閑話 補助魔法使いと従者のデート
「えへへっ……」
「どうしたの? そんなにやけた顔して」
「ふぇ? そ、そんな顔してませんよ?」
「してたよ?」
スノーさんだけでなく、キアラちゃんにまで言われてしまいました。
自覚はありませんでしたが、もしかしたら変な顔をしていたかもしれませんね。
「それで、何かいい事でもあったの?」
「ま、まぁ……」
「何があったの?」
「えっと……これです」
僕は右手をスノーさんとキアラちゃんに見せます。
「指輪だね」
「はい、指輪です」
「買ったの?」
「いえ、貰いました!」
というよりも、交換ですね。
「もしかして、シアから?」
「そうですよ」
「いいなぁー……」
「それで、どうして指輪何てもらったの?」
「それはですね……」
指輪を貰った経緯をスノーさん達に教えます。
あれは、シアさんと一緒に街を歩いている時の事でした。
「砂漠のエリアは楽でしたね」
「うん。快適だった」
砂漠のエリアを突破し、セーフエリアに着いたので、僕たちは一度街へと戻りました。
今日と明日は休息日として、溜まった仕事の確認をするなり、遊ぶなり自由行動となっています。
午前は僕とシアさんも仕事をし午後から……そのー……デートの約束をしていたので、一緒に街の中を手を繋いで歩いています。
「ユアン、寒くない?」
「はい、大丈夫ですよ。シアさんこそ寒くないですか?」
「寒い。だから、もっとくっ付きたい」
「わかりました」
シアさんが寒いと言うなら仕方ないですよね?
「あったかい」
「僕もです……」
何よりも顔が熱い気がします。
それに、街の人に見られている気がして、少し恥ずかしいです。
「気にする必要ない」
「別に、気にしていませんよ」
別に気にはなりません。
シアさんと仲良く歩いているのは前からでしたしからね。
ただ、みんなが笑顔で見送ってくれるのが少しだけ恥ずかしいだけです。
「おや?」
「あ……」
でも、この人だけは別です。
「相変わらず仲が良いね」
「悪いですか?」
こんな時間にシノさんに会うとは思いませんでした。
シノさんは朝早くから農作業をし、お昼には家に戻っている事が多いです。
なので、午後に会うというのはあまりないのですが、何故か今日は会ってしまいました。
「悪くはないよ」
「そうですか、なら僕たちは行きますね」
折角のシアさんとの時間を邪魔されたくありませんからね!
挨拶もそこそこに僕たちはシノさんから離れようとすると、シノさんはまだ僕たちに用があるようで呼び止められました。
「何ですか?」
「いや、別に用って程ではないけどさ、少しリンシアに伝えておきたい事があってね?」
「私?」
「そうそう」
むー……しかも、僕にではなくシアさんに用事があるみたいです!
「ちょっと、耳を貸してくれるかな?」
「やだ」
そうです!
シノさんの話に耳を貸すと碌なことはありませんからね!
まぁ……いい事もあるので一概に悪いとは言えませんが、極力避けた方がいいと経験からわかります!
具体的には……特にはないですけど。
「そう言わずにさ? ユアンを喜ばしたくない?」
「ユアンを?」
僕を?
「うん。きっと喜んでくれると思うよ?」
「……ユアン?」
え、何で僕を見るのですか?
「聞いてきていい?」
「うー……シアさんがどうしてもと言うなら……」
仕方ないです。
「ですが、シアさんに変な事はしないでくださいね!」
「しないよ。僕にはアカネがいるからね」
約束はしてもらえました。
もし、僕のシアさんに変な事をしたら、シノさんでも絶対に許しません!
「ユアンは少し離れていてくれるかい?」
「……やっぱりシアさんに変な事をー……」
「しないよ。折角だし、君は知らない方が楽しめる事だからさ」
「うー……」
シアさんはとられるし、僕には内緒にされるし、酷い扱いです!
シノさんはシアさんを呼ぶと、僕に聞こえないほどの小声でシアさんに何かを話しています。
「うん、本当?」
「本当だよ。僕が保証するよ」
「わかった!」
シアさんが嬉しそうに頷いています。
「もう、終わりましたか!?」
「そんなに大きな声を出さなくても、聞こえているよ。大丈夫、もう伝えたい事は伝えたからね。それじゃ、僕はこれで失礼するよ」
言いたい事だけ伝え、シノさんが手をあげて帰っていきます。
「シアさん、変な事されませんでしたか?」
「平気」
「良かったです。誰かに変な事されたらちゃんと教えてくださいね? 僕が頑張りますから!」
「うん。そうはならないから平気。だけど、心配してくれて嬉しい」
当然です!
