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訪問者たち

 「やっと着いたわね……」

 「あぁ……ようやくな」


 ユアン達が住む街……まさかあのメンバーの一人が領主になっているとは思わなくて、聞いた時は驚いたものだ。


 「止まれ」


 街に入口に差し掛かると、街の門番だろうか、大柄な男に止められた。

 というか、この男見た事があるな。


 「あんた、確かルード軍の騎士団にいたな」

 「いたな。少し前までになるが……そういうあんたは冒険者だな。しかもルードでは有名な」


 お互いに面識があるわけか。

 それも当然か、まだ記憶に新しい国境での魔物の迎撃。

 俺たちはルード軍に混ざり、あの戦いに参加した。

 この男とも話こそはしないが、顔を合わせた覚えがある。


 「とりあえず、身分を証明できる物を提示してくれ」

 「あぁ。これで頼む」


 ギルドカードを魔法鞄マジックポーチから取り出し、男に渡す。

 他の仲間も俺に続き、無事に街に入る手続きは終えた。


 「すまないが、後ろの者達も頼む」

 「私達ですね」


 俺達の手続きが終わり、今度は俺達と共に行動をしていた人達の手続きが始まった。

 その間に俺はこの街の様子を伺う。

 ぱっと見た限りでは凄く長閑な村。

 それなのに、手続きをしっかりと踏んでいるのはまともに思える。

 まぁ、侵入しようと思えばどこからでも侵入できそうな村ではあるのが、少し不安か。


 「話には聞いていましたが、あなた方が……。直ぐに領主様に連絡を通しましょう」

 「助かります」


 どうやら無事に手続きが出来たみたいだな。

 門番の男が別に兵士を走らせ、俺たち……というか後ろの者達が到着した事を伝えに向かったみたいだ。

 待っていれば、案内の者が直ぐにでも来るだろう。


 「それじゃ、護衛依頼はこれで完了でいいな?」

 「はい、ついでとはいえありがとうございました」

 「いや、これから世話になるかもしれないからな。お互い様だ」


 よし。これにて護衛依頼は完了。

 この街には冒険者ギルドがまだないが、直ぐにでも出来るだろう。

 護衛をしていた者達に別れを告げ、俺たちは村の中を歩く。


 「見事に狐族の人が多いわね」

 「当然だろう。ここは狐族が統治する領だからな」

 「意外な事に、俺たちを見ても気にしていないな」

 「当り前。領主が人族だから」


 獣人の国で人族が領地を授かる。

 あまり騒がれていないが、驚くべきことだろう。

 つい最近までルード帝国とアルティカ共和国の国交は盛んではなかった。

 むしろ水面下では戦争が続いているとまで言われていたくらいだしな。

 実際に、ルード軍が動いた時は、ついに本格的な戦争が始まったのかと思ったが、蓋を開けてみれば大規模な魔物の討伐だった。

 結果、ルード帝国とアルティカ共和国とで共同戦線となり、今に至る訳か。

 そして、その裏ではユアン達の暗躍。

 本当に評価されるのはあいつらだろう。


 「で、これからどうするのよ?」

 「まずは、嬢ちゃんに会う。話はそれからだな」

 「何処にいるかもわからないのに?」

 「大丈夫だろ! 嬢ちゃんを探すのは簡単だ!」


 その通りだな。

 本人は否定するだろうが、ユアンはいつでも騒動の中心……まぁ、巻き込まれる事が多いだろうがそこに居る。

 人が集まっている場所に向かえば……。


 「何、あのお店」

 「人がいっぱいいる」

 

 朝から賑わうお店……なのかはわからないが、人が集まり、列をなしている。

 その先に、俺たちの恩人の姿が見えた。

 嬢ちゃんは忙しそうに、一人一人と話し、魔法を唱えているせいで、俺達には気付いていない。

 傍からみれば変な宗教集団にも見えなくもないが、嬢ちゃんの事だからそんな事はないだろう。

 

 「割り込みは良くないな。並ぶか」

 「仕方ないわね。これからここを拠点にするつもりなら村の人に悪い印象は与えられないわね」

 「間違いないな!」

 

 むしろ、この列が何なのかわからないから、人が居なくなるのを待つべきだろうか?

 まぁ、嬢ちゃんを驚かせる為のも一興か。

 歩いているだけでは気に留められていなかったが、流石に列に並ぶと怪訝そうな目で見られたが、気にする事はないだろう。

 




 「ユアンさん、とんでもない人を連れてきましたね」

 「え? 何がですか?」

 「何が、ではありませんよ。ユアンさんが紹介してくれた人の事です」


 イルミナさんを街に案内し、スノーさんとお話がしたいという事で時間を割いて貰ったのですが、その後日、僕はスノーさんに呼ばれたので領主の館に向かうと、アカネさんにいきなりそんな事を言われました。


 「何か、問題でもあったのですか?」

 「問題という程ではないですが、対応には困りましたね」

 「イルミナさんのですか?」

 「はい」


 イルミナさんとスノーさん達の話し合いは上手く進み、数店舗の建物を購入してくれたみたいです。

 これで、この街にも宿屋や魔法道具店マジックアイテムが出来るので僕としては貢献できたと思ったのですが、どうやら話はそう単純ではない方向に進んでいるみたいです。


 「えっと、何があったのですか?」

 「簡単に言えば、値切られましたね」

 「あちゃー……」

 「あちゃー……じゃありませんよ。あんな大物を紹介するのであれば事前に説明して頂きたかったです」

 「大物ですか?」

 「まさか、知らなかったとでも言うのですか?」

 「はい」


 イルミナさんはシアさんとルリちゃんのお姉さんであり、色んなお店を経営したりしている凄い人だろうという事は知っていましたが、大物かどうかの判断は僕にはわかりませんからね。


 「本当に知らなかったみたいですね」

 「はい。イルミナさんってどんな人なのですか?」

 「あの人は……商業ギルドの重職であり、ルード帝国で最大級の商団を抱えている人ですよ」

 「え、でも……タンザではそんな感じはしませんでしたよ?」


 タンザの事件が終わった後に、イルミナさんとルリちゃんと宴会みたいなことをしましたが、その時は裏の組織に散々邪魔されてきたと言っていたくらいですし、そこまで大きな商団だとは思いませんよね?


