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弓月の刻、双子と共に依頼を受ける

 「歩きにくいですね」

 「うん。油断したら転びそうだから、ユアンとサンドラは気をつける」

 「僕は大丈夫ですよ」

 「なー! 私も大丈夫だぞー!」

 

 時刻は深夜。

 フタハちゃん達と共に依頼を受けた僕たちは一時的にパーティーを組み、目的地へと向かっています。


 「でもまぁ……本当に歩きづらいね」

 「本当にこんな所に居るのかな? 条件としては当て嵌まっているとは思いますけど……」

 

 バシャバシャと水音を鳴らしながらスノーさん達がぼやいていますが、その気持ちはよくわかります。


 「お姉様方は湿原は初めてなのですか?」

 「似たような場所はありましたが、ここまでの場所は初めてですね」

 「意外。ユン姉達の事だから湿地帯くらいは経験していると思った」

 「砂漠なら経験しましたけどね」


 それにしても珍しい場所ですよね。

 僕達の歩いている場所は足首あたりまである水がずっと続いている場所で、まるで大きな水溜まりが広がっているような感じです。

 しかも、それだけではなく、水溜まりにの中に膝位までの草が永遠と続いているので余計に質が悪いのです。

 そのせいで、サンドラちゃんが何度転びそうになった事か……。

 僕ですか?

 僕は今の所は大丈夫です。

 さっきも言いましたが、前に似たような場所に行った事があり、その時の経験が活きていますからね!

 その時は盛大に転んで泥まみれになりましたけど。


 「そういえばさ、二人の尻尾ってどうなってるの?」

 「さ、触らせませんよ!」

 「うん。流石にスノ姉でもそれは駄目」

 「触らないし!」


 すっかりスノーさんを警戒するようになってしまいましたね。

 ですが、僕も二人の尻尾の事はずっと気になっていました。


 「尻尾が二本の理由ですか? それは私達が妖狐族だからですよ」

 「妖狐族だと尻尾が二本なのですか?」

 「違う。尻尾の本数は成長の証。私達はまだ二本だけど、これから増えていく」

 「尻尾が増えるのですか!? それはそれで大変そうですね」

 「そんな事ありませんよ……こうする事も出来ますので」


 そう言ってフタハちゃんが尻尾を振ると、不思議な事に尻尾が一つになりました。


 「へぇ……そんな事も出来るのですね」

 「はい。なので、妖狐族を見て尻尾が一本だからといって侮ってはいけませんよ」

 「もしかしたら実力を隠している可能性があるという事ですか?」

 「そういう事になる」

 

 尻尾が成長の証というのは面白いですね。

 しかも、尻尾が増えるといい事もあるみたいですね。


 「その尻尾は魔力の器みたいなものなのですね」

 「尻尾に魔力を溜めておけるって不思議だね」

 「私達からすると、体内にある魔力の器だけで私達よりも魔力が多いお姉様方の方が不思議ですけどね」

 「それは僕も思います。魔力の器ってどうなっているのでしょうね」

 

 実は、この魔力の器というのは未だに良くわかっていないらしいです。

 人の体には心臓や胃など様々な臓器と呼ばれるものがあるのですが、何処を探しても魔力の器という臓器はないみたいなのです。

 ですが、左胸の辺りには心臓があるのがわかるように、魔力の器もここにあるって感覚でわかるのですよね。

 実際にはないんですけどね。


 「それで、二人の尻尾はずっと二本のままなの? 成長によるって言ってたと思うけど」

 「そ、それを聞いて何をするつもりですか?」

 「どうもしないよ? ただ、二本で終わりじゃないのなら何処まで増えるのか気になっただけだよ。決して増えた尻尾でモフモフパラダイスをしようとか思ってないからね」

 「欲望が駄々洩れになってますね……」


 でも、それは僕も気になりますね。

 尻尾一本につき、どれだけの魔力が保管できるのかわかりませんが、今の二人でもシアさんと同等くらいの魔力はありそうです。

 

