補助魔法使い、黒天狐になる
凄い、凄いです!
いつもよりも感覚が研ぎ澄まされている感じがします!
目は冴え、耳は良く聞こえ、嗅覚も優れています!
これが……これが獣化なのですね!
ただ、難点があるとすれば、視線がいつもよりも低く感じる事でしょうか?
まぁ、それも仕方ないと思います。
普段は二足歩行なのに対し、今は四足歩行ですからね。
「うむー……獣化だなー」
はい、確かに獣化しました!
その証拠に僕の右手も左手も、人間の手ではなく、狐の手になっていますからね!
あ、でも動物の場合は足……なのでしょうか?
ともあれ、僕は獣化に成功したようです!
「失敗だなー」
え、僕としてはちゃんと獣化したつもりなのですが、チヨリさんは首を横に振っています。
けど、誰がどう見てもきっと僕の姿は狐化していると思うのですが、何がいけないのでしょうか?
「魔力の流れは悪くはないが、雑念が入ったなー。そのせいで、本来の獣化の力を引きだせてないなー」
むむむ……確かに余分な事を考えた気がします。
けど、驚きですよね。
感覚が研ぎ澄まされているので、いつもよりパワーアップしたような気がするのですが、まだまだ本来の力を引き出せるようですね。
「ま、最初は誰でも失敗するから気にするなー」
大丈夫です……僕としては成功した気もしていますからね。
きっと、失敗といっても、些細な失敗だと思います。
だから、練習すれば直ぐにでも……。
「ユアンの魔力が途切れた! ユアン、何処にいる!」
僕が体の調子を確かめていると、シアさんが息を切らしながら走ってきました。
シアさんが息を切らすくらいです、かなり急いできたのかもしれませんね。
けど、シアさんのお陰で一つ勉強になりましたね、獣化すると僕の魔力が途切れるみたいです。
正確には、僕の魔力は途切れていないので、別の性質になっているのかもしれません。
それはさておき、シアさんがかなり慌てています。どうやら、僕の事が視界に入っていないみたいですね。
「こやや!…………こやっ?」
あれ、シアさんを呼んだつもりですが、変な声が出ましたよ?
もしかして、まだ体に慣れていないのでしょうか。
なら、もう一度……。
「こやや! こやっ!?」
あ、あれ……上手く言葉を発する事が出来ません!
「ユアン!」
ですが、声を出したことにより、シアさんは僕に気付いてくれたみたいです!
魔力が途切れ、僕を探知する事は出来なくても獣化した僕の姿を見ただけで一目でわかってくれるのは嬉しいですよね。
「かわいい……」
僕を見つけ、安心したのかシアさんが僕を抱き上げてくれます。
あれ、でも少し変ですよ?
「ちっちゃい……まるで子ぎつね」
「こや!?」
あ、あれれ?
抱き上げられた僕は、すっぽりとシアさんの腕の中に納まってしまいました。
もしかして……僕、かなり小さくなってしまっています?
「だから言っただろー、失敗だって」
とすると、声が上手く出せないのも、視線が低く感じたのも、盛大に失敗したからでしょうか?
「くぁぁ……」
結構上手に出来たつもりでしたが、どうやら僕の勘違いだったようです。
「チヨリ婆、ユアンはいつ戻る」
「そうだなー、明日の朝には戻るだろうなー」
あ、明日の朝ですか!?
「うむー。仕方ないなー、ユアン今日は休むといいぞー」
「こやこやっ! こややややん!」
ダメですよ! 診療に来る人がいるのですから!
「そうは言ってもなー。その状態じゃ、何も出来ないなー」
「こやや……」
確かにその通りです……。
ですが、そろそろ人が集まってくる頃になってしまいます。
せめて、今日は診療できない事を伝えないと……。
「おや、ユアンちゃんの姿が見えないけど、今日はお休みかな?」
と言っているうちに、チヨリさんの近所に住むおばあちゃんが来てしまいました!
「ユアンならいるぞー」
「こやっ!」
はい、僕はここです!
「おぉ、黒天狐様ではないか! ありがたや~」
そして、僕を見ると拝み始めてしまいました。
シアさんに抱えられて、威厳も何もない状態なのですごく恥ずかしい気がします。
ですが、一人が訪れるとそれを皮切りに次々と人が集まってくるのが、いつもの日常です。
そして、今日も例外に洩れず、人が集まってきてしまいました。
「あれ、ユアンちゃんは!?」
「こやや!」
ここです!
