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待ち構える者

 「深い場所に続いていますね」


 僕たちが進む洞窟はただ奥に続いているのではなく、ゆっくりとした下り坂を降りていくようになっていました。


 「さっきの街といい……一体ここはどうなっているんだ?」

 「普通の洞窟でもなさそうね」

 「不気味な場所」

 「そうか? 俺は居心地は悪くないな」


 進む洞窟に対して思う感情はそれぞれ違うみたいですね。

 僕はどちらかというと不気味に感じます。

 まるで罠に誘い込まれている感じがするのです。


 「シノさん、あとどれくらいですか?」

 「…………そう遠くはない。そろそろだよ」


 ルリちゃんが魔法道具マジックアイテムを身に着けていればですけどね。

 もしかしたら、魔法道具マジックアイテムとバレて捨てられている可能性もありますよね。


 「それはないよ。もしバレているのならば、既に壊されている筈だしね」

 「それもそうですね」

 「だけど、もしバレていたとしたら少し面倒ではあるね」

 「どうしてですか?」

 「僕たちがルリの居場所を特定できるのに敢えて身に着けさせているんだ」

 「つまりは…………こういう事、なのですね」


 シノさんがもうすぐと言っていましたが、その会話から数十秒後には洞窟の開けた場所へとたどり着きました。


 「あら、早かったのね?」

 

 そして、その広間で待っていたのは予想通り、シアさんのお母さんであるイリアルさんでした。

 半身の状態で手を剣にかけ、いつでも剣を抜ける状態で僕たちを待ち構えていたのです。

 そして、その隣にはシアさんとルリちゃんがボーっとした虚ろな瞳で立ち尽くしています。


 「シアさん!」

 「待つんだ」


 思わず僕がシアさんの元へと飛び出そうとすると、僕の腕をシノさんが掴みました。

 わかっています。

 わかっていますよ。

 僕が無謀な事をしようとしていたのは。

ですが、目の前にあんな状態のシアさんを見せつけられて動かずにはいられません。


 「ふふっ、嬉しいな。私の娘をこんなに大事に思ってくれるんだね」


 シアさんの頭を撫でながらイリアルさんが笑っています。


 「その手をどかしてください」

 「いやよ。この子は私の娘なんだもん。誰よりも血が強く繋がった大事な大事な子なの」


 そんな事は知っています。

 ですが、例え親だからといって、どうやったかは知りませんが、シアさんをそんな状態にして操るのは間違っていると思います!


 「大事に思うのなら、僕に返してください。シアさんは僕の大事な人です」

 「なら、ユアンちゃんもこっちにくれば? シアちゃんと一緒に可愛がってあげるよ」

 「それは遠慮します」

 「んー……残念」


 うー!

 なんかシノさんを相手にしているようで頭に来ます!

 あの人を小馬鹿にしたような態度がシノさんにそっくりなのです!


 「何で僕を見るのかな?」

 「気のせいですよ」

 「気のせいならいいんだけどね」


 僕が相手をするとただ頭に来るだけですからね。

 似た者同士ぶつけた方がいいと思います!

 それに、きっとシノさんの方が性格が悪いのでイリアルさんには負けないですしね!


 「ねぇ、ユアン。君はどっちの味方なんだい?」

 「今はシノさんですよ! いいから早くあの人をどうにかしてください!」

 「まぁ、いいけどね……それで、君はどうするんだい? 数的にも僕たちの方が有利だと思うけど、降伏する気があるなら聞くよ」


 仮にシアさんとルリちゃんが操られたとしても三人対六人です。

 