 「このまま順調に成長できれば、五本か六本くらいにはなると思います」

 「それって凄いのですか?」

 「普通の妖狐族が三本か四本くらい。だから私達は普通よりも優秀」

 

 どの程度成長できるのかは生まれ持ってある程度わかるみたいですね。

 

 「それでもお姉様には届きませんけどね」

 「うん。ユン姉は異常なの」

 「魔力の量に関しては割と自信ありますからね」


 といっても、伸びたのはここ一年の話ですけどね。

 孤児院を出発した頃は今のフタハちゃん達よりも少し多い程度しかなかったと思います。


 「それでも、私達の王にはきっと届かない」

 「私達のって事は、妖狐族の王様ですか?」

 「はい。何せ今の王は玉藻の名を冠した九つの尾を持っておられるとの事ですから」


 玉藻というのはずっと昔に存在した伝説の妖狐族のようで、狐族でいう黒天狐や白天狐と同じような特別な意味を持つみたいです。

 

 「えっ、ユアンって黒天狐って種族じゃなかったの?」

 「違いますよ。僕はあくまで狐族で、その中で特別な……黒天狐なのです」


 自分で特別というと恥ずかしいですが、つまりはそういう事です。

 それに、これはまだ二人には内緒ですからね。

 その為にわざわざ髪の色まで変えているのですから。


 「でも、ユアンが負けるとは思えない」

 「リン姉。流石にそれはない」

 「どうしてそう思う?」

 「王は凄いから」

 「そう。それじゃ、その王は古龍エンシェントドラゴンに勝てる?」

 「それは無理。それに勝てるのは化物しかいない」

 「ならユアンの方が上」

 「それって……もしかして、ユン、姉?」

 「し、シアさんの冗談に決まってるじゃないですか! 僕が古龍に勝てるわけないですし、そもそも古龍と戦う機会なんてありませんよ!」

 「確かに。リン姉の冗談にはびっくりする」

 

 どうにか誤魔化せましたかね?

 冗談でもそんな話が広がったら大変ですからね。

 まぁ、冗談ではなくて、実際にサンドラちゃんには勝っているので事実なのですけどね。

 それにしても、シアさんが僕の事を自慢したいのはわかりますが、流石に言っていい事と悪い事がありますよね。

 なので後でお説教が必要ですね。

 

 「っ! そ、それで、目的地はまだ?」


 僕がジッと見つめたからか、シアさんは慌てて話題を逸らしました。

 ついでに僕からも視線も逸らしました。

 ですが、そんな事をしても無駄ですからね?

 今は忘れてあげますけどね。

 どうやら目的地は近いみたいなので。


 「そろそろです。ほら、聞こえてきましたよ」

 「どこ? 私には聞こえないけど」

 「もう少し進めばスノーさんでもわかると思うの」

 「そうですね。あまり遠くないみたいですし」

 

 こればかりは仕方ないですね。

 この中で人族はスノーさんだけで、他はみんな獣人だったり魔族であったりと、人族に比べると良い耳を持っていますからね。

 ですが、もう少し進むとスノーさんにもようやくその声が聞こえ始めたみたいです。


 「では、この辺を拠点にして、準備を進めましょうか」

 「姉さん達は初めてだからやり方も説明しておく。ちゃんと聞いておく事」

 「わかりました」


 色々と話していたせいで、目的を忘れそうになりましたが、僕たちは依頼の為にここまで来ていたのでしたね。

 

 「まずはこれを……」


 僕たちはフタハちゃん達に改めて依頼の内容を確かめ、その依頼を遂行する為に説明を受けました。

 そして、僕たちにフタハちゃんがある物を渡してきます。


 「では、張り切っていきましょう!」

 

 それを手に僕たちは声の主達に向かいます。

 こうして僕たちの合同依頼は始まるのでした。

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