソウハちゃんが狐の首元を撫でてあげると嬉しそうに鳴きました。

 こうなってくると、僕も一つの思いが込み上げてきます。

 

 「ユアン」

 「わかっていますよ。僕たちも、ですよね?」

 「うん」


 それはシアさんも同じみたいですね。


 「では、僕たちも紹介しましょうか」

 「うん。任せる!」


 フタハちゃん達が召喚獣を紹介してくれたのなら、僕たちも紹介しないと不公平ですよね?

 というのは建前ですね。

 フタハちゃん達に自慢気に紹介されたので、僕たちも大事な仲間を紹介したくなっちゃったのです。

 

 「みんなおいで」

 

 そしてその判断は思いもよらぬ結果を迎える事になるとは、この時は予想だにしなかったのでした。

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