領主の館、攻防戦
今回で終わる予定が終わりませんでした。
side:カバイ
「準備はいいか?」
「いつでも行けますぜ、カバイさん」
出来る事はやった。俺たちはこの日の為に力を蓄えてきた。
レジスタンスのメンバーを集められるだけ集め、アジトには30人を超える人数が集まっている。
だが、これだけの人数を集めたとしても、相手は騎士団、しかも領主の館を守っている近衛達ばかり、厳しい戦いが予想される。
この中の何人が生きてこの街から出る事ができるかも予想すらできない。
しかし、それでも集まった奴らの顔に悲壮は浮かんでいない。
集まったら奴らは、領主によって家族、恋人、仲間を失った奴らばかりで、その敵が討てるのならばという思いが強い奴らばかり。
「さぁ、いくぞ」
このメンバーにリーダーはいない。
一つの目標に向かって突き進むのであれば、リーダーなどいなくともやっていけるからだ。
といっても、要所要所では人をまとめ上げるのにはトップに立つ者も必要なのは確かだ。
それは、戦闘であったり情報であったり裏方であったり、各部門で頼りにされている奴はいる。
リーダーではないがそれに似た役割を担う人材がその場で指揮する形だ。
俺は最近まで盗賊に紛れ、情報を集めていた事がある。そのお陰で仲間からの信頼はそこそこに厚い。
今日、領主の館に乗り込む事になったのも俺が情報をスノーから受け取ったのが始まりだ。
あいつの素性は割れている。故に信頼できると判断した。
「俺たちの目的は時間稼ぎだ」
予定では俺たちが地上で騒動を起こし、その間にスノーと仲間の冒険者達が地下から侵入する手配となっている。
俺たちが粘れば粘るほど、救出の時間を稼ぐ事が可能となる。
「しかし、上手くいきますかね」
「やるしかない」
沢山の人数が移動しているのは目立つ。だから、俺たちは領主の館まで走りで移動している。向こうが迎撃準備をする時間を少しでも減らす為だ。
集まった場所から領主の館までは近い。目と鼻の先だ。
「止まれ!」
「それどころじゃ……ねぇーんだよ!」
領主の館に近づくと、巡回中の騎士と出くわしたが、この数を2人だけでは止める事は出来ない。
仲間の一人が騎士を切り捨て、進行速度を落とさずにひたすら進む。
「これで、俺たちも立派な反逆者ですね」
「あぁ、後は進むしか道はない!」
騎士に手を出すとはそういう事。
そして、領主の館に攻め込むというのは反逆罪になる。これで、俺たちは犯罪者としてのレッテルを張られる事になるのだ。
「このままいくぞ!」
領主の館が見えた。
「止まれ!」
声の主は騎士ではなく、仲間からだった。
「これは……」
目を疑った……疑いたかった。
俺たちが近づくと、領主の館の門から次々と兵士が飛び出してきたのだ。
「カバイさん」
「あぁ……こちらの動きは読まれていたらしい」
勢いそのまま突っ込むのも一つの手だったが、俺たちは騎士の登場に足を止めてしまった。
「武器を捨てろ、お前たちはすでに包囲されている」
その言葉どおり、近くの民家や路地裏から騎士たちが続々と姿を表し始めた。
「くそっ」
仲間の一人が悔しそうに拳を握りしめた。
「全員……戦闘態勢!暴れるぞ!」
しかし、諦めた者は一人もいない。
「おぉぉ!」
「単独で戦うな、必ず最低二人一組で相手と当たれ、囲まれる前に輪に戻るんだ!」
倍以上の人数に包囲されている。単独で戦えば各個撃破されるのが目に見えている。
幸いにも騎士団を見た所、魔法使いや弓兵はいない。俺たちの塊を叩くには接近するしかない。
「さぁ、解放者の役目をここで果たすぞ!」
俺たちの目的は時間稼ぎ、最早絶望とも呼べる状況だが、後悔はない。
……もう一度、娘のナグサを一目見たかったけどな。
俺たちの戦いが今、幕を開けた。
side:ラディ
僕は地下通路で仲間たちと静かに暮らしていた。
それがある日、僕の体と視界が光に包まれると、いつの間にか少女の前へと移動していた。
僕の頭に知識が流れ込む。
僕が何をしなければいけないか、その瞬間にわかった。
僕は、目の前の少女を助け、共に生きていく。理由はそれだけで十分。
「ヂュッ!」
僕は僕の主を守る為に走り出した。
「ヂュッヂュッ!」
「チュ!」
不思議な事に僕には沢山の部下が出来た。仲間ではなく部下。
