補助魔法使い、タンザの街につく
前日に早めに出発することを伝えてあるため、僕たちが出発する為に支度をしていると部屋をノックされました。
僕がドアを開けると、昨日助けた3人が部屋の前に居ました
「この度は助けて頂きまして、本当にありがとうございました。早朝で迷惑かもしれませんが、もう一度しっかりお伝えしたかったもので」
「いえ、無事なら良かったです。まだ安心とは言えませんので気を付けてくださいね」
「何も返す事はできませんが、もし私達の村に訪れる時がございましたら、精一杯のお礼をさせて頂きますね」
「はい、その時は楽しみにしていますね」
挨拶もそこらに別れをつげ、僕たちはタンザに向かう為に村から出ます。
リクウさんとマリナさんは昨日のうちに別れを告げましたし、冒険者として活動していればいずれ会うかもしれませんし、特に挨拶も必要ないですからね。
「もう行くのか?」
村から出ようとすると、入口でカバイさんが待っていました。
どうやらお見送りに来てくれたみたいですね。
「はい、出来るだけ距離を稼いでおきたいですので」
「そうか、数日したら俺もタンザにまた向かう予定だ。街で会ったらよろしく頼む」
「はい、その時までまた」
カバイさんにはお嫁さんがいるようで、娘さんが攫われ、カバイさんは娘さんを探しに離れているので、気分が落ちてしまっているみたいです。なので、数日はお嫁さんと過ごすようですね。
家族を大事にする人っていいですよね。
タリスの村を出発して一泊野営をし、歩く事約半日……大きな壁に囲まれた街に辿り着きました。
ここまでにトラブルは……ゴブリンなどに遭遇する事はありましたが、問題なくタンザの街に到着しました。
「なんか……すごいですね」
「うん」
僕たちはタンザの街に入る前に足を止めました。
壁に阻まれているからではなく、タンザの街に入る為の行列に捕まってしまったのです。
「どうしてこんなに人が沢山いるのですか?」
「なんだ、嬢ちゃん知らないのか」
シアさんと会話をしていると、僕たちと同じく行列に捕まっている商人らしき人に声をかけられました。多分、暇を持て余しているのだと思います。僕たちも同じですからね。
「タンザはこの国の流通の要なんだよ。各街に街道が伸び、商人や冒険者が訪れるんだ。帝都の次に……いや、帝都と同じくらい栄えていると言っても過言じゃないな」
「すごいですねー」
「あぁ、中でも魔法道具の扱いに関しては帝都の上をいくと言われているしな、余裕があるならば見て回るといいぞ」
「魔法道具ですか」
ローブの下に着ているシアさんに買って貰った服も魔法道具です。金額が高いために中々手は出せませんが、興味はあります。
商人さんと雑談をして時間を潰す事約2時間……ようやく門へとたどり着くことが出来ました。
遠くから見ていたのでわかっていましたが、改めて門の前に立つとその大きさがよくわかります。
門の大きさは立ち上がった炎龍……約10メートルくらいの大きさがあり、壁に関してはその倍以上はありそうです。
しかも、壁の上にはバリスタなどの兵器が並べられているので驚きです……何と戦うつもりかわかりませんが。
「身分証の提出をお願いします」
門の前に差し掛かると、警備兵の人に声をかけられました。街に入る為には審査があるので、仕方ありませんね。
円滑に入場を済ませる為にか、数人の警備兵の人が行列に対応しています。そのうちの一人にギルドカードを見せます。
警備兵の人はみんな同じ甲冑を着用していて、腰に刺さっている剣も安物でないとわかります。もしかして、騎士なのでしょうか?
