補助魔法使い、魔力水を手に入れる
「あら、ユアンじゃない」
「こんにちは、フルールさん」
目的の場所に転移魔法で移動すると、いつも通りフルールさんがトレンティアの僕達のお家を掃除してくれていました。
「なかなか顔を出してくれないから、ローゼが淋しがっていたわよ」
「申し訳ないです」
僕たちも何だかんだバタバタしていましたが、きっと国境に近いトレンティアはもっとバタバタしてるのではないかと思い、僕たちも少し遠慮していました。
「まぁ、実際に今もみんな忙しそうにしているけどね」
「あれからまだ一か月ほどしか経っていませんからね」
国境での出来事が終わり、落ち着きを取り戻しつつはありますが、それでも今まで通りの日常となるのはまだまだ時間が掛かりそうです。
「それで、今日はどうしたの? ユアン一人で来るなんて珍しいじゃない」
「それがですね……」
僕は今までの経緯をざっとフルールさんに説明します。
「ついに目的が叶ったのね。おめでとう」
「ありがとうございます」
アルティカ共和国で家を手に入れた事を伝えるとフルールさんが祝福してくれます。
「こっちの家は返した方がいいですかね?」
住み始めて間もないですが、本拠を構えてしまいましたからね、こっちの家を使う機会は今後減ってきてしまうと思います。
そうなると、ローゼさんにもフルールさんにもご迷惑をお掛けしてしまうのではないかと思うのですよね。
「その必要はないぞ?」
「あれ、ローゼさん……どうしたのですか?」
「なかなかユアンが顔を出してくれぬからな、ユアンが来たらフルールに直ぐ伝えるように言っておいたのじゃよ」
どうやら、僕がトレンティアに来るのを楽しみにしていてくれたみたいですね。
「申し訳ないです」
「気にするでない。儂達もそうじゃったが、ユアン達も色々大変じゃっただろうからな」
「はい、そうですね」
といっても、実際は移住の準備をしているくらいでやる事はあまりなかったですけどね。
「で、新居はどうじゃ?」
「はい、シノさんとアリア様が建ててくれたので凄く豪華です」
「ここの家がみすぼらしく見えるくらいに?」
「そんな事はありませんよ。僕としてはこっちの家の方が落ち着きます」
これは本当です。
まだ慣れていないというのもあると思いますが、あっちの家は広すぎると僕は思います。
ですがこっちの家ならば、みんなを近くに感じる事が出来るので落ち着くのですよね。
「そうか。儂も今度遊びに行かせて貰おうかの」
「はい! 是非とも皆さんでお越しください」
「うむ。狐王とも話したい事が溜まってきたからな」
そういえば、そんな話をしていた覚えが薄っすらとあります。
いい話があったら、とかそんな話がです。
「転移魔法陣でアリア様の場所にも繋がっているので、必要なら言ってくださいね」
「うむ、助かるぞ。じゃが、その事は他言しないようにな?」
「どうしてですか?」
「まだ、ルード帝国とアルティカ共和国は正式に友誼を結んでいる訳ではないからじゃよ」
「そうなのですか?」
この前の話からすると、結構いい感じだと思いましたけどね。
「ルード帝国のトップはエメリア様ではないからな。そこまでの権限はないのじゃよ」
「そう言われるとそうですね」
あまり印象にありませんが、帝王はエメリア様のお父さんでしたね。
元皇子のシノさんが印象に残り過ぎて、シノさんが辞めたから勝手にエメリア様が一番上になったのだと思い込んでいました。
「転移魔法陣は使い方によっては脅威となる。暗殺者を送り込む事も可能じゃ。決して疑われる事はするでないぞ」
「はい、気をつけます」
そうですね。便利なので頻繁に使っていましたが、転移魔法陣は使い方によっては危険ということを忘れていました。
「それで、今日はどうしたのじゃ? その様子だとただ遊びに来た訳ではあるまい」
「はい、ちょっと欲しいものがありまして……」
フルールさんに説明した事をローゼさんにもう一度説明をしていきます。
「魔力水か……」
「はい、僕のお仕事で使いますので、譲って頂けますか?」
「それは構わぬよ。しかし、そんな使い方があったとは考えもつかなかったな」
「意外ですね」
ポーションの作り方を僕は知りませんでしたが、ハーフエルフで長い間生きているローゼさんならば知っていると思いましたので、普通に驚きました。
「ポーション自体あまり普及していないからな」
「そうなのですか? 街で売っているのをよく見かけましたけど」
冒険者にとってポーションは必需品だったりします。
僕たちのように回復魔法が使える人がいれば別ですけどね。
「ポーションはルードでは造られていないからな。魔族領かアルティカ共和国からの輸入品じゃよ」
「そうだったのですね」
「最近は、数がかなり減ってきていたがな。悩みの一つでもあったのじゃよ」
アルティカ共和国とは国境が封鎖され、魔族とはあまりいい関係を築けていない。
そういった理由から、その二ヵ国からの輸入品は品薄になっていたとローゼんさんは言います。
「そうなると、これはいい機会になるな……ユアン、お主がポーション作ったのならば、トレンティアが定期的に買い取る」
「本当ですか!?」
「うむ。値段の調整は追々決めるとして、買取の件は約束しよう」
「ありがとうございます!」
魔力水をとりにきただけが、思わぬ形で収入源を得る事が出来そうですね!
