弓月の刻、火龍の翼と共に戦う
「ロイ、片っ端から吹き飛ばせ!」
「おっしゃ! 任せろぉぉぉぉ」
うわー……オーガが宙に舞っていきます。
「ルカは追撃。俺は、小さいのを相手する」
「任せて……業火の礫よ降り注げ、燃え盛る流星」
そして、吹き飛ばされ立ち上がろうとしているオーガに次々と火球が落ちていきます。
「ふむふむ、土魔法で岩を作り、それを炎魔法で燃やしているのですね」
面白い発想ですね!
そして、複合魔法を見事に扱っているのは流石Aランク冒険者だと思います。
「ユアン、感心している場合じゃない」
「そうでした。僕たちも負けていられませんね!」
何故かどちらが先に魔物を殲滅できるか勝負になってしまいましたからね。
不本意ですが、やるからには負けたくありません。
「シア、好きに動いていいよ。キアラとユアンは私に任せて」
「わかった……身体能力強化が掛かっている間に終わらせる。」
「私はゴブリンとか小さな魔物を確実に仕留めます! リカお姉ちゃんには負けません!」
「その調子! キアラ、絶対に負けちゃだめだからね!」
キアラちゃんが張り切り、スノーさんがそれを後押ししています。
ずいぶんとやる気がありますね。
何かあったのでしょうか?
「ルカ、いえ……キアラ成長したね。私も負けてられない。弓を使うのは久しぶり、だけど体が覚えている」
「エルが弓か、珍しいものが見れるかもな」
「エルは普段サポートに回ってるから、少し楽しみね」
エルさんの普段の役割は回復職みたいですので、戦いに参加するのは珍しいようです。
まぁ、前衛が二人に魔法使いが一人いますし、攻撃面では問題なさそうですしね。
弓と魔法の違いはありますが、構成的には僕たちと同じで、バランスが取れています。
しかし、今回は僕が補助に回った為、エルさんも弓を持ち魔物を倒す側に回ったようです。
「3連です!」
「4射」
キアラちゃんが得意の3連続で攻撃するのに対し、エルさんは4本同時に矢を放ちました。
「もう一度、3連!」
「………………4射」
一度に射る数が多いエルさんに比べ、キアラちゃんは細かく矢の補充を行っている為、射る速度はキアラちゃんが僅かに速いですね。
ですが、1本の差は大きいようで、倒れていく魔物はいい勝負をしています。
となると、正確さが重要になってきますが。
「キアラ、凄いよ!」
「エル、やるじゃない!」
どちらも外しませんね。
とてもいい勝負をしています。
となると、勝敗は別の所でつきそうですね。
「はっ! ふんっ! おりゃぁ!」
「……ふっ! 次」
素早く魔物の首を飛ばしていくシアさんと堅実に魔物を倒していくユージンさんの姿が目に入ります。
「こっちは対照的ですね」
大型の魔物、オーガやサイクロプスを集中的に倒していくシアさんに対し、ユージンさんは近寄る魔物全てを順番に倒しています。
「どちらも凄いですが……これではどっちが優勢かわかりませんね」
シアさんの大型魔物の処理は速く、僕側の大型は既に倒れています。
それに比べ、火龍の翼の方はまだ大型の魔物の姿は確認できます。ですが、ゴブリンやオークなどの低ランクの亡骸は明らかにこっちの方が多いですね。
「デカいのは俺に任せろ! 今は嬢ちゃんの魔法で俺は無敵だぁぁぁぁ!」
「私は、シアが残した小物でも狩ろうかな」
どうやら、大型の魔物の相手はロイさんが担当するみたいですね。
そして、僕たち側の小型はスノーさんが相手をするみたいです。
「おーらっよっと!」
「ちょっと、少しは周りの事を考えて攻撃しなさい!」
「わりぃな! だが、俺はこれしかできないからよっ!」
とても僕では振れなさそうなほど大きな戦斧をロイさんが軽々と片手で振り回し、時には魔物を真っ二つにし、時には周りの魔物ごと吹き飛ばしています。
すごく豪快な戦い方です。
これは殲滅速度が速そうですね。
「てやっ! くっ…………ちっ!」
それに比べ、スノーさんは珍しく少し苦戦をしているようでした。
何でしょう、いつものキレが見られず、剣を扱いきれていない、むしろ剣に振り回されているように魔物と戦っているように見えます。
「スノーさん、大丈夫ですか?」
「平気、だよ!」
ゴブリンの攻撃を受け、体勢を少し崩しながらもゴブリンを倒したスノーさんが答えます。
ですが、その表情、返事からしても余裕はあまり感じ取れませんね。
「先に言っとくけど、別に太ったとかではないからね!」
「わかっていますよ! こっちの事は気にしなくてもいいので、自分の事に集中してください!」
うーん……余裕はなさそうにみえましたが、僕と会話をするくらいは余裕があるみたいですね。
一体どうしたのでしょうか……何か理由でも……?
