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それぞれの思惑

 

 side:ユアン




 その夜、とある事件が起きました。


 僕たちは宿屋に戻り、疲れからかすぐに眠ってしまったのです。

そんなときに、事件は起きたのです。


 カーンッ カーンッ


 「ふぁ!? な、なんですか?」

 「外、燃えてる」


 鐘の鳴る音で目覚めた僕が窓から外を見ると、真夜中にも拘わらず、夜空を紅く照らしているのがわかりました。


 「あの方向は……」

 「領主の館がある方ですね」


 キアラちゃんが怯えるように、僕の裾を掴みます。


 遠くから避難を指示する声、火を消そうとしている人が指示を出す声、逃げる人たちの悲鳴が聞こえてきます。


 「消火を手伝いにいきますか?」

 「やめておいた方がいい。場合によっては疑われ、混乱が大きくなる」

 

 そうでした。

 僕たちはこれから犯罪者のレッテルを張られる事になるのです。ここで僕たちが行った所で昼間の件と合わせて余計に騒ぎになる可能性が高いですからね。


 「見守るしかないのですね……」

 「仕方ない」


 目の前で困っている人がいるのに、手助け出来ない。

 それが悔しいですね。

 この日、僕たちは眠れぬ夜を過ごす事になるのでした。



 


 別の場所で、同じ光景を見ている者が此処にもいた。


 「流石はお兄様、ですね」

 「あぁ、ここまで手が早いのは予想外だな」

 「エレン姉さま、証拠の方は?」

 「残念だが、昼間に押さえた物だけだ」

 「そうですか……」

 「心配する必要はない。昼間の証拠だけでも十分に対抗できる手段になる。だから、そんな顔をするな。エメリアは十分よくやった」

 「はい、姉さま。今日は一緒にいてくれますか?」

 「もちろんだ。明日からまた忙しくなる。今日くらいは一緒いよう」

 「はい……」

 「大丈夫、何があっても私はエメリアの味方だからな」

 「はい、姉さま」


 夜は更けていく。

 それぞれの思いを馳せながら。



 

 side:オルスティア皇子


 「オルスティア殿下、予定通り進んでおります」

 「わかった」


 部下の報告を受け、宰相から渡された報告に目を落とす。

 報告書にはタンザで起きた事件の事が纏められている。


 「相変わらず、上手く纏められているね」

 「光栄です。しかし、良かったのですか?」

 「何がだい?」

 「タンザは陛下の弟君が治めていた地、オルスティア殿下にとっても大事な場所では?」

 

 確かに、収入源としては大事だった。

 しかし、今となっては過去形でしかない。


 「叔父上は良くやってくれたよ。しかし、ダメな事はダメだろう?」

 「その通りでございます」

 「それに、僕たちがこれから動くのに資金は既に潤った。手に入れてしまった物は仕方ないけど、やっぱり手を汚した資金に手を出したくはないよね」

 「殿下の仰る通りです」


 叔父上の悪事は僕の耳にも届いている。

 だから、例え身内だとしても膿は絞り出さなければならないよね?


 「ちなみに父上はなんと?」

 「何にも。静観しているようです」

 「そうか」


 なら、僕のやった事に間違いない。

 

 「叔父上の元にあった証拠は?」

 「全ては灰に」


 あぁ、残念だね。

 あれが残っていたのならば、もっと有意義な情報を得られただろうに、出来の良い妹たちに是非とも渡してあげたかったな。僕らに対抗するために頑張っているみたいだからね。


 「で、軍の方は?」

 「まだ予定よりも少ないかと」

 「仕方ないね。戦に確実に勝つには数が必要だから」

 「申し訳ございません」

 「宰相を責めている訳じゃない。いつまでに終わる?」

 「殿下の希望に添えるなら早くとも半年……1年頂ければ確実に」

 「任せたよ」

 「仰せのままに」


 宰相が部屋から出ていく。


 「あぁ……もうすぐだ」


 きっと、もうすぐ人が沢山死ぬ。

 ヘタすれば万をも超える屍が築き上げられる。

 だけど、これは必要な事だ。誰かがやらなければならないから。そうやって国は守られていく。

 報告書に、再び目を落とす。


 「妹が頑張っているみたいだから、僕も頑張らないとね」


 僕は報告書をみて、一人静かに笑みを零したのだった。

 