「まぁ、魔力水を無償で提供する代わりに値段の交渉はさせてもらうと思うがな」
「その辺りは確認してみないとわかりませんけどね」
まだ僕は作れませんからね。
その辺はチヨリさんに確認しない事にはわかりません。
「そうじゃな……それならば儂が直接出向いた方が早いな」
「今からですか?」
「いや、流石に迷惑が掛かるじゃろうからな。話だけ通しておいて貰いたい」
「わかりました。直ぐに伝えておきますね」
「うむ。助かるぞ……で、魔力水じゃったな。フルール、少し汲んできてもらえるか?」
「いいわよ。ちょっと待っていてね」
フルールさんの姿がスッと消えました。
「これから忙しくなりそうじゃの」
「そうなのですか?」
「うむ。トレンティアは国境に近く、観光地としての収入が主じゃったが、そこにポーションの供給が加わる。目ざとい商人であれば目をつけるじゃろうな」
まだ確定ではありませんが、魔力水を提供する事で安くポーションを手に入れる事が出来、それをそれなりの値段で売る事が出来れば儲けが出ると予想をしているみたいです。
「汲んできたわよ。まずはお試しね」
「ありがとうございます……三つもですか?」
「えぇ、需要があればだけどね」
フルールさんの手には三つの瓶が握られていて、それぞれ汲んだ場所が違うみたいです。
「中央に近いほど染み込んだ魔力が高いからな。それによって効果が変わるやもしれぬ」
「そういう事ですか。ありがとうございます」
浅瀬、中央、そしてその中間と染み込んだ魔力濃度が違う水が入っているみたいです。
どの水がポーションに適しているのかわからないためにわざわざ選んでくれたみたいですね。
ポーションに関する知識がないローゼさん達ですが、そういった考えに至れるのは凄いですね。
僕は魔力水ならば何でもいいと思っていましたからね。
僕も機転を利かせられるような人になりたいものです。
「では、また来ますね」
「うむ。暇になったらローラにも会ってくれな? 淋しがっていたぞ」
「はい、約束してずっと会っていませんので近いうちに会いに行きますね」
トレンティアを出てからローラちゃんに会っていませんし、楽しみにしてくれているのなら是非とも会いたいですね。
「それと、暇があったらキアラも連れて来て貰えるかしら?」
「キアラちゃんですか……何かあったのですか?」
「心配しなくとも何もないわよ。ただ、広い家を持ったのならば、掃除は大変でしょう? 風の精霊を使った掃除を教えてあげようと思ってね」
「それは凄く助かりますね」
ラディくんの配下が掃除をしてくれるとはいえ、完璧ではありませんからね。
家を清潔に保つ方法が他にもあるのならば是非とも教えて貰いたい所です。
という訳で、魔力水を入手し、しかもローゼさんにポーションの買取して貰える事がほぼ決まりました。
問題はチヨリさんが許可をくれるかどうかですね。
何よりもまずは魔力水を届ける事とその報告です。
僕は再びチヨリさんの所に戻るのでした。
ユアンの収入源が見つかったかもしれません。
強引すぎますかね? ですが、あの村でお金を得られないとなると他で稼がないといけませんからね。
お許しください。
本当はもう少し進める予定でしたが、時間がなくて申し訳ない。
後15分で更新予定の時間です……今回はギリギリでした。
仮眠からの本眠は恐ろしい……気づいたら朝でしたからね。
いつもお読みいただきありがとうございます。
今後ともよろしくお願いします。