元々の仲間だけではなく、地下通路にいる他の魔鼠全てが僕の言う事を聞く。
これは都合がいい。
部下たちに僕は指示をだす。
女の子を助けてくれそうな人を探せ。
部下たちは散っていった。そして、すぐに報告が入る。3人組の主と同じくらいの年の女の子が地下通路にいるらしい。
僕は迷わずに会いに行った。僕は魔物という自覚はあるけど、迷わなかった。
結論だけ言うと、女の子達は主を助けてくれた。
途中、嬉しくて調子に乗って狼の獣人に睨まれたけどどうにかなった。
助かった主は僕にラディという名前をくれた。すごく嬉しかった。
主の役に立ちたい僕は、少しでも役に立つために情報を集める事にした。
主たちは領主の館の中の事を知りたかったみたい。だから、部下たちに侵入させる。
「ボクニマカセテ」
情報は簡単に集まった。部下たちは戦闘能力は低い。僕も低い。だけど、数は多い。
連絡がとれなくなる部下もいたけど、主たちが必要な情報は沢山集まった。
「ラディ、ありがとう」
主は優しく僕を撫でてくれる。それだけで頑張れる。
だから、もっと役に立ちたい。
「ヂューーー!」
僕は出来る限りの部下を集めた。
名前を貰い、主との繋がりが深くなり、頭も良くなった。知識も増えた。
だから、魔鼠たちを強くしようと思った。
そうすればもっと役に立てると思ったから。
戦闘能力は大して上がらなかったけど、魔鼠たちは強くなった。僕も少しだけ強くなった。
だから、僕たちも戦う。
主たちは今、地下にいる。
上で戦う人たちを陽動に頑張っている。だから、僕も手伝う。
「ウエノタタカイニカセイシロ」
「「「ヂューーー!」」」
人間が知らない、地上へと続く道は沢山ある。僕たちだけが通れる道も沢山ある。
100を超える部下たちが動き出した。
それが主たちの役にたつ方法だから。
side:ユアン
「お前らどこから入ってー……」
僕たちが地下から飛び出すと、すぐに気づかれてしまいました。
しかし、先手は僕たちです。
館の中にいる騎士たちは武装はしていますが、完全に外の事ばかりに気が向いていたようで、戦闘準備までは出来ていなかったようです。
「付与魔法【爆】 キアラちゃん、入口の騎士たちをお願いします!」
「はい!」
弓に付与魔法をかけます。水と火を組み合わさった結果生まれるのは爆発です。
加減を間違えると大惨事になる事がわかっているので、そこそこに抑える事が大事です。
キアラちゃんによって放たれた一本の矢は扉に刺さると、扉を守るように待機していた騎士もろとも吹き飛ばしました。
「なっ……!」
幸いにも離れていた騎士たちはその光景に唖然としています。
「よそ見する暇はないよ」
その隙を見逃すスノーさんではありません。距離を詰め、剣を一閃、騎士が地に倒れました。
それから遅れる事数秒、周りの騎士たちも同様に倒れます。
解放者の4人も同様に動き、騎士たちを倒したようです。
「ずるい」
「シアさんは僕の護衛ですよ」
「うん」
シアさんは戦いに参加せずに僕の傍にいました。シアさんだけが戦いに参加していないのでうずうずしているようです。
「何事だ!」
騒ぎを聞きつけた騎士が奥から現れました。
「一度、外にでてレジスタンスと合流しましょう!」
奥とは館の奥なので入口とは逆の方向からです。なので、僕たちはレジスタンスと合流する為に一度外に出る事に決めました。
「逃がすか!」
「逃げるつもりない」
ついでとばかりにシアさんが現れた騎士を切り捨てます。
「シアさん!」
「大丈夫、先にいく」
「すぐに来てくださいね」
スノーさん達は既に移動を始めているので、僕もそれに続きます。
シアさんを残し、僕らは外に出ると、予想外の光景が広がっていました。
「うわぁぁぁぁぁ!」
「まずは、魔鼠をどうにか……ぎゃっ!」
「気を付けろ、毒と麻痺をもってるぞ!」
数多くの魔鼠が騎士の足元にたかっていました。
既に倒れた騎士も少なくなく、横たわりながら痙攣するようにピクピクしていたり、真っ白い顔色で横たわる騎士の姿ばかりです。
その状況に、騎士に囲まれた集団は困惑しています。
「えっと……ラディくんの仕業ですか?」
「ラディ?」
「部下ニ、オウエン頼ンダ」
あ、少し流暢に話せるようになってます!
