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契約魔法

 「影狼という魔物なの」

 「なっ!」


 驚くべき事実をイリアルさんから告げられました。

 という事は……シアさんは獣人ではなくて魔族?


 「顔に出すぎだよ。そうなの、私達は魔族の手によって生み出された魔族なの」

 「そんな事が……」

 「出来るからこうしている。だから、生み出された私達は親には逆らえない。ただ、影狼として契約をして、つけた力を親へと返す。それだけの役割なの。残念だったね? ずっと同じ獣人だと思っていたのに、違ったんだもん」


 イリアルさんが可笑しそうに笑っていますが、僕はちっとも面白くありません。


 「関係ないです。シアさんが魔族であろうと、僕には関係ありません」


 正直、イリアルさんの話は驚きました。

 ですが、驚いただけです。

 だって、シアさんが魔族だからといって何が変わるのでしょうか?

 変わりませんよね。

 僕とシアさんの間に種族の壁が立ちはだかるのかもしれませんが、僕の仲間に人族とエルフで恋人の人だっています。

 僕達よりも前に種族の壁があって仲良くできるのだと証明してくれているのです。


 「それに、種族の話をすれば、僕は狐、シアさんは狼です。そもそも最初から種族は関係ありませんよ」

 「そうなんだ。まぁ、私がしたいのはその話じゃないからどうでもいいんだけどね」

 「どうでもいいならシアさんとルリちゃんを返してくれませんか?」

 「それはダメだよ? まだ大事な話が終わっていないから」


 まぁ、簡単には返してくれませんよね。


 「なら、早く帰りたいので言いたい事だけ言ってもらえますか?」

 「そんなに焦らないで? ユアンちゃん達も知っておいた方がいいと思う事だからね」

 「僕が知っておいた方がいいですか?」

 「帰りたいという割には聞きたがるところが可愛いね!」


 僕に関係しているのなら知りたいと思うのは当然ですよ!


 「それで、何を教えてくれるんだい?」

 「そうね。まずはシアちゃんがどうしてこうなっているのか知りたくない?」


 知りたくないかと言われても、それは何回も言われたので流石にわかりますよ。


 「さっきから言っている血の契約のせいですよね」

 「そうよ。血の契約でこうなってるの。シアちゃん、剣を抜きなさい」


 ゆっくりとした動きでシアさんが鞘から剣を抜きました。

 本当にイリアルさんには逆らえないみたいです。


 「だけどね、このままじゃ不完全なの……シアちゃん、ユアンちゃんに剣を向けなさい」


 シアさんの剣がゆっくりと僕に向けられますが、途中で止まりました。

 まるで抵抗するようにプルプルと両腕が振動しているのがわかります。


 「何が、起きているのですか?」

 「見たまんま。シアちゃんが私の言う事を聞いてくれないだよね。しかも、動きもゆっくりだし、とても使い物になりはしない」

 「その言い方はやめてくれますか?」


 まるでシアさんを人ではなく物みたいな言い方をしているのは許せません。

 

 「そんなに怒らなくてもいいじゃない」

 「怒りますよ。僕の大事な人にそんな言い方するのですから」

 「ふふっ、ごめんね? でもね、私困ってるの」

 「何がですか?」

 「このままじゃ戦えないなーって」


 全く訂正する気はないようですね。

 シアさんを操って、戦う道具にしようとしているのがよくわかります。


 「だからさ? お願いがあるんだけど」

 「嫌ですよ」

 「シアちゃんを返してあげると言っても?」

 「…………」


 明らかに罠のような気がします。

 ですが、思わずその言葉に僕は考えてしまいました。


 「君の狙いはそれかい?」

 「うん。私が欲しいのは貴女たちの力だからね」

 「そうか……ルリとリンシアは僕達に協力させるための餌って訳だね」

 「そういう事」


 謂わば人質という事ですね。


 「だけど、それは断るよ」

 「僕もです」

 「あら、どうして?」

 「当然ですよ。僕は魔族に協力なんてしません」


 魔族のせいで沢山の命が奪われました。

 僕はそれを許す事は出来ませんからね。


 「世界の常識を変える事が出来るかもしれないのに?」

 「僕はそんな事を望んでいません。確か、魔力至上主義でしたっけ? 魔力が高いから偉いだなんてそんな変な考えは馬鹿みたいですし」


 魔力が高いと便利ですよ?

 ですが、魔力が高いからと言って何でもできる訳ではありません。


 「ふふっ、そういう考えなんだ」

 「はい。人族にも、獣人もエルフもみんなそれぞれの良さがある事を知っています」

 「なら、そう思うのなら、尚の事協力してくれない?」

 「だから、嫌ですよ」


 僕の思いを知って、協力を求める意味がわかりません!

 僕は人よりも魔力が高い自信はありますが、だからといって偉いなんて微塵も思いませんからね。


 「話が通じないな~」

 「話が通じないのはそっちですよ」


 嫌だと言うのに誘う方が悪いのです。


 「仕方ない。協力してくれないのなら、私達は私達でやるからいいよ」

 「やるなら一人でやってください。シアさんは関係ありませんからね」

 「関係あるよ。影狼族だからね」

 「影狼族だからといって、シアさんの意志を無視するのは違うと思います」

 「ううん。シアは生まれ変わる事を望んでいる。だからこっち側、私の味方だよ」

 「違いますよ。シアさんは僕の側です。平和に仲良くのんびりと一緒に生きていくのです」

 

 僕の隣に居る。

 そう言ってくれました。

 僕の進む道にシアさんはいます。


 「なら、協力してよ」

 「だから、何でそうなるのですか!」


 本当に話が通じなくて嫌になります。

 もしかして、イリアルさんは頭の弱い人でしょうか?


