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補助魔法使い、就職先が決まる

 「あぁ、婆さんならこの時間なら店にいると思うよ」

 「わかりました、ありがとうございます」

 

 チョリお婆さんの名前はみんな知っているみたいで、街の人に居場所を尋ねると簡単に辿り着くことが出来ました。


 「ここですかね?」

 

 小さな宿屋ほどの建物の前で僕は立ち止まりました。

 平屋建ての少し大きな建物があり、山の形をした看板が目印となっていると街の人は言っていましたので間違いないと思います。


 「こんにちはー」


 建物の扉は閉まっていて、中に人がいるかはわかりません。

 

 「いないのですかね?」


 何度か外から声を掛けますが、一向に人が出てくる気配がありません。

 

 「時間をずらして改めて出直した方がいいですね」

 

 折角来たのにという気持ちはありますが、居ないのは仕方ありません。


 「おい、何してんだー?」

 「あ、こんにちは。ちょっと、この家の人に用がありまして……先に言っておきますが、不審者ではありませんよ」


 僕が一度戻ろうとすると、子供に声を掛けられました。

 僕よりも背の低い、とても可愛らしい狐の女の子です。


 「自分で不審者じゃないと言うのは逆に怪しいぞ?」

 「それもそうですね。えっと、少し尋ねたいのですが、この家の人が何処にいるか知りませんか?」


 怪しいと思われたのなら、此処に居た理由を説明するまでです。

 子供が知っているかどうかは別として。


 「知ってるぞー?」

 「本当ですか!? 教えて貰ってもいいですか?」


 まさか、本当に知っているとは思いませんでした!

 だけど、女の子は子供らしくない笑みを零すと意地悪に首を振りました。


 「わっちはお前の事は知らない。だから、教えてあげる事はできないなー」

 「えっと、僕はユアンと言います。昨日、この場所に住む事になり、この街の領主となったスノー・クオーネの仲間です」

 「そうかー。で? 他にはないのか?」

 「他にですか?」


 他にと言われても何を説明すればいいのか悩みますね。

 ちょっと、自意識過剰になっていたのかもしれません。僕の見た目は黒天狐と言われるので、この土地ならみんなが知っているような存在……と無意識ながら思ってしまっていたみたいです。

 そうですよね。

 子供に見た目で察しろと言っても難しいですよね。


 「なぁなぁ、お前は何が出来るんだ?」

 「僕は補助魔法全般が得意ですよ」

 「回復魔法もかー?」

 「はい、回復魔法も使えますよ」


 補助魔法から回復魔法を連想できる辺り、魔法の知識は少しはあるみたいですね。


 「ふむー。何しに来たんだ?」

 「僕はアリア様の紹介でお仕事を探しに来ました。アリア様は知っていますよね?」

 「知ってるぞー」


 フォクシアの女王様ですし、流石に知っていましたか。


 「そうかー。アリアの紹介かー。わかった、中に入れ」

 「え?」


 僕が驚きと疑問の言葉を発している間に、子供は勝手に建物の扉を開け、中に入って行ってしまいました。

 

 「ちょっと、ダメですよ。勝手に入ったら」

 「構わないぞ。わっちはここの住人だからなー」

 「本当ですか?」

 「本当本当」


 まぁ、そういう事なら大丈夫ですかね?

 チョリお婆さんが帰ってきたら事情を説明すればどうにかなりますよね?


 「まぁ座れ」

 「はい、失礼しますね」


 女の子に案内され、僕は奥の部屋で待たせて貰う事になりました。

 本当にこの家の住人みたいで、女の子がお茶を用意してくれました。お茶のある場所を知らなければ作れないですよね。


 「で、仕事がしたいって何がしたいんだー?」

 「はい。先ほども言いましたが、僕は回復魔法と補助魔法が得意ですからね。それで何かお仕事になるようなことが出来るかなと思いまして」


 この家の住人という事は、今後も顔を合わせる事になると思います。

 なので、僕の事を知っておいて貰った方がいいと思います。


 「ふむー。お前の名前は?」

 「あ、遅れてすみません。僕はユアンと言います。弓月の刻、リーダーのユアンです」

 「冒険者でもあるのか」

 「はい、そうですよ」


 冒険者の存在は知っているみたいですね。

 女の子の年は10歳前後くらいでしょうか? ギルドがない街で育っているくらいなので知っていないかと思いましたが、伝わって良かったです。


 「それじゃ、わっちも自己紹介をしておくぞー。私がチヨリだ」

 「チヨリちゃんですね」

 「違う違う」


 名前を復唱すると、何故か違うと言われてしまいました。発音が違ったのですかね?


 「私はお前よりも遥かに年上だぞ? 年上相手にちゃんはよくないぞー」

 「え? 年上、ですか?」

 

 流石に冗談ですよね?

 目の前に座るのは間違いなく少女。とても僕よりも年上には見えません。


 「見た目で判断するのは良くないぞ?」

 「そうですよね?」


 僕も見た目で結構判断されてきましたし、見た目だけでは測れない事があるのは確かですけど……ですが、流石に明らかに少女のような子に遥か年上と言われても困惑します。


 「という事は、貴女がアリア様の紹介にあった、チョリお婆さんですか?」

 「そうだぞー。チョリ婆ことチヨリとはわっちの事だぞ」

 

 どうやら、本当に目の前の子がアリア様が紹介してくれた人みたいです。

 けど、どうしてチヨリ婆さんではなくて、チョリ婆さんなんでしょうか?