「あっ!」
「ユアンさん、どうかしましたか?」
キアラちゃんもまだ余裕があるみたいで、僕がある事に気付き、思わずあげてしまった声に反応を示しました。
「そういえば、スノーさんの武器がいつもと違いますね」
あまり気にしていなかったので気づきませんでしたが、スノーさんの動きに注目をしていると、僕はある違和感を覚えました。
そして、その違和感はスノーさんを観察する事ですぐに判明します。
「スノーさんの武器が前と違いますね」
「はい、皇女様に剣は返してしまったので」
なるほど。
スノーさんはいつもとは違う武器で戦闘をしていたみたいで、使い慣れない武器に苦戦をしていたようです。
となると、ロイさんとスノーさんを比べるとスノーさんが圧倒的に不利って事ですね。
更に、あちらはルカさんも攻撃魔法をガンガン使っています。
僕は戦闘に参加をしていませんので、実質4人対3人の勝負になっています。
となると、当然。
「残りは俺達も手伝おう」
反対側の魔物をすぐに片付けたユージンさん達が僕たちの手伝いに来てしまいました。
「負けた」
「まぁ、勝負といっても条件が違うからな」
「本当なら、もっとやれるのになぁ……」
「スノーさんは頑張っていましたよ!」
「でも、私達の勝ち」
「けど、嬢ちゃん達も中々やるな!」
「そうね、個々の実力も大したものよ」
「そうだな。そこに嬢ちゃんの補助魔法が加われば俺達と比べても遜色はないな」
勝負には負けましたが、褒めて貰えました!
僕だけでなく、仲間がAランク冒険者の方々に褒めて貰えるとすごく嬉しい気分になります。
「そういえば、嬢ちゃん達のパーティーランクは幾つなんだ? Eランクって事はないだろうしな」
むむむ……EランクでもDランクでもありませんよ。
それを証明する為に、僕は冒険者カードを取り出します。
「僕たちはBランクのパーティーで、個人ランクもみんなBランクですよ」
「「「Bランク!?」」」
火龍の翼の皆さんが声を揃え、驚いています。
「何か変ですか?」
「いや……まぁ、確かにそれだけの実力があれば当然といえば当然だが……」
「ユアンと会った時……記憶が確かならEランクだったわよね?」
「私の記憶もそう言ってる」
「がはははっ! それだけの事をしてきたって事だろう!」
まぁ、色々ありましたね。
そして、運が良かったのか悪かったのか、ポンポンとランクが上がってしまいました。
「なぁ、一体何をやらかしたんだ?」
「何って……シアさんとオーク将軍を倒して、攫われた貴族のお孫さんをみんなで助けて、そのままトレンティアまで護衛して、トレンティアで戦って……ですかね?」
ギルドを通した依頼はそれくらいですかね?