 

 side:ユアン


 


 「残念だけど、領主は死んだよ。それと同時に証拠もね」

 「そうですか」


 スノーさんがお昼を過ぎる頃、僕たちの部屋を訪れ昨日の夜の出来事を教えてくれました。

 スノーさんの話によると、夜のうちに誰かが領主の館に忍び込み、火をつけて回ったらしいです。


 「強硬派の仕業だとエメリア様は考えている」

 「それしかなさそうですね」


 トカゲのしっぽ切りってやつですね。

 領主の館にはまだまだ証拠となる物が沢山あったはずです。

 ですが、それを押さえられたくない者……恐らく強硬派が証拠隠滅を図ったと考えているようです。


 「防げなかった?」

 「予期はしてたけど、あまりにも早すぎたのとそれに割ける人材がいなかったからね」


 幸いにも燃えたのは領主の館のみで周りには大きな被害はなかったようです。

 しかし、燃えた館跡から丸焦げになった死体が一つ見つかったようですけどね。まるまると太った死体が。


 「暫くはタンザは荒れそうですね」

 「そうね、次の領主が就任するまでは、管理者がいなくなるからね」

 

 法自体はルード領の法が適用されますが、僕たちを裁く人がいないように、悪さをしても裁く人がいない状態です。

 これから騎士や自警団が忙しくなりそうです。

 

 「まぁ、ギルドに治安維持の依頼を発注してあるから街が機能しなくなることはなさそうだけどね」

 「ギルドですか……」

 

 領主とギルドは繋がっていましたからね、上手く機能するのでしょうか?


 「大丈夫よ、昨日押さえた証拠の中にばっちりギルドマスターとの関係が記載されていたからね。今は、副ギルドマスターが動いている筈よ」


 それも宛にならないですけどね。どこまで染まっていたのかわかりませんから。

 少なくとも、治安の依頼はボードにすぐに張られたようなので少しはまともだと思いますけど。


 「レジスタンスは?」

 「無事にこの街から脱出したみたいよ。一部の人たちは残っているみたいだけどね」


 レジスタンスの人たちは無罪となるようですね。証拠がないという事で。

 目的を果たし、レジスタンスは解散、それぞれ冒険者稼業に戻るみたいですね。

 そして、攫われた人達は暫く休養させた後にそれぞれの街や村に戻れる事にもなったようです。


 「これにて一件落着ですかね?」

 「表面上はね。けど、私達はこれからだけどね」


 そうなんですよね。強硬派と和平派の争いは水面下で行われています。

 今回の件でどちらの派閥も忙しくなるとスノーさんは言います。

 僕たちは皇女様の依頼をこなすだけなので関係ありますが、そちらの戦いは皇女様達が頑張ると思います。


 「それと、領主と繋がっていた組織も潰されたようね」

 「それも強硬派ですか?」

 「違うみたい。私も驚いたんだけど、潰したのは……」

 「私とイルお姉ちゃんだよ!」

 「わっ!」


 扉が勢いよく開かれるとルリちゃんが立っていました。


 「ダメよルリ。ノックは最低限の礼儀だからね」

 「そうだね、今度から気を付けるよ!」


 ルリちゃんの後ろにはイルミナさんも居ました。


 「二人ともどうしたのですか?」

 「どうしたのってユアンちゃん達が大変な事になってるって聞いたから来ただけよ、迷惑だったかしら?」

 「そんな事ないですよ。それより、スノーさんから聞きましたが、領主と繋がっていた組織を潰したってのは……」

 「本当よ」


 本当みたいです。


 「らくしょーだったよ!」

 「えっと、危険じゃなかったのですか?」


 冒険者たちを捕えたりするくらいの実力者もいる組織のようでしたからね。


 「だってー、私達は影狼族だもん、それくらい余裕だよ!」

 「でも、戦闘は苦手なんですよね?」


 シアさんと違い、イルミナさんは魔法道具マジックアイテム店や宿屋、ルリちゃんは情報屋をやっているくらいですからね。


 「あら、苦手なんて一言も言っていないわよ?」

 「え?」

 「ユアンちゃんに、影狼族は戦闘民族って聞かれたから否定しただけだからね」


 悪戯っぽくイルミナさんは笑います。


 「けど、ルリちゃんは危なくなったら逃げるって……」

 「うん、逃げたよ! それで追ってきたからその先の罠でちょちょいとね!」

 「そ、そうなんですね」

 「影狼族の根底は戦闘。その中で自分にあった生き方と功績を探すのが基本」


 なら、教えて欲しかったです!


