補助魔法使い、魔法機械を動かす
「いよいよですね!」
「うん」
「上手くいくといいけど」
僕たちは水路の合流地点へと戻ってきました。
「大丈夫ですよ、練習しましたので」
いきなり本番で試す訳にもいかないので、失敗しても回収できる場所で練習をしました。
操作は魔力があれば誰でも動かす事ができるようです。ですが、操作はイメージ力が大事なので、一番上手く動かす事が出来たのは僕でした。次にシアさんでスノーさんの順番になります。魔法は
イメージ力が魔法の威力や効果に直結しますので、普段から補助魔法で頑張っているお陰ですね!
ちなみに、スノーさんの場合は動かしたというよりも沈めたって感じですけどね。
魔力は少しだけあるみたいですけど、魔法は苦手なようです。
「それじゃ、早速動かしますね」
魚型の魔法機械……水中探査機を水路の中に浮かべます。
「ここから潜って中を覗いていきましょう」
手元にある水晶盤に探査機の映像が浮かびます。
「濁っていて視界が悪いね」
「やっぱり普通の川のようにはいきませんね」
流れが無いお陰で操作は川に比べるとかなり楽ですが、汚水の中を泳がしているのでかなり視界が悪いです。
「けど、デビルフィッシュが寄って来なくて良かったですね」
「攻撃されたら困った」
一番の心配はデビルフィッシュに攻撃される事でした。幸いにも仲間と認識しているのか、それとも生き物と判断していないのかわかりませんが、寄ってくる感じはしません。
「変な造りになってますね」
「そうね、思ったよりも深くないかな」
水深3メートルほど潜って一周回ってみるとゆるやかにLみたいな形にカーブし水路が続いている事がわかりました。
そして、ある一部分だけが人が降りていくのにちょうど良さそうに段差になっている場所もみつけました。
「これは、階段でしょうか?」
「そう見える」
「あの辺りですね」
水中で見える映像と照らし合わしながらその場所までいくと、地上からでも薄っすらと段差が続いているのが確認できました。
「間違いなさそうだね」
「ここを通って先に行ったのでしょうか?」
「わからない。探査機を進めてみる」
「わかりました」
Lに曲がった先を目指し、探査機を進めます。
「きゃー!」
「「ユアン!?」」
へ、変な声が出てしまった。
「わ、わたし無理!」
「どうしたの!?」
映像を見ながら探査機を動かしていたら、突然目の前をデビルフィッシュが横切った。
集中している所にあの恐ろしい顔が画面いっぱいに映り、あまりの驚きに悲鳴をあげてしまった。
心臓がバクバクと激しく鼓動しているのがわかる。
「ユアン、何があった?」
シアさんとスノーさんは画面を見ていなかったようで、僕が何故、悲鳴を上げていたのが気づいていないようです。
「デビルフィッシュがー……」
「怖かった?」
「……はい」
水晶盤を投げ出さずに済んだのは良かったです。
ですが僕は画面をもう見る事が出来ません。その間にも探査機は少しずつ沈んでいきます。
「わかった。私が操作する」
「うぅ……すみません」
操作出来ないでいると、シアさんが代わってくれました。
情けなくて申し訳なくなりますね。
「よしよし」
慰めるようにスノーさんが頭を撫でてくれます。
「ずるい」
「シアは集中して」
「むぅ」
「シアさん、僕の分まで頑張ってください!」
「……わかった!」
僕が応援すると、珍しく張り切った声が返ってきました。
「スノーさんどんな感じですか?」
「うん、ちゃんと先に繋がっているみたい」
シアさんは集中しているので、スノーさんに現在の状況を聞きます。もし、画面にまたデビルフィッシュが映ったら怖いですからね、僕はもう見ませんよ?