 「だから、それがユアンちゃん達の為になるからよ」

 「なりませんよ」


 話が堂々巡りです。

 このままでは埒があきませんね。

 

 「わかりました。イリアルさんが返してくれないのなら、自力でシアさんを連れ返します」

 「ふふっ、そんな事が出来るのかしら?」

 「できますよ。イリアルさんは余分な事を話しすぎましたね」


 シアさんがこうなったのは影狼族の血が原因で、影狼という魔物を魔族へと変えた人の血が契約となって残っているからですよね。

 だったら、その契約を上書きしてやればいいだけです。


 「気づいたみたいだね。だけど、そう簡単に行かせないよ。契約の力を見せてあげる」


 流石、シアさんのお母さんなだけありますね。

 さっき、シアさんの魔法を使っていたので、それなりに魔力があるのはわかりましたが、その比ではない魔力を放出させています。


 「シア……ユアンちゃんを止めなさい」

 

 シアさんが動き出します。

 さっきのゆっくりな動きとは違い、速いです。

 ですが、シアさんの事はずっと見てきました。

 この速さはシアさん本来の速さではありません。

 これは、自信になりますね。

 イリアルさんが契約の血の大元ではないにしろ、シアさんを操る事が出来るのはこの程度という事ですからね。

 シアさんの突進をひょいと避けます。


 「あれ、意外と身軽なんだね」

 「昔の僕ならきっと簡単に捕まっていましたよ。シアさんとの繋がりのお陰です」


 では、その間に僕も反撃させて貰いますよ。


 「私のシアを奪ったのだから、覚悟は出来てるわよね?」


 許さない。

 例えシアの母親だろうと、許しはしない。


 「闇魔法ね。だけど、私を殺したらシアが代わりに死ぬことになるよ」


 影狼族の契約はそこまで及んでいるのか。


 「平気。最初から殺すきはないから。後でじっくりいたぶってあげる」


 流石に殺しはしない。

 あまりにも反動が大きいから。


 「シノ、少しは手伝いなさい」

 「嫌だよ。僕は妹の活躍をここで見させてもらうさ」

 

 本当に嫌な奴。

 まぁ、いいや。

 これくらいの闇魔法なら反動は大したことない。ちょっと前に無理したお陰で、闇魔法の回路は少しだけ強くなったから。


 「闇の拘束」


 それに詠唱も必要なくなった。

 これは少し便利ね。

 後はついでに。


 「またじっくり味わってくださいね」

 「あっ、ちょっとこれって!」

 「はい、あの時と同じですよ」


 また同じ手に引っかかるとは馬鹿ですね。

 防御魔法に閉じ込め、中の魔力濃度を濃くしてあげます。

 しかも、今回は闇の拘束により身動きも取れない状態です。


 「やー、離してー! ルリちゃーん」

 「無駄だよ。ルリはこっちで確保させて貰ったから」


 シノさんはシノさんで戦わず、ただ立っていたルリちゃんを捕まえたようです。ちゃっかりしてますね。


 「でも、シアちゃんを元に戻すのは無理だよ」

 「大丈夫ですよ。影狼族の事は知りませんが、ずっとシアさんとの契約の事は考えていましたからね」


 初めは全然わかりませんでした。

 ですが、契約が深まるにつれ少しずつですがわかるようになりましたからね。

 けど、結局は血の契約。

 その一言に尽きるものでした。

 この魔法を創った人はよほど自信家だったようです。


 「血の契約は、血に流れる魔力が高ければ高いほど効果が出ます。それと同時に、その血の魔力が高い人と強く契約が結ばれるのですよね?」


 この魔法を創った人は、誰にも魔力の強さで負けないと思っていたのかもしれませんね。

 まぁ、単純な方が簡単に魔法は使えますし、ある意味手抜きとも言えますね。

 

 「魔力至上主義ですか……そのお陰で助かりました」


 優先順位が単純に魔力ならば、僕は負けませんよ。負ける訳にはいきませんよ!


 「シアさん、僕からシアさんにするのは初めてですね」


 僕が狐の獣人で良かったです。

 僕には他の歯よりも発達した犬歯があります。

 それを唇にあて、ちょっと強く噛みしめると、口の中に血の味が広がりました。


 「シアさん、受け取ってください」


 イリアルさんを防御魔法で遮断したお陰で、シアさんへの指示が一時的に途切れ、シアさんが立ち尽くしています。

 僕は立尽くすシアさんの首に腕を回し、唇を重ねました。

 そして、シアさんの口を舌でこじ開け、口の中に溜まった血をシアさんの口の中へと注ぎ込みます。

 血液には僕の魔力が含まれています。

 だけど、それだけでは不安です。

 もしかしたら、それだけでは足りないかもしれませんからね。

 なので、もう一押しです。

 

 「私の魔力で埋め尽くしてあげる」


 私の闇魔法はある種の呪いみたいなもの。

 私が傷ついた時、キアラが回復をしようとしたけど、キアラの魔法を弾いた。

 闇魔法を纏った私は他の魔法を弾く効果がある。

 その効果を私の血に乗せる。

 もう、何人たりともシアの契約に干渉はさせない。

 シアは私だけのシアなのだから。


 「うそ……」


 イリアルの驚いた声が聞こえる。

 だけど、私の目にはシアしか映らない。


 「シア、帰っておいで」


 私とシアは漆黒の光に包まれた。

ユアンが傷ついた時、口移しでポーションを飲ませようとしたのをやめたのはこの時の為でした。

ユアンも意外と大胆ですね。

問題は規約に引っかからないかどうかです。

運営さまから注意を受けましたら、改稿しますのでよろしくお願いします。

改稿前に読めたのはこの時点で読んでくださっている方の特権という事で!


いつもお読みいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いします。

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