「お願いします」
「拝見します……Cランク、ですか?失礼ですが、フードをとって頂く事は可能ですか?」
「えっと……」
早速困りました。僕の見た目でCランクというのに不審を抱かれてしまったようです。 ここでの僕の扱いがどうなるのかわからないのでフードをとるのを躊躇ってしまいます。
「ユアンは頭に傷を負っている。出来る事なら大勢の前では見せたくない。それに、私とユアンはパーティー。ユアンの身分は私が保証する」
「えっと、同じくCランクのリンシアさんですね……わかりました、お通りください」
どうやら無事に通る事が出来たようです。
「リンシアさんって凄いんですね!」
「違う、パーティー組んでることが活きただけ。それだけギルドカードは信頼されている証拠」
知りませんでしたが、身分を証明する為の市民カードや商人カードに比べ、ギルドカードは信頼されているようです。
特に、ベテランと称されるCランク以上は歓迎される傾向にあるみたいですね。
魔物の襲撃があった時に戦える人は多いに越したことはようですからね。タンザで必要になるとは思えませんけど。
街に入り僕たちはまずは宿屋を探しましたが……。
「申し訳ございません。現在空いている部屋はございません」
これで5軒目です。
どこも一杯のようです。
「リンシアさん、どうしましょう?」
「手あたりしだい探すしかない」
街で野営する訳にはいきません。
そんな事をしたら警備兵の人に怒られますからね。
「街に入れただけマシ。下手すれば門の前で大勢の人と野営しなきゃならない」
野営できるなら……と思いましたが、あの行列の中で野営するのは流石に嫌ですね。
そうすると、宿を探さなければいけないのですが。
「申し訳ございません」
これで10軒目。
最初はこの街に沢山の宿屋があるのに驚きましたが、これだけ空いている部屋がないと宿屋の数が多い事に納得できますね。
「どうしましょう……」
「少し値が張るけど、当てはある」
僕たちが探しているのは一人銀貨3枚以内で泊まれる宿屋です。これは、僕が妥協した結果です。シアさんに任せると高そうな宿屋でも入ろうとするから危険だからです。
少なくとも数日はここで過ごすつもりでいるので出来るだけ安いには越したことはありません。
しかし、宿屋が見つからないのでリンシアさん頼りになってしまいました。値が張ると言いましたが大丈夫ですよね?
「ここ」
「ふぁ!?」
大丈夫ではありませんでした。
嫌な予感はしていました。
街の中心の方に歩いて行くと、徐々に並ぶ家屋が綺麗で立派になっていくんです。それで、辿り着いたのが貴族が暮らすようなお屋敷です。
看板に白金亭と書かれていなければ、領主の館と言われても信じてしまいそうなくらい立派な3階建ての建物です。
「シアさん、白金って……」
「大丈夫、宿屋の値段ではない。高い価値があるってこと」
白金貨という硬貨があります。希少価値の高い金属で作らていて、金貨100枚と同じ価値がある硬貨です。
「シアさん、無理です」
「大丈夫」
逃げる暇もなく、僕はシアさんに手を引かれていきます。もう、泣きそうです。
「いらっしゃいませ」
「部屋、空いてる?」
「はい、一人部屋ですか? 二人部屋ですか?」
「二人部屋でいい。ダブルの」
「ダブル……ですね……畏まりました」
まだ明るい時間帯にもかかわらず、室内はとても明るい。光の魔石が惜しみなく使われているようです。
混雑した時のためか、待合室もあり高級そうなソファーが並び、今は使われていませんが暖炉もあります。
「では、お一人様一泊金貨3枚になります」
「え……」
「うん。これで」
僕が固まっている間にもシアさんが勝手に支払いをしてしまいました。
「部屋にもお風呂はございますが、大浴場もご利用できます。詳しい事は部屋に案内書きがございますのでそちらをお読みください。では、ごゆっくり」
あ、あれここは?
「ユアン?」
「えっと、はい?」
気がつけば僕は凄く綺麗な部屋の大きなベッドの上に座っていました。ここまでの記憶が曖昧です。
「飲む?」
「はい、ありがとう、ございます」
シアさんから渡された飲み物を一口含む。果実をそのまま絞ったような濃く、甘い味が口の中に広がり、あまりの美味しさにため息が零れてしまいます。
「どう? 桃の果実水らしい」
「はい、とっても美味しいで……す?」
あれ、シアさんこの飲み物、どこから持ってきたのでしょう?
「もっと飲みたかったらこの中にある」
僕の疑問に答えるように、シアさんがポンポンと四角い箱を叩きます。
「シアさんそれは?」
「冷蔵庫って言う。氷の魔石で中を冷やす魔法道具」
冷蔵庫といえば、貴族が持つような、平民では手の届かない程の値段がする魔法道具です。
め、めまいが……。
噂でしか聞いたことのない魔法道具が目の前にある現実に意識が飛びそうになりました。
しかし、このまま倒れてしまうと手に持った果実水が零れてしまうので、何とか意識を保ちます。
「か、勝手に飲んだら怒られますよ!」
「平気。サービス品って書いてある」
サービス品で良かったです。
「この紙に宿屋のサービスが乗ってる。一通り見ておくといい」
シアさんに紙を渡され、それに目を通す。
料理の注文は昼夜問わずできる。正し、1泊3回までの注文しかできない事。
大浴場は男女別れているのでいつでも利用出来る事、ただし貸切る場合は別途金貨2枚必要みたいです。
他にも色々なサービスがあるみたいですが、僕は途中で見るのをやめました。お香を焚いたりも出来るようですがそもそもお香が何かもわかりませんからね!