「まるで通路みたい」
「本当ね、トンネルみたいくなってる」
「トンネル?」
「ユアンはトンネルを知らないのね。山や地下を人が通れるように作った洞窟って言えばわかる?」
「自然に出来たのではなく、人工的に作った穴って事ですか?」
「そんな感じかな。探査機で見ている所がトンネルみたくなってるの。まるで、人が歩く事を想定したようにね」
映像はみれませんが、昨日の夜に浮かんでいた半月のような形にくり抜かれた水路が続いているようです。
しかも歩きやすいようにご丁寧に平らに整備までされて。
「行き止まり」
「あれ、外れですか?」
「よく見て、階段が上に続いている」
スノーさんの話ではどうやらこっちにあるような階段が続いているようです。それと先に進むにつれ水の透過具合も良くなっているみたいです。
お陰でデビルフィッシュの数もかなり減っているようです。
綺麗な水を好む魔物ではないですからね。
「浮上する」
「慎重にね」
探査機が水面へと近づいていきます。ここまでくれば僕も画面を見る事ができます。
「当たりっぽいですね」
「うん」
水面から顔を出すと、そこは地下室のような場所でした。
光魔石が使われ、テーブルや椅子などが置かれ生活感があるように感じます。
「シア、隠れて!」
スノーさんの言葉に素早くシアさんが反応し探査機を潜らせます。
「人ですね」
間一髪間に合いました。
水の透過度が上がったおかげで水面下でもぼんやりとですが、地上の光景がわかります。
地下室には扉があり、そこから人が入ってきたようです。
「あの格好は領主の護衛……かな?」
黒色の甲冑を身に纏った男が2人、備え付けられた椅子へと座りました。
スノーさんの言う通り、街に入るときに見た門番と同じような甲冑にも見えます。男達は探査機に気付いた様子もなく、椅子に座って談笑しています。
「音声が拾えないのは残念ね」
探査機に音を伝える機能はなく、話の内容までは聞くことが出来ません。できれば、繋がった先が何処だったのかわかれば良かったのですが。
「十分な収穫」
「そうね」
「どうしますか、このまま進みますか?」
「どうやって?
「魔法でどうにか?」
やってみないことにはわかりませんが、多分大丈夫です。
「それよりも、階段はあるって事は通る方法があるんじゃない?」
そう言われると、そうですね。
「ユアン、怪しい所探す」
「わかりました」
感知魔法を使ってきましたが、見つけられなかったのには訳があります。
現在使っている感知魔法は、人や魔物を発見する為の探知魔法と罠や危険が迫っている事を知らせる危険察知を合わせて使っていました。
これは人や魔物を探る魔法なので隠し扉といった怪しい場所を探る事は出来ないのです。
なので、今回は別の感知魔法を使おうと思います。
「では、空間を把握する為の感知魔法を使いますね」
狭い空間限定になりますが、フロアに風の魔法を流します。
風はフロアを駆け巡り、手の届かない場所や死角となる場所なども探る事が出来ます。
僕はこれを空間認識魔法……長いので認識魔法と呼んでいます。
風を制御し、そこから情報を読み取るので集中する必要があるのであまり使わない魔法だったりします。
「むむむ、階段の近くの壁に違和感があるようです」
「どこ?」
3人で壁を調べると、スノーさんが何かを発見しました。
「ここだけ、材質が違うような気がする」
地下通路の壁は四角く切り抜いた石をバランスよく積み上げたように作られています。
その中の一つがぷにぷにと柔らかく、押し込める作りになっていました。
「これかな?」
「そんな気がする」
「どうしましょう?」
恐らく、このスイッチのようなものを押せば何かが起きます。上手くいけば階段を進む方法に繋がるかもしれません。
「罠の可能性がある」
「危険察知は働いてませんよ」
「押してみる?」
罠ではないと思います。しかし、階段を進むにしても準備不足は否めません。
いま、探査機で見た場所まで繋がってしまうと見張りの2人組にバレてしまう可能性が高いですからね。
「なら応援呼ぶ」
「誰をですか?」
「誰か」
動けるのはレジスタンスか皇女様の騎士くらいですよね。
「せめて繋がっている場所が何処かわかればいいんだけど」
「そうですねー……」
繋がっている場所がわかれば、表で騒動を起こしてもらい、その間に侵入する事が可能かもしれません。
「二人とも、魔物の反応です」