と、問題はそこではなくて。
「こう見る限り、被害は少なそうね」
倒れた騎士もまだ意識はあるようですし、レジスタンスも傷を負っている人は多いですが、それなりの数が残っています。
残念ながら、事切れている人もいるようですけどね。
「どうしようっか?」
「とりあえず、館前を制圧しましょう!」
混乱に陥っている騎士たちを背後から攻めます。
「少しの間、寝ていなさい!」
「ぐはっ!」
スノーさんが背後から騎士を切りつけます。騎士は数メートル吹き飛び、そのまま倒れこみます。血が出ていないところをみると、峰打ちってやつですね。
「みんな、応援にきたよ!」
「トーリ、サニャ! 無事だったか!」
「えぇ、でも話は後で制圧するぞ」
レジスタンスも動き出しました。
魔鼠達の襲撃、僕たちの背後からの強襲、レジスタンスの反撃。
騎士たちは圧倒的に有利だと思っていた筈です。しかし、今は違います。
「か、固まれ!各個撃破は避けろ!」
騎士たちが一か所に集まり、どうにか迎撃態勢整えようとします。
しかし、それは失敗ですよ?
何せ、騎士たちと違って僕たちには魔法使いも混ざっていますからね。
「固まっていると危ないですよ……スタンスパーク!」
雷の連鎖が始まります。
オークの戦いの時に使った魔法です。殺傷能力はありませんが、相手を気絶させるための魔法で、密度が高ければ高いほど効果は上がります。
「おぼぼぼぼぼ!」
雷が連鎖し、騎士たちが徐々に倒れていきます。ですが、少しずつ効果は下がるので全てを気絶させることは出来ません。
ですが、全員とはいきませんが、確実に動きが鈍っていきます。
そこにレジスタンスが突撃を開始します。
「く、くるなぁ!」
焦った騎士たちが叫びますが、勢いは止まりません。
騎士とレジスタンスがぶつかりました。そのまま敵味方入り交じった戦いが始まります。
勝敗は力ではなく、心の折れた方が負けます。
既に、圧倒的な優位な状態から完全に追い込まれた騎士たちに反撃する余裕はなく、次々に打ち取られていきます。
「まずいですね」
その光景は蹂躙でした。
血走ったレジスタンスが戦意喪失した騎士たちを襲っているのです。これでは、無駄に死者ばかり増えていきます。
この場所での戦いは既に終わりを迎えているのです。
「そこまでですよ! 頭を冷やしてください……回復の水球」
僕がオリオとナターシャにポーションと呼ばれるきっかけにもなった魔法です。
騎士たちとレジスタンスに幾つも水球を飛ばし、直撃させます。
「冷たっ!」
キンキンに冷やした水球が降り注ぎ、突然の出来事に、レジスタンスの人たちが動きを止めました。
「き、傷が治ってる?」
回復の効果もあります。重症の傷を治す事はできませんが、傷を塞ぎ、血が流れる事を抑えるくらいはできます。
完全に治して、騎士たちがまた反撃にでても困りますからね。
「抵抗はやめなさい。武器を捨てるなら命は保証します」
スノーさんが騎士たちに投降を促します。
騎士たちは闘う事が仕事です。しかし、一人の騎士が武器を捨てると、それに合わせるように次々と武器を地に放ります。
どうやら、諦めてくれたようです。
「カバイさん、地下の件は無事終わりました。なので、騎士たちを捕縛後、ここから脱出を」
「だが、まだ領主が……」
「あとは私達にお任せください……すぐに応援がきます」
誰とは言いませんが、それで伝わったようです。カバイさんは頷き、レジスタンスに指示を出しました。
「……わかった。全員、予定通り各地に散るぞ!」
動けない人には回復魔法をかけ、騎士たちを捕縛していきます。
死者は予想よりも少ないですが、両方に出ています。
しかし、どうにか制圧はできたようです。
「おやおやこれは……」
と思った矢先でした。
屋敷にはまだ騎士たちが残っていたようで、数は多くありませんが、長身のひと際目立つ甲冑を着た男が騎士を引き連れて現れました。
どうやら、まだ終わりではないようです。
サブタイトルは複数視点が混ざったためいつもと違います。
後日読み返したり、編集するときにわかりやすくするための処置です。
いつもお読みいただきありがとうございます。
評価、感想などいただけると嬉しいです!
今後ともよろしくお願いします。
戦闘描写うまくなりたい。