だってシアさんは……僕の、恋人ですからね。
「それで、何の話だったのですか?」
「秘密」
「秘密、ですか……んー?」
シアさんはやはり教えてくれませんでした。
ですが、その代わりに僕を安心させようと頭を撫でてくれます。
「大丈夫。今は秘密なだけ。後でわかる」
「本当ですか?」
「うん。だから楽しみにしてる」
「わかりました」
どうやら今は言えない理由があるみたいです。それなら、シアさんを信じるだけですね。
「それで、この後は何処に行きますか?」
今日の予定は未定です。
ただ、シアさんとお散歩しながら街を歩くしか予定をしていませんでした。
「少し、イル姉のお店に寄りたい」
「わかりました」
という訳で、イルミナさんのお店に向かったのですが……。
「ガラガラですね」
商業区の区画に住んでいる人がほとんどいないのも原因ですが、ポツンと営業しているイルミナさんのお店はお客さんが一人もいませんでした。
「ガラガラで悪かったわね? けど、これでも繁盛しているのよ?」
お店に入ると、僕の呟きが聞こえていたようでイルミナさんが奥から出てきました。
「あ、なんかすみません」
「いいのよ、実際に暇だからね」
「でも、繁盛しているのですよね?」
「今はね。大口の注文があったお陰でね」
「あー……アリア様とユージンさん達ですね」
イルミナさんが魔法道具店を開いた最初のお客さんはアリア様でした。
どうやら、フォクシアのお城に魔法道具が必要なようで色々と買い物をしていましたね。
流石王族といった豪快な買い物の仕方でした。
僕が収納魔法で運ぶお手伝いをしたので、その量はよく覚えています。
その後、ユージンさん達もお店に訪れて買い物をしたと聞きました。
冗談だと思っていましたが、本当に家を二軒購入したみたいですね。
ちなみにですが、ユージンさん達のお家は僕達のお家から直ぐ近くの場所にあります。
もちろん、僕たちのお家よりも小さいですけどね、というよりもそれが普通だと思います。
それでもちゃんと庭付きのお家を買っている辺り、流石Aランク冒険者と言った感じです。
ですけど、冒険者家業で各地を渡り歩くのに大丈夫なのでしょうか?
まぁ、ユージンさん達にはお世話になっているので、転移魔法陣を渡してありますので、いつでも戻って来れる様にしてあげましたけどね。
「それよりも、今日はどうしたの?」
「私が買い物する」
「珍しいわね。別に好きな物を持って行ってもいいわよ?」
「いい。私のお金で買いたい」
イルミナさんの目が細くなり、シアさんをジッとみつめました。
「そういう事ね。ユアンちゃん、シアをちょっとだけ借りるわね?」
「はい、わかりました」
シアさんがイルミナさんに連れられて行ってしまいました。
「一人になってしまいましたね……」
いつもはイルミナさんと一緒に居るララさんも今は居ません。
可哀想な事に、徒歩でタンザからナナシキで向かわせれているみたいです。
何でも、タンザからここまでの流通経路を調べ、仕入れの時間、かかる費用、起こりうる危険などを調べさせられているみたいです。
「あ、これ……僕が提案した奴です」
暇になった僕は暫くお店の商品を見て回りました。
相変わらず魔法道具店なだけあって、沢山の魔法道具が置かれていて、見るだけでも楽しいです。
「それも、結構売れ行きがいいのよ」
「わっ! もぉ、戻ったなら普通に声をかけてくださいよ!」
「ごめんね? それよりも、耳寄りな情報があるんだけど聞きたくない?」
「耳寄りな情報ですか?」
「えぇ……きっとシアが喜んでくれると思うんだけど?」
シアさんがですか?
「聞きたいです」
「ふふっ、実はね……」
イルミナさんからの情報は本当にいい情報でした!
「えっと、欲しいです!」
「そういうと思ったわ。それじゃ、こっちね?」
「はい!」
シアさんもまだ買いたいものを選んでいるようで、僕もその間に買い物をさせて貰う事になりました。
えへへっ、シアさんにはいつもお世話になっていますので、喜んでくれますかね?
僕はイルミナさんの用意してくれた品物を選びながら、喜んでくれるシアさんの姿を想像するのでした。
番外編みたいなものです。
あまり本編には関係しませんが、次話まで送らせていただきます。
古龍さんが加入したことにより、シアと二人きりになる機会が減る可能性がありますからね、今のうちに……。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。