どうするか悩んでいると、探知魔法に反応がありました。反応は小さく、脅威度はないので焦らずに二人に伝えます。
「ヂュ!」
反応があった方を見ていると、そこからは魔鼠が現れました。こちらの様子を窺うようにゆっくりと近づいてきました。
「魔鼠」
「ですね」
単体で行動している魔鼠は珍しいですね。前にも言いましたが、魔鼠の恐ろしいのはその数ですからね。
単体で現れた所で冒険者でなくても対処はできます。子供だと少し危ないですけどね。
「でも、何か様子が変ね」
「そうですね。やけに理性的というか……」
4足歩行で移動する魔鼠が、後ろ足で立ち上がり僕たちを見上げています。
それだけの事では珍しくありませんが、やけに毛並みが良く、魔物にしては上品さを感じます。
「倒す?」
「ヂユ!?」
シアさんの言葉に魔鼠は驚いた声をあげ、僕の後ろに隠れました。
そして、僕の足をツンツンと指で突いてきました。
「何ですか?」
「ヂュッヂュッ!」
ついてきて。
そんな感じで何度も僕たちの方を振り返りながら、魔鼠は歩き出しました。
「どうしますか?」
「罠かもしれない」
「普通の魔物とは思えませんしね」
僕たちが魔鼠の様子を窺っていると、魔鼠は急に変な動きをしだしました。
いきなり倒れたようにひっくり返れば、綺麗な円を爪で地面に描き、その上にジャンプししゃがんで万歳。
「何か伝えたいのでしょうか?」
魔鼠はその動きを何度も繰り返します。
「倒れて、円を描いて……」
「ジャンプ」
「しゃがんで…………登場ですか?」
「ヂュッ!」
どうやら当たりのようです。
では、その前は?
「登場という事は、あの円は魔法陣を表しているんじゃない?」
「ヂュッヂュ!」
腕を組んでうんうんと頷きました。
僕たちの言葉を理解しているようで、かなり賢い魔鼠のようです。
「召喚」
「ヂュー!」
それ、正解!
といった感じに、シアさんを指さします。
「ちょっとイラっとした」
「ヂュッ!?」
「まぁまぁ、シアさん喋れないから仕方ないですよ」
「ユアンがそう言うなら許す」
「で、纏めると召喚されたからついてこい?」
「その前に倒れたという事は……」
「召喚主が倒れたからついてきて欲しいって事じゃないかな?」
「ヂューーー!」
僕たちの答えに嬉しそうに飛び跳ねています。どうやら正解みたいですね。
そして、再び魔鼠は歩き出しました。
「どうしますか?」
「ユアンに任せる」
「私も」
「また僕ですか……もしかたら、助けを求めている人かもしれませんし、ついていきましょう」
例え敵でも助けを求めているのならば話だけは聞いてからですね。
もちろん、僕たちに害を及ぼそうとしたり、根っからの悪人であるのならば容赦はしませんけどね。
僕たちは、魔鼠の後を追いかけました。
歩く事10分程でしょうか、魔鼠が向かった先は人一人がやっと通れるくらいの亀裂の入った場所でした。
魔鼠は躊躇することなく、そこに飛び込んでいきます。
「むむむ、中に人の反応がありますね」
探知魔法で奥を探ると青い点が浮かびました。どうやらこの先に魔鼠の召喚主がいるようです。
「危険」
「いえ、動く様子もありませんよ……ちょっと待ってくださいね」
認識魔法の風を中にながす。
亀裂の奥は小さな小部屋のような空間になっているようです。
「大丈夫そうです」
「私が先にいく」
「シア、気を付けてね」
シアさんを先頭に、僕、スノーさんと続き、亀裂の間を進みます。
「狭い」
「そうね」
「そ、そうですね!」
亀裂の間は狭い。
二人は出るところは出ているので大変そうです。
僕は……そのうちです。
「出た」
認識魔法の情報通り、亀裂を抜けた先は小さな小部屋になっていました。扉がある事から本来は何かしらに使われていた部屋なのだとわかります。
正規ルートではなく、僕たちはここに侵入をしたようです。
「人が倒れてますよ!」
僕も部屋に入り、部屋の中を光魔法で照らすと、うつ伏せに倒れた人がいました。
僕は警戒しながらもその人に近寄り声をかけました。
ちょっと、女の子らしいユアンを書きたくてこうなりました。
それに比べ、スノーの話し方が安定しないのが大変です。
普段のスノーは普通の少しサバサバした女の子イメージですが、どうでしょう?
慣れてきたら手直しして違和感がなくなるようにしたいですね。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。