 「という訳で、焦っていた組織が大胆になったところを一網打尽にした感じね」

 「ユアンお姉ちゃん酷いんだよ! イルお姉ちゃんに情報を売ろうと思ったら、自分で情報手に入れてるんだもん。ルリの役割とられたの!」

 

 しかも別行動でそれぞれボッコボコにしたみたいですね。


 「イルミナさんもルリちゃんも強いのですね」

 「といっても、今回私は何もしてないけどね。ララたちが頑張ってくれたからね」

 「ララさん達が?」

 「イルお姉ちゃんの従業員はみんな元冒険者なんだ!イルお姉ちゃんが手籠めにして雇ったんだよ!」


 手籠!?


 「ルリ言い方に気をつけなさい。ちゃんと同意の上で愛した結果よ」

 「えっと、イルミナさんの従業員って女性ですよね?」

 「そうよ?みんな優秀で可愛い子ばかりね」


 あー……。この件は深く触れない方が良さそうですね。

 そう心に誓ったの束の間、ルリちゃんがとんでもない事を言い始めました。


 「ユアンちゃんお姉ちゃんも興味あるの?」

 「ふぇ?ないですよ!」

 「えー。興味があるならルリが教えてあげたのになー……いたっ! シアお姉ちゃん何するの!?」

 「ユアンに変な事を教えるな」

 「えー……。でも、そっちの方がシアお姉ちゃんも助かりますよね?」

 「私達は私達のあり方がある」


 シアさんの言う通りですね。

 イルミナさんとララさん達の関係には驚きましたが、僕たちが真似する必要はありませんからね。

 僕たちは一緒に旅するパーティーですから、それで仲良くやれればいいですからね。


 「スノーさんも同じ意見?」

 「私は見ているだけでいいからね」


 スノーさんもこれからアルティカ共和国に着くまでの間は少なくともパーティーですけどね。


 「キアラちゃんはー?」

 「わ、わたしはー……」


 キアラちゃんは困った様子でした。

 ルリちゃんにはこれからの事を話していないのでわかりませんよね。


 「キアラちゃんはまだこれからどうするか悩んでいる最中ですよ」

 「そうなの?」

 「はい……」

 「ふぅ~ん?」

 

 キアラちゃんをルリちゃんが不思議そうに見ていますが、考え方は人によって違いますからね。

 生き方は自分で決めるべきです。


 「ところで、二人とも今日はどうしたのですか?」

 「問題も解決したし、ユアンちゃん達も暇そうだから来てあげたのよ」

 「飲め呑め食え喰え、だね!」


 どうやら、宴会しに来ただけのようでした。

 

 「昼間から迷惑」

 「そんな事言わないでちょうだい。シアとも暫く会えなくなるんだしね」

 「そうだよ、こうやって姉妹揃って会える事は当分ないんだからね!」


 押し切られる形で宴会が始まってしまいました。

 イルミナさんの宿屋ですし、騒いでも問題なし、料理も従業員の方が運んでくれますし、お酒も出ました。

 といってもお酒を飲んだのはイルミナさんとスノーさんだけですけどね。

 僕たちにはまだ早いですからね。

 途中から、ララさんや従業員の方も混ざったりしましたが、お店や宿屋は大丈夫なのでしょうか?

 宴会は日が暮れる頃まで続くことになりましたが、シアさんの昔話などもイルミナさんやルリちゃんから聞けて僕としても楽しかったです。

 シアさんはちょっと不機嫌そうでしたけどね。

これにてタンザの街編は終わりです。

次回から新しく章が進みます。

ぐだぐだになった感が否めませんが、ここまでお読みいただきありがとうございます。


今度ともよろしくお願いします。

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