弓月の刻、次の階層に挑む
「いきなり分かれ道ですね」
「もしかして、迷宮のフロアなのかな?」
セーフルームを出ると、すぐに階段がありました。
そして、道なりに進むと現れたのは二手に分かれた道でした。
「ここまではシノさんと同じですね」
シノさんが挑んだダンジョンも迷宮があったと言っていましたし、どこのダンジョンも同じ造りなのでしょうか?
「多分、ここも練習」
「練習ですか?」
最初のフロアで魔物が出現する事と、ボスがいる部屋があるって事、そこを抜ければセーフルームがあるって事がわかりました。
シアさんの予想では、次は迷宮があるって事を教えてくれているといいます。
「こうやって少しずつ難易度が上がっていくのかな?」
「そうかもしれないね」
道は複雑になり、出現する魔物も強くなっていく、楽しんでばかりはいられなさそうですね。
「それで、どっちを選びますか?」
「ユアンの探知魔法は?」
「探れるには探れますけど、結構広いみたいなので、最後まではわかりません」
とりあえず、わかる事は分かれ道の先にはまた分かれ道があることくらいです。
またその分かれ道に進めば、また別の事もわかるかもしれませんが、いずれは行き止まりに辿り着く事になりそうです。
どちらかの道は、最終的に全部行き止まりになっている可能性だってありますからね。
それならば、探知魔法に頼らずに別の方法をとった方が確実かもしれません。
「となると、ちゃんと記録しないと駄目だね」
「地図を書くだけでも時間がかかりそう……」
「そうですね……」
どんな道を通ったのかは少しだったら覚えれますが、進むうちにいつか忘れてしまう可能性が高いと思います。
その結果、入口も出口もわからず、迷宮の中を無駄に歩き回る事になりかねません。
僕たちは僕の収納に食料がありますし、水は生活魔法でどうにかなりますが、普通の冒険者はかなり大変な思いをするかもしれませんね。
「道を忘れた時の為に、壁に印でもつけておこうか」
「そうだね。そうすれば、前に通ったかどうかわかるよね」
いい案ですね。
スノーさんの意見を採用し、スノーさんがナイフで印を刻みます。
「うそでしょ……」
「こんな事って……」
しかし、それは失敗に終わりました。
スノーさんが壁に印をつけると、壁は自動で修復し、元の傷一つない壁へと戻ってしまったのです。
「最悪、壁を壊して通ろうかと思ったけど、それも無理って事だね」
「スノーさん、流石にそれはズルだと思いますよ?」
もしかしたら、その対策も考えられていた可能性もありますね。
「となると、地道に道を覚えるしかないかな」
「そうですね……」
問題は誰が道を記入するかになってきます。
こういうのって、器用な人じゃないとぐちゃぐちゃになって逆にわからなくなりそうですからね。
「私は無理だよ?」
「知ってる」
「無理そうだね」
「無理そうですね」
最初からスノーさんに任せる気にはなりませんでした。
これでも付き合いが長くなってきたからわかります。
スノーさんの事ですから……。
「あー……、わかんなくなってきた。誰か代わってくれない?」
ってなると思います。
「シア……自分でもちょっと似てると思ったからやめてくれない?」
「残念」
「何気にモノマネ気に入ってますよね」
「うん。楽しい」
シアさんが楽しいのならいいのですけどね!
けど、せめて声真似だけでなく、表情とかも真似して欲しいです。
相変わらず、いつもの無表情で真似をするので何か変な感じがします。
「では、スノーさんは無理だとして誰がやりますか?」
「んー……ユアンかキアラがいいんじゃない?」
「どうして、私かユアンさんなの?」
「シアは後衛として、後方に気を配んなきゃいけないからね。それに、私と一緒でそういうの苦手だと思うし」
シアさんは任せたらちゃんとやりそうですけどね。
けど、面倒といって断るような気も確かにしそうですね。
「そんな事ない。簡単」
「本当に?」
「本当。そもそも、道を覚える必要はない」
「え、それだと迷っちゃいますよ?」
「平気。迷ったら確認すればいい。そういう魔法道具を私達は持ってる」
えっと、そんな便利な魔法道具なんて持っていましたっけ?
「あぁー……タンザの地下で使った奴か」
「そう。自動で記録してくれる」
思い出しました!