そんな事よりも、僕はやらなければいけない事があります!
「シアさんちょっと、いいですか?」
「なに?」
「そこに正座です!」
「うん」
「あぁ、そこじゃなくて、足が痛いのでベッドの上にです!」
「わかった」
正座とは倭の国の文化らしく、説教する時に行われる罰のようです。
本来は固い床で正座をさせるみたいですが、痛そうなのでベッドの上で正座をしてもらいます。
「シアさん、僕はちょっと怒っています!」
「……何で?」
うぅ、哀しそうな目に垂れた尻尾。しまいにはペタンと寝かされた耳……罪悪感が生まれてしまいます。
ですが、ここは心を鬼にしてでも言わなければならない事があります!
「1泊金貨3枚って何を考えているのですか!」
「だって、宿屋ない」
「それでも探せばもっと安い宿屋があったはずです!」
「金額なら問題ない」
「そういう問題じゃありませんよ!というか僕の服を買ったり、高い宿屋に泊まったり、金銭感覚がおかしいですよ!」
「うん。だから、無駄遣いしないようにお金ユアンに預けた」
「これが無駄遣いなんです!」
シアさんに金貨6枚を渡します。
「僕たちはパーティーなので、宿代とかはパーティー資金から出さなきゃだめですよ」
といっても、大半がシアさんが稼いだお金なので説得力はありませんけどね。
ですが、シアさんは金貨を受け取ろうとしませんでした。
「わかった。今度から気を付ける、反省の意味をこめて、これは受け取れない」
「だめですよ、シアさんの手持ちが無くなってしまいます」
「大丈夫。まだいっぱいある」
「シアさんのお金、僕がいっぱい預かってるの忘れてませんか?」
「覚えてる。だけど、最低限は持っているから平気」
そう言いますが、今日だけで金貨6枚。この間僕の服を買うのに金貨10枚も使っています。残りがそんなにあるとは思えません。
「シアさん、残金は幾らくらいですか?」
「ひみつ」
「シアさん?」
「……この宿屋なら10泊以上はできるくらいはある」
「ふぁ!?」
単純に金貨60枚以上は持っている事になります。
以前に受け取った金貨の量から考えて大半を預けられたと思っていましたが、違ったようです。
「なんで、シアさんそんなに持っているのですか?」
「依頼、頑張った」
想像以上にシアさんはお金持ちでした。パーティー資金と合わせると、金貨150枚くらいは僕たちは持っているようですね。勿論、盗賊達が持っていた金品は別にしてです。
恐ろしくて確認していませんでしたが、今度しっかりと確認してみる必要がありそうです。
考えるだけで手が震えそうですけどね。
「とりあえず、今度からは相談してからにしてくださいね?」
「うん。わかった」
絶対にわかっていなさそうです。むしろ、わかっていてやりそうです。
「シアさん、絶対ですからね?」
「うん。それよりも、足、痺れた」
それは良いことを聞きました。
「では、最後にお仕置きですからね?」
「何、するの?」
「お仕置きです!」
シアさんが少し怯えた目をしていますが関係ありません。
痺れている足をツンツンしてお仕置きです。反省は大事ですからね。
シアさんは辛そうに悶えていましたが、お仕置きだから仕方ないです。決して遊んでいる訳ではないですから。
その後、涙目で見られましたが。僕は後悔していません。
何度も言いますが、お仕置きだから仕方ないですからね!
助けた3人に名前も容姿描写がないのは面倒……ではなくて、人助けをする為に名前を考えていたら追い付かないからです。
そういう訳で名前持ちだけはそれなりに絡みがあると思ってくれて結構です。
個人的にはユアンとリンシアが仲良くしている場面が一番書いていて楽しいですね。
これからも増やしていきたいです……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
最初の目標であったブクマ50件も達成でき、とても嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします。