「貴族とも関わりがあったのなら、わかるな」
「しかも、トレンティアで戦ったって……帝都にも届いた事件かしら?」
「魔族が関わっていたあれね」
「しっかりやる事をやってるじゃねぇか!」
ユージンさん達が納得したように頷いています。トレンティアで起きた事件はそれなりに有名みたいで、帝都まで噂が流れていたみたいです。
「ったく……この調子じゃすぐに追いつかれちまいそうだな」
「ホントだわ。私達が何年もかかって辿り着いた場所にあと一歩の所だなんて、ちょっと悲しくなるわね」
「むしろ、私達も頑張らないと抜かされる」
「そうだな! 負けてられねぇな」
「全くだ……とりあえず、魔物を収納して後ろで戦っている冒険者の手助けに向かうぞ」
そういえば、僕たち以外にも冒険者がいたのでした。そして、その人達は今も戦っているみたいです。
「魔物の素材はどうするのかしら? 流石にこれだけの数だし、私とエルの収納魔法では収まらないわよ。半分に分けたとしてもね」
「そうだな……嬢ちゃん、俺たちは貰えるだけ貰って、後は嬢ちゃん達に譲るって形で構わないか? 嬢ちゃんの収納魔法ならこれくらい納まるだろ?」
「はい、問題なく納まると思いますけど……よろしければ魔法鞄があればそちらにしまいますよ?」
「いや、魔法鞄はあるが、大した代物ではないからな。そんな沢山収納はできないな」
「ちょっと、見せて頂けますか?」
「ああ? 別に構わないが」
ユージンさんが魔法鞄を僕に預けてくれます。
ユージンさんは大したことないと言いましたが、普通の冒険者では簡単に手に入れる事の出来ないほど良質の魔法鞄だと一目見てわかりました。
「これ、炎龍の皮ですよね?」
「そうだ。嬢ちゃんと別れた後、魔法道具店で作って貰ったんだ。全員分な」
訂正します。
普通の冒険者どころか、選ばれた冒険者しか手に入れる事の出来ないような代物です!
「お見事ですね」
「見た目はな……だが、俺たちは冒険者だ、重要なのは機能性、正直見た目だけ良くても意味はないな」
なるほど、大したことないというのは機能性の事でしたか。
ですが、そこは問題ありません!
何せ、僕はこういった魔法道具を改良するのは少し得意ですからね!
「これを、こうして……ここはこう、ですね!」
「おいおい、嬢ちゃん!」
「大丈夫……ですよ! はい、出来ました!」
シアさん達が持っている魔法鞄と同じ効果に仕上げてみました!
容量を増やし、階層を2段階に分け、本来ならば、袋の入り口よりも大きなサイズは収納できないのですが、それも袋と外を繋げる事で収納できるようにしました!
「嘘、だよな?」
「本当ですよ、ほらみんなやってます」
既に、シアさん達が魔物の回収を始めています。魔法鞄を魔物にあてると、魔物の姿が一瞬で消えます。
「まじかよ……まじかよ!」
「もしかして、魔物を分解する手間が省けた?」
「それだけじゃない。回収速度が格段にあがる」
「がはははっ! 嬢ちゃん、すげぇな!
ユージンさんは放心していますが、他の方たちには喜んで貰えたみたいですね。
「お役に立てて良かったです。では、回収して合流しましょうか」
「あぁ……そうだな。なぁ、ルカ……やっぱり嬢ちゃんはあの時に強引にでもうちのパーティーに加えておくべきだったかな?」
「欲しかったわね。だけど、離れたからこそ、もう一度その縁に巡り合えたんじゃない?」
「それもそうかもな……」
あの時、僕が火龍の翼に加入していたら……どうなっていたのでしょうか?