 「タンザでは、ですね。ですが、帝国内でみれば大規模と言えます。そもそも魔法道具マジックアイテムの販売に関してはほぼ独占状態ですから」

 「そうなのですね」


 色んな街で魔法道具が売られていましたが、どうやら製造元を辿れば全てイルミナさんのお店へとたどり着くみたいです。

 それがルード帝国内に売られていると考えると、凄い事ですね。


 「ですが、アルティカ共和国では店舗がないと言っていましたよ?」

 「仕方ないですね、アルティカ共和国では魔法道具マジックアイテムを使う習慣はあまり浸透していませんから」

 

 勿論、灯りの魔法道具マジックアイテムなどはあります。

 ですが、ルード帝国に比べると、フォクシアのお店に行ってもほとんど魔法道具マジックアイテムが売られていたり、使っている所は見かけませんでした。

 アリア様のお城にはいっぱいありましたけどね。


 「物価の違いも関係しているのですが、何よりも賃金が違いますからね。アルティカ共和国では高価な魔法道具マジックアイテムはあまり必要とされていないのです」

 「確かに、獣人の方が仕事を求めてルード帝国に来ていましたね」


 出稼ぎという奴ですね。

 お金を稼ぎたいのなら、貰えるお金が多いルードに稼ぎに来た方がお金は溜まります。

 

 「何か……すみません」

 「いえ、責めている訳ではありません。むしろ、商業ギルドの設立、宿屋、その他の店の出店が進み、観光客からの収入が見込める算段は立てれましたから感謝しています」


 その代わり、かなりの優遇処置を要求されたみたいですけどね。

 欲を言えば、もっと納めて貰える税や購入して貰った建物の代金を上げたかったみたいです。


 「それよりも、今日皆さんに集まって頂いたのには別の用件です」


 スノーさんとキアラちゃんはいつも居ますが、僕たちは滅多に領主の館に来たりはしません。

 訪れるとしても、僕たちがスノーさんに用があって来るだけで、呼ばれたのは初めてかもしれませんね。


 「冒険者ギルドの職員が国境を越えたとの連絡がはいりました。皆さんには、その方たちの相手をして頂きたいと思います」

 「私も?」

 「はい、スノー様にもです」

 「となると、私もですね」


 当然、僕たちも呼ばれたという事は僕たちもですね。


 「けど、どうして僕たちなのですか?」

 「この街に居る冒険者が弓月の刻しかいないからです」

 「あ、そうでしたね」


 冒険者ギルドがなければ冒険者は基本的に留まってはくれません。

 この街で育ち、この街で暮らしているのなら別かもしれませんが、それでも冒険者家業をするのであれば、別の街でいつでも依頼を探せる場所に拠点を置きますよね。

 そもそも、この街には僕たちの年代くらいの人がいないですし、みんな農業を頑張ってくれてますからね。


 「僕たちは何をすればいいのですか?」

 「簡単です。冒険者ギルド設立に必要な要項を伝えて頂くだけで構いません」


 この辺りにどんな魔物が出没するのか、どんな薬草などが採れるのか、その調査のお手伝いをしたりすればいいみたいです。


 「えっと……その間だけど、領主のお仕事は……」

 「スノー様の代わりに私がやっておきます。もちろん、確認のためにスノー様に目を通して頂く必要がありますけど」

 「やった! それだけでも、凄く助かる!」

 「束の間の休息になりそうです……」


 二人が嬉しそうにしていますけど、それだけ領主の仕事は大変みたいですね。

 逆に言えば、それを卒なくこなしてしまうアカネさんが凄いと言うべきなのでしょうか?

 何にせよ、暫くは堂々と冒険者として活動できますね!


 「喜んでいますが、ギルドの方々が来られる前に、終わらせて頂きたい仕事がありますので、お願いしますね?」

 「う……頑張ります」


 そうなると、僕もやる事をやっておかないといけないですね。

 場合によっては何日も街を離れる事になるかもしれませんので、チヨリさんが困らないようにトレンティアで魔法水を大量に入荷しておいた方がいいかもしれませんね。

 それにしても……。

 商業ギルドに冒険者ギルド。

 本格的に街として機能しそうになってきましたね!

 長閑な村というのは凄くいいですが、賑やかなのも悪くないと最近は思い始めました。

 何というか、街が発展していくのをこの目で見て、体で感じられるのが楽しいのです!

 今の生活でも十分楽しいと思えますが、刺激はあったほうがいいと思いますからね。

 ともあれ、近々到着するというギルドの人の案内ですね。

 失敗しないように頑張らないとです!

 国境を越えたと言っていましたし、着くのは直ぐですね。

 出来ればもうすぐ年を越しますし、雪が積もるころになります。

 それまでに全てを終わらせて、ゆっくりと次の年を越せるようにしたいものです。

 その為にも、僕たち弓月の刻の頑張りどころです!

 みんなで頑張りましょうね!

多分ですが、次話くらいでこの章も終わりですね。

そして、訪問者は誰かはわかりましたよね? 例の四人組です。どうなる事やら。


時系列はちょっと曖昧にしています。もうすぐ年を越すくらいとだけ……。

その辺りは詰める必要がありますが、気にしないで頂けると幸いです。


いつもお読みいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いします。

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