確か、イルミナさんに頂いた奴ですね。
使う機会がなくて、すっかり忘れていました。
懐かしいですね、これを使ってタンザの地下水路を探索しましたね。
これがなかったら大変な事になっていた筈です。
「ユアン使えそう?」
「はい、大丈夫そうです。ちゃんとこのフロアが表示されています」
分かれ道に差し掛かった場所までなので、ほとんど地図は表示されていないですけどね。
これで、少なくとも迷っても戻る方法は見つけられましたね。
「では、とりあえず進んでみますか」
「そうだね。で、どっちの道にする?」
「せーので決めますか?」
「多数決はわかりやすい」
みんなで決めれば、間違った方に進んだとしても納得いきますからね。
「では、せーので進みたい道を指さしてくださいね? いきますよ……せーの!」
みんな左の道を指さしました。
「みんな一緒ですね」
「困ったら左って教わったからね」
「うん」
「私もそう聞きました」
僕もです。
これは冒険者の心得の一つですね。
左手法といって、壁に常に左手をつけた状態で前進すれば、いずれは出口までの道を見つける事ができるという法則らしいです。
まぁ、この迷宮の出口が中央にあったりしたら意味のない法則ですが、それもわからない以上、とりあえずこれで進むのが一番かもしれませんね。
「この調子でみんな揃うといいね」
「そうですね。けど、道が増えたりしたらバラバラになりそうですね」
「と言っていたら、本当に分かれちゃったよ」
僕のせいではないですからね!
スノーさんの言う通り、進んだ先には左、真っすぐ、右と三方向に道が分かれていました。
けど、さっきの感じからすると、答えは簡単ですよね。
「せーの!」
みんなが進みたい道を指さしました。
「あれ?」
「バラバラですね」
てっきり、みんな同じ方を指さすと思っていましたが、今度はバラバラの道を指さしました。
僕は、左手法を引き続き試そうと左を選びましたが、キアラちゃんが右、スノーさんとシアさんが真っすぐを指さしています。
「私は、さっき左に曲がったから、次に右に曲がれば、元の方角に戻ると思って……」
あ、そんな考えも出来るのですね。
「難しく考えるよりも、真っすぐの道があるのなら、真っすぐ進めばいいかなって」
「同じく」
面白いですね。
みんなの考え方や性格が現れる気がします。
「では、今回は二人が真っすぐなので真っすぐ進みましょう」
そんな感じで進むのですが……。
「なんか、いちいち確認するの面倒になってきたね」
「そうですね。掛け声出すだけで疲れる気がします」
迷宮は思ったよりも迷宮でした!
少し歩けば曲がり角や分かれ道があるのです。
「魔物が現れないのなら、しらみつぶしに地図を埋めてった方が早いかも……」
「考える時間が無駄」
そうなのですよね。
このフロアの道は至る所に繋がっていて、地図を確認すると、気づけば一度通った道に戻っている事が多々ありました。
「そうなると、通ってない道を選んで進むのがいいかな」
「そうですね、運が良ければ出口につけるかもしれませんし」
まだ出口を見つけられなという事は、通っていない道の先にあるって事ですからね。
「それじゃ、後はユアンに任せるよ」
「僕ですか?」
「通ってない道を選ぶだけなので、誰が選んでも一緒だしね」
まぁ、一向に辿り着かなかったとして文句を言われないのなら構いませんけどね。
「けど、僕の基本は左手法ですからね。しらみつぶしに歩いて行きますけどいいですか?」
「構わない」
「それでいいよ」
「お願いします」
結局の所、闇雲に、適当に選ぶよりもそっちの方が早いと気づきました。
何でもそうですが、先人の知恵って大事ですよね。
魔物が出ないのはいいですが、正直壁ばかりのフロアはシアさんじゃありませんが、飽きました!
つくづく一人じゃなくて良かったです。
みんなといればおしゃべりしながら進めますからね。
けど、早くここから脱出したい、そんな気持ちを抑えながら僕たちはひたすら壁に沿って進むのでした。
ユアンは堅実、キアラは効率、スノーは単純、シアはきまぐれ。
そんな感じで道を選んでいるのかなと想像しました。
何となく、みんなの性格を理解して頂けてきたでしょうか?
最初の設定とかなり違くなってきた気もしますけど、物語の中でキャラが勝手に動くこともあるのでお許しください。
今日で書き始め、早いもので7ヶ月になりました。
ここまで続けてこれたのは皆さまの応援があったからだと思います。
読んでくれている方がいる。それだけで、続けられます。
今後とも、楽しんで頂けるように、物語を紡いでいきますので、よろしくお願いします。
いつも、ありがとうございます。