「今日は黒天狐様の姿か! いやー、懐かしいなぁ」
「その姿を見ると、アンジュ様を思い出すわね」
「アンジュ様は遥かに大きかったけどな!」
僕のお母さんである可能性が高い方も獣化が出来たのですね。
しかも、僕よりも遥かに大きいという事は、完全な状態で獣化が出来たって事でしょうか?
「撫でていいかい?」
「俺も!」
「私も撫でたい!」
「よし、いつも通り順番に並べ!」
あれ、何かいつもと同じ流れになっていますよ?
僕が診療を始めると、自然と街の人が勝手に整理し、順番が出来ていきます。
この状態では診療は出来ないのにも拘わらず、シアさんに抱えられた僕の前に列が出来ていくのです。
「ユアンちゃんの毛並み、凄くいい手触りね」
「当り前。ユアンはどんな状態でも最高」
「次は俺だ!」
「……ユアンが嫌がる場所触ったら許さない」
「ユアンちゃん、この辺りはどうだい?」
「こや~」
「終わり、次の人」
人が入れ替わりながら、どんどんと列が流れていきます。
意外な事に、シアさんが凄く街の人に協力的なのが気になりますが、お陰で列に並ぶ人が減って……ませんね。
診療に訪れる人は色々います。
毎日欠かさずに通ってくれる人、気まぐれで立ち寄る人、怪我を見て貰いたい人などその日によって違います。
ですが、今日に限ってはいつもよりも人が多いのです。
そして、その原因は直ぐにわかりました。
「ユアンちゃんが獣化してるって聞いたが、本当に獣化してるねぇ」
どうやら、僕が獣化した事を知らせている人がいるみたいです。
そして、その話が街の人たちに伝わり、普段はあまり来ない人達まで訪れているみたいなのです。
みんな、優しく撫でてくれるので嫌ではありませんが……大丈夫ですよね?
同じ場所ばかり撫でられて毛がなくなったりしませんよね?
そんな心配が湧き出るほど、街の人が訪れているのです!
「終わり。ここまでにする」
「「「えー」」」
「えーじゃない。ユアンも疲れる。それに、一人一回までにしとく」
シアさんがあまりにも人が途切れない為、止めに入ってくれました。
どうやら、一回だけじゃなく、列に並びなおしていた人もいたみたいですね。
僕はもう触られ続けられているので、誰が来たのかわからなかったので助かりました。
「解散する。仕事ある」
暫く、シアさんと街の人で押し問答がありましたが、シアさんが強制的に打ち切ってくれたお陰でどうにか街の人が自分たちの仕事に戻って行ってくれました。
「ユアン、ごめん」
「こやや」
何がですか?
「適当に触らせればすぐ居なくなると思った」
それで、街の人に協力するように動いてくれていたのですね。
「こやや!」
大丈夫ですよ!
シアさんが居なかったらもっと大騒ぎになっていたかもしれませんからね。
駄目だというと、やりたくなるのが人の心理らしいですからね。
なので、少しでも満足すれば物足りなくても諦めがつくと思います。
「そう言ってくれると助かる。後で、私もいっぱい触っていい?」
「こやっ!」
「ありがとう」
それにしても、よく僕の言葉……鳴き声を理解してくれますね。
「ユアンとの繋がり。わからない訳がない」
これじゃ、シアさんから離れられませんね。
「うん。今日はずっと一緒。安心する」
「こやっ!」
よろしくお願いします!
獣化に失敗して、どうなるかと思いましたが、シアさんが一緒に居てくれるというので安心できますね。
チヨリさんの予想では、明日には戻れるみたいですし折角ですので、一日この姿で楽しむのもありかもしれませんね。
それに、獣化した時にしか使えない技みたいなのもあるみたいですし、それも試してみたいと思います!
「一応、スノーたちにも伝えておく」
「こーやこや」
そうですね。
僕の姿が見えなくて心配させてしまうかもしれませんしね。
という訳で、僕たちはこの状況を伝えるためにスノーさんとキアラちゃんが頑張っている領主の館に向かう事にしました。
ですが、その途中で…………今、一番会いたくないと思った人に出会ってしまったのです。
狐の鳴き声は「こやーん」これ大事。
皆さまも復唱してください…………「こやーん!」
今回の話は繋ぎです。
次回から本番ですよ! 割と書きたかった話なのでわくわくしています!
楽しんで頂けたら幸いです!
いつもお読みいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします……こやーん!