 「降伏? そんなつもりはないよ。それに、数だって負けてないしね? ほら、おいで」


 イリアルさんが右手をサッとあげると、イリアルさんの影から人が出てきました。


 「影狼族の子供?」


 ちっちゃい犬耳の子供達が現われました。

 年は十歳から僕と同じか少し上くらいの子供達です。

 それも二十人くらい一度に現れたのです。

 しかもみんな操られているのか、虚ろな表情をして、地面をジッと見つめています。


 「ほら、これで数は私の方が優位。シノちゃん達の方こそ降伏したらどう?」

 「そのつもりはないよ。ルリを取り戻すまではね?」

 「へぇー。なら、その子供達と戦うって言うの?」

 「いや? 僕はそんな事しないよ」


 僕も嫌です。

 子供達相手に乱暴な事なんてできません。

 だって、あの子達を見ていると孤児院で世話をしていた子供達を思い出してしまいますから。

 

 「それじゃあ、どうするつもりなのかな?」

 「どうもこうもないよ。僕は戦わない。戦うのはこの人達だからね」


 そうやってシノさんが指さしたのはユージンさん達でした。


 「お、俺達が戦うのか!?」

 「仕方ないね。僕はルリとユアンはリンシアを助けなければいけないからね」

 「無理よ。子供相手に力を振るう訳にはいかないわ」

 「別に適当にあしらっていればいいよ。ね、イリアルもそれでいいでしょ?」


 シノさんが子供と戦う相手を勝手に指定していますが、これはこっちの都合で向こうがそれに合わせてくれる筈が……。


 「いいよ?」

 「え、いいのですか?」

 

 ありました!

 

 「それじゃ、君たちはあっちでやっててくれるかい?」

 「みんな、おじさん達と遊んでおいで」


 イリアルさんが指さした方に向かって子供達がゾロゾロと歩いて行きます。


 「なぁ、本当に俺達がやるのか?」

 「正直、気が進まないのだけど」

 「大人げない」

 「だなっ!」


 それに対し、ユージンさん達はやる気がないですね。

 まぁ、当然ですよね。

 僕が相手をする事になったらと考えるとどうしていいのかわかりませんからね。


 「オジサンアソボ……」

 「なっ!」


 どうるか話し合っているユージンさん達にいきなり子供が短剣を手に飛び掛かりました。

 しかも結構な速度で間合いを詰めていました。

 その証拠に、油断していたとはいえユージンさんは驚き、短剣が体にあたるギリギリの所で防ぐ事になりました。


 「ちっ!」

 「ワー」


 ユージンさんが受け止めた剣で弾き返すように押し返すと、感情のない声で子供が宙に浮き、くるくると回転しながら着地を決めました。


 「こりゃ、油断なんてしてらんねーぞ」

 「全く……やるしかないのね」

 「でも、傷つけたらダメ」

 「難しい注文だなっ!」


 今のやり取りで侮れない相手だと認識したのか、ユージンさん達の目が鋭くなりました。


 「嬢ちゃん。時間を稼いでやる。その間に二人をどうにかしろ」

 「わかりました。お願いします」


 ユージンさん達が陣形を保ったまま僕たちから距離を少しずつとり、子供達の方へと移動を始めました。

 嫌な役を押し付けてしまいましたね。

 ですが、僕とシノさんにシアさん達の事を任せてくれました。

 それに応えない訳にはいきませんね。


 「ふふっ、これで邪魔者はいなくなったね」

 「やっぱり君の目的は火龍の翼を遠ざけたかったって事だね」

 「そうだよ。部外者には退場して貰わないとね」


 子供達を呼んで、数的優位を自ら手放したのは僕たちだけになるのが目的だったようです。


 「それで、一体に何がしたいのですか?」

 「何って……ただ影狼族を集めているだけかな?」

 「何の為にですか?」

 「それは勿論、戦うためだよ。もちろんあの子達は別だから安心していいからね?」


 あの子達と言って、目線だけ動かした先には、影狼族の子供達が居ます。


 「シアさんやルリちゃんを望んでもいない戦いに参加させるつもりですか?」

 「それが影狼族だもん。そういう血が私達には流れているの」

 「シアさんはその血で悩んでいます」

 