もしかしたら、今のような関係になっていなかったかもしれませんし、仲違いをした可能性もあります。
ですが、たらればを考えても仕方ありませんし、何よりも、シアさんともスノーさんともキアラちゃんにも会えませんでした。
そう考えると、あの時に加入しない選択をした僕を褒めてあげたいですね。
僕にとって一番はやっぱり弓月の刻としてみんなと一緒に居られる事ですからね。
「嬢ちゃん、改めて礼を言わして貰う、色々とありがとうな」
「いえ、たまたまでしたからね。皆さんが無事で良かったです」
「それでもだ、手伝って貰って、魔法鞄まで改良して貰って、感謝しない訳にはいかない」
「えへへっ、その言葉だけでも十分です。あ……それなら」
「嬢ちゃんが、いや弓月の刻が困っていたら手助けしてほしい、だろ?」
むー……先に言われてしまいました。
「これも2度目だからな」
「もしかしたら、3度目もあるかもしれませんけどね」
「その時はまたよろしく頼むよ。まぁ、その前に借りは返させて貰うけどな」
「では、お互い様って事ですね!」
「そうだな……おっ、騎馬隊が見えてきたな」
砂塵が上がり、騎馬たちが近づいているのがわかります。
そして、騎馬が未だ魔物たちに苦戦する冒険者の援護をはじめました。
やはり、冒険者達は捨て駒として扱われている訳ではないみたいですね。
そして、その中から一騎、僕たちに近づいてくる騎馬がいます。
「お待たせしました。魔物の殲滅後、我らが一度壁を作ります。冒険者殿達は一度後方へと下がり、体勢を立て直してください!」
「助かる」
「では、我らはこれで!」
それだけ伝え、騎馬は去っていきます。
「あの人達、強い」
「そうですね、冒険者が苦戦していた魔物をすぐに倒しちゃいましたね」
「それなら直ぐに援護して欲しかったです」
「そうもいかないよ。序盤で騎馬隊を失うのはリスクが高いからね」
騎馬隊を温存した結果が今になるわけですからね。騎馬隊を失っていたら、冒険者達は引き続き前線で戦う事になったと思います。
きっと、それも戦術の一つなのですね。
僕には到底考えつかない事です。
「まぁ、休めというなら休むか」
「その前に、冒険者達に一言いいかしら?」
「無能に一言ね」
「やめとけやめとけ! 結果的に俺たちが一番儲かったからな!」
「そうだな。それに、言うだけ無駄だ。戦いはまだ先がある……休む事に専念するぞ」
ルカさんとエルさんは納得いかない顔をしていますが、ユージンさんに宥められ仕方なく従っています。
まぁ、面倒ごとを押し付けられたとなれば仕方ないですよね。
「僕たちはどうしましょうか?」
「また中央の方に戻る?」
「任せる」
「向こうの状況次第かな?」
ユージンさん達は下がるみたいなので、また別行動になりそうですね。
っと僕たちの次の行動を相談していると、ユージンさんが声をかけてきました。
「おい、もしかしてまだ戦うつもりか?」
「はい、ここに着くまで少し休みましたからね」
何だかんだ、休憩はとっていますので、あまり休み過ぎると申し訳ないです。
「そういう所はまだまだだな。いいか、疲労というのは蓄積する、少し休憩をとったからといって直ぐに回復はしない。長く冒険者を続けるつもりならば、まずは自分たちの事を考える事だ。一番大事な時に動けないのが一番邪魔となるからな」
「そうですかね?」
「そうよ。だから、一緒に休まない? 折角だし、話したい事もあるし、ユアンをモフモフさせて貰ってないわ」
ユージンさん達がそんな提案をしてくれます。
「どうしますか?」
「任せる」
「私は少し休んでもいいかと思います。お姉ちゃんともまだ話す事はあるので……」
「それに休むといっても、軽く食事や水分を補給するくらいだし、移動を考えればこっちに居るのもありかな」
そうですね、後ろに下がったからといって、いつまた前線に向かう事になるかもわかりません。
それならば、こっちに留まった方が効率は良さそうです。
「わかりました。少し、ご一緒させて頂きますね」
「あぁ、それじゃまずは冒険者達と合流をしよう」
「ユージン、あいつらが舐めた態度とったら……いいわよね?」
「……殺さない程度ならな。だが、出来るだけ争いは避けてくれ、向こうも手負いだろうからな」
「考えとく」
「とりあえず、飯だ飯! 腹が減ったからな!」
そんな訳で、僕たちは冒険者達と合流をすることになりました。
その後、まだ息のあった魔物が立ちあがり、ルカさんが明らかにオーバーキルとなる攻撃で仕留め、冒険者達を震え上がらせるという一面もありましたが、少しだけ休憩をとる事ができました。
ですが、今も前線では戦いが繰り広げられています。
また、僕たちの出番はきます。
その時を、今は待つのでした。
更新できました!
思った以上に早く帰れて良かったです。正直くたくたですけどね。
ここから終盤戦に差し掛かる……と思いますので、楽しんで頂けたら幸いです。
いつもお読みいただきありがとうございます。
ブックマーク、評価ありがとうございます、励みになっています。
また、誤字報告も非常に助かっています。
今後ともよろしくお願いします。