 「それは、アリアが小さい頃に面倒を見ていて、チヨリと呼べなかったからだなー」


 チヨリと言えなくてチョリになってしまい、それがずっと続いているって事みたいですね。

 というか、アリア様が子供の頃からお婆さんと呼ばれているのですか……それでこの見た目、一体何歳なんでしょうか?

 世の中不思議な事がいっぱいです。

 ですが、そんな質問をする暇もなく、チヨリさんは話を進めます。


 「それで、ユアンはどうしたいんだー?」

 「どうしたいと言うと?」

 「わっちの所にきて何がしたいという事だ」

 「正直、アリア様に紹介されただけで何が出来るかはわかりません」

 「そこからかー。あいつも気が利かないなー」


 うーん。チヨリさんはそう言いますが、何となく違うような気がするのですよね。

 恐らくですが、本当は色々と説明出来る事はあったと思いますが、僕がチヨリさんの見た目に騙されるのを楽しみにしていたのではないかと思います。

 完全にやられてしまいましたね。


 「そうだな。ユアンはここで働きたいのか?」

 「僕の力で出来る事があるのならば、働きたいです」

 「ふむー。まぁ、わっちも助手が欲しいと思っていたし助かるが……正直無知な者は邪魔なだけだしなー」

 「えっと、何が出来れば雇って頂けるのですか?」

 「そうだなー。まずは私の仕事から説明するかー」


 チヨリさんの仕事、それは薬剤師みたいな仕事でした。

 採ってきた薬草などを調合し、ポーションを作ったり、風邪や病気に効く薬を作ったりしている仕事のようです。


 「ユアンは薬草とかの知識はあるか?」

 「正直、あまり詳しくはないです」


 冒険者と活動していますので、採取依頼が頻繁にある素材はわかりますが、専門的なものとなるとさっぱりです。


 「うーん。仕事はやっているうちに覚えるだろうし構わないかー……わかった、雇ってもいいぞー?」

 「本当ですか!?」

 「うむー。だけど、収入は期待しない方がいいぞ? 基本的にこの街はお金を使う習慣がないからなー」

 「そうなのですか?」

 「うむー。物々交換などが主流だからなー」


 となると、お金はあまり貰えないという事になりますね。

 ですが、物々交換が主流という事は、他で仕事を探しても得られる者は大差ないという事でもありますね。

 それに、僕はのんびりと誰かの助けになって暮らせれば十分です。

 収入は少なくても、その代わりに物々交換で食料を頂けるのならば、暮らすだけなら十分にやっていけると思います。

 食べる物が一番必要になりますからね。

 なので、僕はそれでも構わないとチヨリさんに伝えます。


 「ユアンがいいのならよろしく頼むぞー」

 「はい、これからよろしくお願いします!」


 やりました!

 どうにか僕の仕事が決まりました!


 「それじゃ、早速だけど、ポーションを作る為に必要な素材が足りないから採って来てくれるか?」

 「わかりました……何を集めてくればいいのですか?」

 

 ポーションの作り方はわかりませんからね、必要な物を知らなくては集めようがありません。


 「今足りないのは魔力水だなー」

 「魔力水ですか?」

 「うむー。言葉通り、魔力の染み込んだ水の事だよ」

 「えっと、これじゃダメですか?」


 僕は回復魔法の回復ヒーリング水球ボトルを宙に浮かべます。


 「悪くはないなー。だけど、これだと長期間の保存は厳しいぞー」

 「そうなのですか?」

 「うむー。魔力が詰まっているのはわかるけどなー」


 大事なのは魔力が籠っている量ではないみたいです。

 

 「魔力が水に少しずつ浸透し、水と魔力が適合した物が好ましいな」

 「難しい注文ですね。普段はチヨリさんは何処で手に入れているのですか?」


 場所がわかれば僕でも取りに行くことが出来るかもしれません。


 「基本的には輸入品だなー。色々な所から届いたが、一番質がいいのはやっぱりあそこだな」


 魔力濃度が濃い場所で湧き出る水源があれば手に入れる事は難しくないみたいです。

 そして、幸いな事にチヨリさんが質がいいといった場所は僕が訪れた事がある場所でした。

 しかも、転移魔法陣が設置してある場所で直ぐにでも行くことが出来ます。


 「わかりました。早速ですが、とりにいってきますね」

 「うむー。無理するなよー」

 「はい!」


 早速、仕事の役にたてる事になりそうです!

 僕は、チヨリさんに断りをいれ、転移魔法陣が設置してある家へと戻りました。

 一応、シアさんに念話を送り、少し街を離れる事を伝えておきます。

 シアさんから帰ってきた返事は僕を心配する内容でしたが、シアさんもアラン様の所で仕事を伺っている最中のようで離れられないとの事です。

 向かう場所はシアさんも当然知っている場所なので心配ない旨を伝え、僕は転移魔法陣である場所へと向かいました。

ユアンの仕事はチョリ婆さんの助手とちょっとしたお医者さんになりそうですね。

そして、チョリ婆さんことチヨリは流行りのロリ婆になりました。当初の予定とは違いますけどね。

今後の展開としては、少し月日が経過し、事件やらちょっとした日常が起きていきます。

短編集の寄せ集めみたいな感じになりそうですね。楽しみです。

なので、ここ数話は正直ユアン達の生活の基盤を決めるだけのお話で、退屈だった方は申し訳ございません。ここから挽回しますよー!(きっと


いつもお読みいただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いします。



~NGシーン~


「なんで看板の絵がベリーなのですか?」

「わっちがベリーが好きだからだなー」

へぇ、ベリーが好きなチヨリ婆さんですかー……


「ちょべりばぁーだな」

「?」


NGというか没でした。流石にさむすぎる……。


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