 影狼族の血に支配されるようで怖いと僕に話してくれました。

 まさに今はそのような状態にされています。


 「知ってるよ。親子だもん」

 「なら、なんでそんな事をするのですか!」

 「生まれ変わるためだよ」

 「生まれ……変わる?」

 「うん。影狼族は生まれ変わるの。これからね」

 

 意味が解りません。

 生まれ変わるってどういう意味なのか、僕には理解できません。


 「ふふっ、ユアンちゃんって何も知らないんだね? 影狼族の事も、シアちゃんの事も」

 「しりませんよ。影狼族の事は。だけど、シアさんの事はわかります」

 「へぇ……それが血のせいだって事に?」

 「違います。シアさんはシアさんの意志で生きています」

 「違うよ。それは影狼族の血によって、主を求めている本能に過ぎないの」

 

 どうして、そんなにシアさんの事を否定するのかわかりません。


 「そもそもだよ? 契約って何だろうね」

 「契約は契約です。僕とシアさんの繋がりですよ」

 「本当に?」

 「本当です」

 「そっか……これでもそう思える?」


 イリアルさんの体がブレました。

 そして、ゆっくりと体が二つに分かれていきます。


 「それは……」

 「うん。これはシアちゃんの分身アバターって魔法だよ」

 「たまたま、イリアルさんも使えただけです」


 驚きましたが、別にシアさんだけが使える魔法って訳でもないですよね。


 「それじゃ、これはどうかな?」

 「たまたまです」


 僕が否定するたびに、イリアルさんがシアさんの魔法を使います。


 「これも、これもシアちゃんが使える魔法」

 「だから何だって言うのですか? イリアルさんが使える事と、シアさんが使える事は関係ありませんよね」

 「あるよ。これが影狼族の血だから」


 何が可笑しいのかわかりませんが、イリアルさんは冷たい表情で口元だけ笑ってみせます。


 「ねぇ、まだ気づかない? 契約はユアンちゃんとシアちゃんを結ぶものじゃないって」

 「どういう意味ですか?」

 「鈍いのね。繋がっているのは貴女たちだけではなく私達にも繋がっているという事。影狼族の血は、私を強くし、更に影狼族の長を強くし、私達一族を生み出した者を強くする為に作られた契約なの。だから、シアちゃんが強くなれば強くなるほど、血の契約によってシアちゃんよりも濃い血を持つ者が強くなっていくんだよ」


 そんな事がありえるのでしょうか?

 ですが、それが本当ならばシアさんが使えた魔法をイリアルさんが使える事に納得はいきます。

 ですが、やっている事には納得はいきません!


 「今すぐ、シアさんの血の契約を解除してください」

 「無理だよ? 私だって血の契約を受けた一人何だから。謂わば私も操り人形の一人。そんな権限はないの」

 「ならどうしたら、解けるのですか?」

 「ふふっ、無理だとは思うから特別に教えてあげる。大元の血より濃い血を捧げれば解けるかもね?」


 小馬鹿にするように僕を見てくすくすと笑っています。

 

 「そんな事でいいのですか?」

 「簡単に言うけど、無理よ? だって、ユアンちゃんは獣人。魔族の血には敵わないのだから」

 「魔族?」


 どうしてここで魔族の話題が出てくるのでしょうか。

 もちろん魔族が関係している事は予想はしていましたけど、まさか影狼族の話で魔族が出てくるとは思いませんでした。

 

 「もしかして……影狼族は」


 眉間に皺を寄せ、顎に手を当てて何かを考えていたシノさんが答え合わせをするようにイリアルさんをジッと見ました。


 「そうだよ。私達はね、元は魔族の手によって生み出された種族……元は影狼という魔物なの」

影狼族は魔族でした。

今は伝えたいのはこれだけです。


長くなりそうなので分けさせて頂きます。

次回の方が大事な話ですからね!

ごちゃごちゃでわかりにくいですが、お許しください。

改稿作業が出来そうなときに頑張ります。


いつもお読みいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いします。

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